年に1度は人間ドックを受けるという人は多いでしょう。しかし、一般的な人間ドックでは整形外科の項目が含まれず、一生自分の脚で歩行するために必要な「股関節の異常」は見逃されがち。そこでぜひ受けてほしいのが「股関節ドック」だと、東京ヒップジョイントクリニックの狩谷院長はいいます。「股関節ドック」とはなにか、とりわけ受診すべき人の特徴・共通点とは、みていきましょう。

「股関節ドック」が重要なワケ

一生、自分の脚で歩き続けたいのであれば、「股関節が健康であること」は欠かせない項目です。多かれ少なかれ、股関節は老化とともに衰えていきますが、自身の現在の状態をしっかり把握しておくことは、将来にわたって足腰の健康を保つために重要です。

そこで筆者がおすすめしたいのが、「股関節ドック」です。

実は、股関節に特段痛みや違和感などがないときでも、股関節の状態を徹底的に調べておくことが重要です。なぜならば、30〜40代で知らず知らず発症していた痛みをともなわない股関節のトラブルが、年齢を重ねるうちに「変形性股関節症」といった大きな疾患へ変わるケースが多いからです。

「股関節ドック」という名称を掲げて検査を行っている医療機関はそれほど多くありませんが、「股関節の状態を調べてほしい」とお願いすれば、たいていの医療機関は必要な検査を行ってくれるはずです。

女性の7~8割が無自覚で発症している「臼蓋形成不全」

股関節ドックで見つかりやすい症状のひとつに、「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」があります。これは、特に女性に多くみられ、骨盤の臼蓋が発育不全である状態のことをいいます。

そもそも股関節は「骨盤側」と「大腿骨側」に分けられ、骨盤側の“屋根”が大腿骨に覆い被さることで可動域が広がり、自由度の高い動きが可能になります。しかし、骨盤側の“屋根”が足りないと、大腿骨の頭の部分(大腿骨頭)の一部分でしか体重を支えることができなくなってしまうため、関節が損傷を受けてしまうのです。

その結果、加齢とともに変形性股関節症へ進行し、歩行時の痛みや股関節の違和感を引き起こします。症状がひどくなれば、人工関節への置換も視野に入れ、治療を考えなければなりません。

この臼蓋形成不全は、遺伝的要因と環境要因の関与が指摘されており、特に、日本人などアジア人の女性に多くみられることがわかっています。

10~20代までは無症状であることが多く、30~40歳くらいから「股関節の痛み」「股関節の動かしづらさ」などの症状が現れやすくなります。しかし、症状がない人も多いため、自分では気づかないうちに臼蓋形成不全を発症し、加齢とともに変形性股関節症へ移行してはじめて気づく人も少なくありません。

実は、日本人女性の70〜80%が臼蓋形成不全を発症しているともいわれています。将来的な変形性股関節症のリスクを軽減するために、できるだけ早いうちに臼蓋形成不全の有無を調べておくことをおすすめします。

自覚症状なしに「指定難病」にかかっている可能性も

股関節ドックで見つかる疾患には、先述した臼蓋形成不全のほか、「特発性大腿骨頭壊死症(とくはつせいだいたいこつえししょう)」があります。これは、大腿骨頭の一部が壊死に陥った状態のことです。現在、日本では厚生労働省により指定難病とされており、医療費補助の対象となっています。

原因については長年研究が進んでいるものの、まだ解明されていません。しかし、以下の習慣が発症に関与しているとされています。

ステロイドを服用している ・アルコールを多飲している ・喫煙の習慣がある

特発性大腿骨頭壊死症は男女ともに発症しますが、女性の場合はなんらかの治療のため、ステロイド剤を使用していることが原因で発症するケースが目立ちます。一方、男性の場合はアルコールや喫煙が原因で発症することが多いとされています。特にアルコールについては、国際的に以下の基準が定められています。

「あらゆる種類のアルコール飲料を、400 mL/週(もしくは320 g/週)を超えて摂取し、かつそれを6ヵ月以上継続している」と、特発性大腿骨頭壊死症のリスクが高まる

※ 公益財団法人難病医学研究財団 難病情報センター「特発性大腿骨頭壊死症(指定難病71)」

特発性大腿骨頭壊死症が発生した時点では、特に自覚症状はありません。しかし、骨が壊死した部分が潰れ、大腿骨頭に圧潰が生じると、急激な股関節痛や、腰痛、膝痛、臀部痛などが起き、症状がひどくなれば日常生活が困難になります。

上記の基準量を超えたアルコール量を摂取している場合は、1度、股関節ドックを受けることをおすすめします。

若いころに比べて体重が増えたなら、1度「股関節ドック」を

筆者が2016年8月に世田谷区千歳烏山で開院した際に行っていた「股関節ドック」の内容は、以下のとおりです。

●股関節レントゲン ●MRI ●骨密度 ●リハビリテーション ●診察 ●内臓脂肪評価

レントゲンやMRIで股関節の状態を詳細に把握したのち、骨密度を計測して、骨粗鬆症のリスクをはかります。また、内臓脂肪が多ければ股関節に多大な負荷をかけるため、その数値も正確に記録し、減量の必要性を確認します。

金額は医療機関によって異なりますが、参考までに、筆者が以前勤めていた医療機関では5万5,000円で行っていました。

特に以下の人は股関節に関する疾患を発症するリスクが高いとされているため、股関節ドックを受けてみてはいかがでしょうか。

●赤ちゃんの時に股関節脱臼があるといわれた  ●出産を機に体重が増えた ●若い頃に比べて体重が10kg以上増えた ●親族や家族で股関節が悪い人がいる ●腰に負担のかかるスポーツや労働をしていた、あるいは、している ●アルコールを多飲している ●喫煙の習慣がある ●ステロイドを常用している

股関節ドックを受け、臼蓋形成不全や特発性大腿骨頭壊死症を指摘された場合は、少なくとも1年に1度は詳しくチェックするようにしましょう。また異常が見つからないとしても、加齢とともに変形性股関節症を発症するリスクがあります。医師と相談しながら、定期的に検診を受ける習慣をつけましょう。

狩谷 哲

東京ヒップジョイントクリニック

院長

(※写真はイメージです/PIXTA)