地上最速ヒーローが、時空を超えて活躍する超高速タイムループ・アドベンチャー『ザ・フラッシュ』がついに公開された。フラッシュバットマン、スーパーガールなどDCヒーローが集結する本作の日本語吹替版で、スーパーガールの声を担当するのが橋本愛。アニメーションでは声優として活躍している彼女だが、洋画の吹替えは本作が初挑戦。その役作りから収録の現場について、そして何度も涙したという本作に心動かされた理由を明かしてくれた。

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■「さりげないやりとりがのちのストーリーにつながっていきます」

超高速移動の能力を活かし人々のために活躍しているフラッシュことバリー・アレン(エズラ・ミラー)。彼は幼いころ、母ノラ(マリベル・ベルドゥー)を何者かに殺害されるという苦い経験を持っていた。バリーはもう一度母に会いたい、そして、殺人の容疑で投獄された父ヘンリー(ロン・リヴィングストン)の無実を証明したい一心で、時空を超える能力を使って母が殺された“あの日”に戻り悲劇を回避。そのことで時間が歪み、かつてスーパーマンが倒したはずのゾッド将軍(マイケルシャノン)が現れ、地球征服を目論む。世界の危機を前にバリーはバットマン(マイケル・キートン)に協力を求めるが、そこに加わるのがスーパーガールことカーラ(サッシャ・カジェ)だ。

「大迫力のアクションシーンに興奮したし、温かみある家族愛や人間愛に何度も涙しました」という橋本がまず圧倒されたのが、冒頭のアクション。「フラッシュが、崩れゆく病院から赤ちゃんを救うシーンにまずびっくり(笑)。見ていてヒヤヒヤしました。もちろんクライマックスのバトルもすごい迫力です」。一方、胸に刺さったのが、回想シーンとして描かれる少年時代のバリーと母親ノラのやりとり。『僕のほうが愛してるよ(I love you more)』という息子に、ノラが『私のほうが先に愛したのよ(I loved you first)』とほほえみ合う描写。「さりげないやりとりですが、それがのちのストーリーにつながっていくんです。“先に(first) ”という言葉ひとつにいろんな解釈が含まれていて、すごくステキな表現だと思いました」と愛情あふれるひと幕に触れた。

■「役作りの核の部分は同じでも、表現としてはまったく別のものとして演じました」

橋本にとって初めての洋画の吹替え作品。役作りは普段演じるのと同じように行ったという。「カーラという人物の根幹を自分のなかに作る行程からたどり、そのうえで役を演じたカジェさんの表情や声から伝わってきたものを声に乗せました」。カジェの声の印象を尋ねると、低い声域で魅力な声だったと回顧。「力強さがあってかっこよかったですね。でもそれだけでなく、繊細さや優しさ、温かさも表現していたんです。そんな彼女の演技に寄り添うよう心掛けました」。ただしカーラの役柄はミステリアスな部分も多いだけに、想像力で補完した部分もあったという。「彼女が惑星クリプトンを離れ、故郷の崩壊を目の当たりにした時、どんな気持ちになったんだろうと思うんです。家族や故郷と引き裂かれるのは、想像もつかないくらい壮絶な体験じゃないですか。その体験が彼女の行動の原動力につながっていると考えました」。

吹替え収録については「マイクから離れちゃいけないし、リップシンクやタイムコードなど制約があるなかでの表現は、新鮮で楽しかった」と振り返る。バトルシーンでは絶叫にも挑戦した。「『うおー!』とか『うわ!あああー』と叫ぶんですが、すごく楽しかったです」。そのなかで、アクセントの置き方を特に心掛けたそう。「セリフのどこにアクセントを置くべきか。例えば“わ”が少し“あ”に聞こえたので、そこを意識して発音したり。普段演じるなかではあまり意識しない部分だったので、そこが少し難しかったです」。ヒーロー役ということで強さを印象づけるために気をつけた点もあったという。「カーラはすごくかっこいい女性なので、声色に色っぽさが乗らないようニュアンスも意識していました」。そんな橋本の声質にアンディ・ムスキエティ監督は「声質やトーンを聞いた瞬間に役にピタリとハマった」と太鼓判を押した。「オーディションの声をアンディ監督がすごく喜んでくださったと聞いたので、この路線でもっと磨き上げていこうと思いました」。

テレビアニメ「なつなぐ!」では主演、映画『僕が愛したすべての君へ』(22)ではヒロインを演じるなど、アニメーションでは声優としてキャリアを重ねてきた橋本。「初めての時は、声だけのお芝居独特の抑揚を意識していませんでした。役に入れば自然に波ができると思っていたら、ほかの声優さんの演技に比べ自分の声がすごくフラットに聴こえてしまって…。そのことで声のお芝居の時は伝える濃度を少し高めることが必要だと学びました。そんな経験値がちょっとずつ自分のなかに積み重なっていると思います」。アニメーションでの経験は、吹替えの演技にもプラスに作用したという。「吹替えも、普段演じる時と同じでは通用しないと思って臨んだんです。役作りの核の部分は同じでも、表現としてはまったく別のものとして演じました」とアプローチを明かしてくれた。

■「理想のヒーロー像は“視野が広い人”」

本作には、フラッシュやカーラのほかバットマンも登場する。DC作品のなか、橋本がまず思い浮かべるヒーローがバットマンだという。「私にとってバットマンは『ダークナイト』のイメージが強いので、クールでミステリアス、なによりシリアスなイメージが強いですね。でも今回はもっとラフで少しユーモラスな面も持っているので、新しいバットマンに出会えた!と楽しめました。でも強さやかっこよさ、なにより信念の強さはこれまでと同じでしたね」と笑顔を浮かべた。

自身にとって理想のヒーロー像を聞くと「視野が広い人」をあげた。「以前、自分の視野の狭さを思い知ったことがあったんです。それから歴史や文化を学ばないと、いまある世界の本当の姿も見えてこないんじゃないか、と思うようになりました。そうすることでいま見ている世界の解像度もすごく上がるし、深度もどんどん深まっていく。そんな自分になれることを目指しています」と目を輝かせる。

■「なにかを守ることのすばらしさだけでなく、残酷な一面を見せてくれます」

「めちゃくちゃおもしろい、といろんな人に勧めています」とすっかり『ザ・フラッシュ応援団になった橋本。彼女がなにより魅せられたのは、ヒーローの光と影に向き合った真摯な姿勢だったようだ。「アクションがすごいのはもちろん、彼がなぜヒーローたりえるのか、その原点がきちんと描かれているところが好きなんです。大切な人を守ったり、失った人を甦らせようとするフラッシュの行為はすごく純粋ですてきなことだけど、それによって傷つく人がいたり、傷つく世界もある。なにかを守るということのすばらしさだけでなく、残酷な一面も見せてくれているんです。たとえ正義であっても100%美しい正義はないし、一人残らずみんなを救えるヒーローだっていないと思う。そういう残酷さやせつなさ、やるせなさも一緒に描いているところがなによりすばらしいと思います」。

取材・文/神武団四郎

『ザ・フラッシュ』日本語吹替版キャストの橋本愛にインタビュー!/撮影/興梠真穂