現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。

【動画】「サイレンの女王」とも評されるエリー・コニファー、伝説のモノマネの原点

 育成プロジェクト・バーチャル・タレント・アカデミーVTA)から多くのメンバーもデビューしており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与えるだろう。

 今回紹介するのは、以前紹介したラトナ・プティ天宮こころと同時期にデビューしたエリー・コニファーだ。2019年8月8日に初ツイート8月13日に初配信を迎え、無事にデビューを果たした彼女は、独特の雰囲気・空気感を漂わせるライバーとして注目されてきた。

 頭には水色のヘッドドレス、濃淡で違いのある青色に白色も合わさったメイド服、所々にあしらった花飾り、明るい茶色の髪をおさげにし、水色の瞳でこちらを見やる姿は、幼げながらも爽やかな印象を受ける。

 そんなビジュアルにくわえ、ハイトーンな声色と非常に丁寧な言葉遣いをするために、「礼儀正しさ」「清楚さ」といった一面においてはシスター・クレアと並ぶほどに印象深い人物だろう。

 相手が先輩であれば「様」「先輩」、後輩であれば「さん」と必ず丁寧に呼びかける。相手に対する思い入れがあれば「先生」「お姉さま」などと、特別な呼び方をすることもあり、常に自分を一歩引いた立ち位置に置いて相手を尊重するタイプだ。この謙虚さはにじさんじのなかでも、いやVTuber~バーチャルタレントシーンを見回しても際立つ。

 同期の天宮こころが“龍の巫女”、ラトナ・プティが“レッサーパンダの冒険家”であるように、エリー・コニファーは“花の妖精”としてデビューを飾った。ルックスや声色、雰囲気にくわえてなにより3人のバックグラウンドがファンタジー色にあふれたものであることも特徴的。

 3人が揃うと、それぞれが「ふわふわ」「ぽわぽわ」「まったり」としたムードになりがちなところが由来となり、「ぽさんけ」と称されるトリオでもある。デビューした直後の2019年10月29日にはラトナ・プティの自宅にお泊まりをする様子を配信しており、初々しい3人の姿を知ることができる。

 エリーは丁寧“すぎる”とまで感じるほどの礼儀正しい口調で配信を進めるだけでなく、自身の配信内で使う“オリジナルワード”が多数あるのも特徴的だ。たとえば「スーパーチャット」のことを「スパティー(スーパーチャットスパチャ→スパ茶と転じた言葉)」と呼び、配信をおこなうためのネット環境を「妖精通信」、エリー自身が働く「お屋敷」、ほかにも「りんご印の魔法盤(iPadのこと)」などもある。

 メイド業に勤しみ、パーラーメイド(接客を担当するメイド)として紅茶などを給仕する立場であるため、関連する用語・言葉を口走ることも多い。西洋の紅茶や洋菓子に詳しいだけでなく、自身の配信画面も西洋風に仕上がっており、雑談のBGMにクラシック楽曲を使っているのも特徴的だ。

 その言葉遣い・振る舞いからは正統派メイドのムードを漂わせ、西欧的な印象をリスナーに与えるエリー・コニファーは、他のVTuberと一線を画す存在だ。極めつけに、彼女はデビュー以前からフルートを嗜んでいることも語っている。折を見てその演奏を披露してきており、彼女のルックスや振る舞いと演奏も相まって“優雅”という一言が口をついて出てくるだろう。

エリー・コニファーと社築を奇妙な師弟関係で繋いだ“音ゲー”の存在

 お淑やかで慎ましやかに……そんな彼女の口調・振る舞いを見ていると、思わずそういった言葉を使いたくなるだろう。だが一方で、エリーはメイドとしての品格を持ちつつ、「配信者」としての素養もしっかりと持ち合わせている。

 じつは彼女、テンションが上がってくると声が普段よりもハイトーンになり、ワタワタとした口調になることが多い。おっちょこちょい・あわてんぼうな一面も持っており、驚いたときには「およよよ!」「あわわわ!」「はわわわ!」などといった口癖が出てくる。

 デビュー初期にプレイしていた『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』『アサシンクリード シンジケート』では彼女の“あわあわ”とした様子を見ることができる。

 また、実際にエリーと会ったことのある鷹宮リオン曰く、打ち合わせからの帰り道横断歩道を「どりゃぁあああ!」と声をあげながら爆走していたというのだから、実際の彼女はなかなかにアッパーな人物なのかもしれない。

 お淑やかで慎ましやかなイメージとは一転するような“ぶっ飛んだ”一面は、配信中のリアクションにおいてよりエッジの効いた形で表現されることが多く、また大型企画『にじさんじ甲子園』の名物企画“サイレン声マネ”では毎年のように非常に高レベルなモノマネを披露。声真似のうまさや画面作りのローテク具合が絶妙にマッチした内容には、“にじさんじ”らしさが詰まっている。

 同期の天宮こころラトナ・プティと異なり、FPSなどのゲームスキルは決して高いわけでないが、音楽ゲームにおいてはにじさんじ内でも有数の実力者として知られている。フルートを嗜んでいることもあり、磨かれた音楽センスがうまく活かされているのだろうか。

 2019年8月27日に『DEEMO』を初めてプレイし、デビューしてすぐにその実力を示していたが、当時はライブ配信で音楽ゲームをプレイするライバー自体が少ない時期だったため、スポットライトを浴びるのはもうすこしあとのこととなる。

 2020年10月7日に『beatmania IIDX ULTIMATE MOBILE』を初プレイ。にじさんじ内でトップオブトップの実力を持つ社築に次いで2人目のプレイヤーとなり、その後徐々に配信上で音楽ゲームをプレイすることが増えていくことになる。

 2020年10月からは『Cytus α』をプレイし始め、2021年1月5日には作品ファンからも“難しすぎる”という声が多数寄せられた楽曲「L」を配信上でプレイした。

 あまりの難易度ゆえに、簡易版を追加することにもなったという超難曲をプレイしていると、楽曲制作者であるice本人が配信のコメント欄に登場し、本人の口から楽曲「L」に関する裏話やストーリーについて解説されるという豪華な配信へ発展。

 エリー自身の巧みなプレイングにくわえて、楽曲制作者ice本人の解説がおこなわれるという、『Cytus α』ファンにはたまらない内容だろう。こうした機会も経て、徐々に作曲家や音ゲーマーに彼女の存在やその実力が知られ始めることになった。

 ちなみにiceが登場した際、氏の一挙手一投足に「うぇ!!? じょっじょっうはぁああああ!?!?!」などと声にならない声をあげており、あわてんぼうな彼女の一面を楽しむこともできる。

 1月25日には『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』を初めてプレイすると、その後彼女の配信では、前述の『beatmaniaIIDX ULTIMATE MOBILE』とともにこの2作がメインタイトルとしてプレイされるようになっていった。

 にじさんじ、そして音ゲープレイヤーの先輩である社築からは、音ゲーのプレイに関するテクニック・知識、配信上で注意すべき部分などを教え込まれており、「師匠」と呼んで非常に慕っている。

 自身の3Dお披露目配信では『beatmania IIDX』を3D空間で2人プレイするというとんでもないシーンを見せてくれ、『プロジェクトセカイ』を使って社とともににじさんじ内で初の音ゲー大会を開催。

 その後も音ゲーに関係する公式イベントにゲスト出演する機会が増え、彼女の活動において音楽ゲームは無くてはならない存在となったのだ。

■首の持病に苦しめられながらも、チャンネル登録者数20万人を達成

 元々音楽ゲームこそプレイしていたエリーだが、『beatmaniaIIDX ULTIMATE MOBILE』に興味を持ったきっかけが、首の痛みを感じていた彼女がMRI検査を受診したとき、検査機から聞こえた特徴的な機械音が徐々にクラブ・ミュージックのように聴こえてきたことからだという。

 きっかけがどこか斜め上の理由というのも彼女らしいエピソードだが、単なる笑い話では済まなかった。このとき抱えていた首の痛みは、後の配信活動に大きな影響を与えてしまっている。

 そもそも2020年7月に「首に激痛が……」とツイートして以来、数か月にわたって首の痛み・吐き気などの症状に悩まされていたエリーは、10月に先述したMRI検査を受診した。

 診断の結果は「頸椎ヘルニア」と、かなり重たい病状であったことが判明。一時期は首にコルセットを巻いて生活するほどで、その後も数年に渡って首の状況によって配信活動が左右されることとなる。

 事前に配信のアナウンスをしても、当日になって首の痛み・身体の不調が発生し、突然休むことが増えてしまうなど、彼女自身も「ファンの皆さんに申し訳ない」と口にすることが増えていくことになった。

 配信活動がうまくいかない焦り・悔しさを見せることもあったが、リハビリを重ねた結果、首の状態もだいぶ回復傾向にあり、配信する回数も年を経るごとにグっと増えている状況だ。

 2023年5月30日には自身のYouTubeチャンネル登録者数が20万人を突破し、彼女を見守るファンはこの数年で随分と増えた。事を急いで進めることなく、まずは体を万全にし、"パーフェクト・エリー"の姿を見せてほしいと願うばかりだ。

(文=草野虹)

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