日本人にとって、性格診断や占いなどで目にすることの多い血液型。しかし、血液型はどのように決まるのかといった基本的な仕組みを含めて、詳しく理解している人はごくわずかでしょう。そこで、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師が、血液型が決まる仕組みに加えて、両親の血液型の組み合わせからどのように子どもの血液型が決まるのかについて解説します。
「血液型」はどのように決まる?
まず、血液型と聞くとA型、B型、O型、AB型の4種類を思い浮かべる人が多いでしょう。ただ、実は「血液型=4種類」ではありません。
私たちが慣れ親しんでいるのはABO式血液型と言われるもので、国際輸血学会(ISBT)に公認された血液型システムは44システムあります(2022年9月時点)。
しかも44システムを決定する抗原は345種類、遺伝子も48種類におよび、数千人に1人の稀な血液型もあれば、特定の民族や家系にのみ多くみられる血液型もあるのです。
ABO式血液型は血液に存在する細胞のひとつである赤血球の表面にある物質によって分類されています。赤血球は血液が赤い理由となっている細胞です。
この赤血球の表面にある赤血球細胞膜はオリゴ糖鎖と呼ばれる構造物が存在します。このオリゴ糖鎖は各血液型に共通する構造が存在します。
そこにさらにN-アセチルガラクトサミンという物質が結合するとA型、ガラクトースが結合するとB型、どちらも結合するとAB型、どちらも結合していないとO型になります。
ちなみに日本人では、A型38%、O型31%、B型22%、AB型9%ですが、たとえばアルゼンチンではA型40%、O型47%、B型10%、AB型3%と、人種によってばらつきがあります。
ABO式血液型を決める酵素の有無はどうやって決まる?
体内の酵素の働きでABO式血液型は決まります。では、その酵素の有無はどうやって決まるのでしょうか? この酵素の有無を決めるのが遺伝子です。遺伝によって酵素の有無が決まり、それによってABO式血液型が決まるのです。
A型ではN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(ここではA型遺伝子とします)、B型ではガラクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(B型遺伝子)を持っています。
人の遺伝子は染色体として体内に存在します。染色体は2本で1対となっておりこの2本の染色体の組み合わせで血液型が変わるのです。
たとえばA型遺伝子を含む染色体とA型遺伝子を含む染色体の組み合わせを持つ人はA型になります。B型遺伝子同士でも同様です。A型遺伝子を含む染色体とB型遺伝子を含む染色体を持つ人はAB型になります。
O型遺伝子を含む染色体とA型遺伝子を含む染色体の組み合わせではA型を作る酵素が体内に存在するということになるのでA型になります。B型とO型の組み合わせも同様です。
つまりABO式血液型は持っている2つの染色体から以下のように決定されます。
A型:①A型遺伝子×A型遺伝子(AA型)、②A型遺伝子×O型遺伝子(AO型)
B型:①B型遺伝子×B型遺伝子(BB型)、②B型遺伝子×O型遺伝子(BO型)
O型:O型遺伝子×O型遺伝子
AB型:A型遺伝子×B型遺伝子
子どものABO血液型はどうやって決まる?
遺伝子というのは2本の染色体が1対になっているのですが、親から子どもへは1本ずつの染色体が引き継がれます(お父さんの2本の染色体のうち1本とお母さんの2本の染色体のうち1本という具合です)。
たとえばAB型のお父さんとBO型のお母さんから生まれた子供を考えて見ましょう。
お父さんにはA型遺伝子とB型遺伝子があり子どもはどちらか1本を受け継ぎます。
お母さんにはB型遺伝子とO型遺伝子がありこちらもどちらか1本を受け継ぎます。
たとえばお父さんからA型遺伝子、お母さんからB型遺伝子を受け継ぐと子供はAB型になるのです。
こどもがありえない血液型だった!と焦る前に
実は小児科では保育園の健康調査書などに「血液型」を記載する欄があることや、単純に知りたいという希望で血液型の検査をすることがあります。そのときにAB型の父親とA型の母親から本来は産まれるはずのないO型の子どもが生まれてきた……という事例があります。
前の説明に戻っていただければ、AB型の父とA型の母からはO型の子どもは生まれるはずありません。
しかし、ここで「このお子さんは、この両親からは生まれるはずがない!」と決めつけてしまうは早計です。
本章の冒頭で「通常」染色体1本に存在する血液型の遺伝子は1つです。と説明しましたが、これには例外があります。1本の染色体にA型遺伝子もB型遺伝子も両方存在するシスAB型という染色体が存在するのです。
シスABの染色体1本とO型遺伝子を含む染色体を持つ父親からO型遺伝子を受け継いだ場合、母親からもO型を引き継げばO型の子どもが誕生するということになるのです。
まとめ
今回はABO式血液型の基本と特殊な例を解説しました。以前は特殊な血液型がわかっていなかったため、ABO式血液型ではありえない親子関係が推測され、親子鑑定訴訟で誤った判決が出た事例がありました。
現在では、ABO式の血液型には特殊な例があること(ボンベイO型やシスAB型など)がよく知られています。そのため、裁判所は基本的に血液型に依拠して親子関係を判断することはなく、精度の高いDNA型をもとにした親子鑑定を求めるのです。
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医
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