核時代の今日、真の大国と言えるのは、核保有国のみである――。

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 なぜなら、核をもたない国は、国家の存続の基本を他国の核抑止力に依存するか、核保有国からの核脅威に一方的に曝され、恫喝を受ければ屈するしかないためである。

 我が国は唯一の被爆国であるが、核不拡散条約(NPT)を批准し、核抑止力を米国に全面的に依存するという政策を採ってきた。

 米国の拡大核抑止に依存するのであれば、その信頼性について、客観的合理的に各種要因に基づき分析検討しなければならない。このことは、わが国の安全保障の根幹に関わる、死活的に重要な課題である。

 以下では、拡大核抑止の信頼性を左右する主要な要因である

①理論面からみた拡大核抑止における抑止力提供国の防御国と、抑止の提供を受ける被保護国との根本的な国益上の対立

②米国と潜在的な敵性国との核戦力バランス

③米国と敵性国の核兵器インフラの現状と核兵器運搬手段の趨勢

ミサイル防衛システムの極超音速ミサイル撃墜能力について分析する。

 最後に、日本が核保有する必要性とその在り方について述べる。

理論面からみた防御国と被保護国との国益上の利害対立

 核戦争の危機が迫った段階では、被保護国(日本)は、防御国(米国)に対し、防御国自らが核戦争に巻き込まれるリスクを犯してでも、誓約通り、核の傘を提供することを要求し、挑戦国(中朝ロ)の核恫喝に屈することなく自衛戦争も辞さないであろう。

 それに対し防御国は、究極的には、挑戦国との核戦争へのエスカレーションを恐れて、被保護国が挑戦国に譲歩するように強いて、戦争を回避することが死活的国益となる。

 すなわち、防御国も被保護国も自国の存立を問われる危機に直面すれば、どちらも自国の安全と存続を最優先するため、そこに決定的な国益の対立が生ずることを意味している。

 言い換えれば、拡大核抑止は理論的原理的に成り立たず、「自国を守るため以外に、核兵器を使用する核保有国はない」ことになる。

 このことは、スエズ動乱などの史実でも実証されている。

米国にとり不利な潜在敵性国との核戦力バランス

 核戦力には、射程や目的により

a. 核大国間の大陸間の核の応酬のために使用される大陸間弾道弾(ICBM)、潜水艦発射弾道弾(SLBM)などの、射程約8000キロ以上の戦略核兵器

b. 同じ戦域内で使用される射程500~5500キロの戦域核戦力(INF)

c. 戦場での部隊を支援するための、射程1000~500キロ以下の戦術核戦力の3種類に大きく区分される。

 以下では区分ごとに核戦力バランスの現状について比較・分析する。

a. 戦略核バランス

 中ロは戦略的な協力的パートナーシップ関係にあり、安全保障面でも協力的関係にあったが、ウクライナ戦争によりさらに中露関係は親密になった。

 その結果、中ロは、公表はされていないものの、相互に相手国を戦略核攻撃目標から外し、共に米国を目標にすることで密かに合意している可能性が高い。

 そのような場合、中ロを合わせた戦略核脅威に米国は対抗しなければならない。

 ロシアは世界一の核弾頭数を保有する世界最大領土の核保有国である。

 中国の保有核弾頭数は現在約400発とみられているが、核弾頭の増産に拍車をかけており、後述するように、2035年までには1500発を保有するとみられている。さらに中国は、世界最大の人口と米国並みの国土面積を有している。

 米国の専門家の見積りによれば、中ロが連携した場合、米国は戦略核戦力バランス上、総合的に見て2:1の劣勢に立たされるとみられている。

 さらに、北朝鮮も固体燃料のICBMの発射試験に成功しており、すでに核弾頭の小型・弾頭化にも成功したとみられており、対米戦略核戦力の実戦配備に近づいている。

 また北朝鮮は、中国とは軍事介入条項を含む中朝同盟関係にあり、ロシアとも友好関係にある。

 中朝ロ3国の対米核戦略核戦力に対し、米国は戦略核戦力の均衡を維持しなければならない立場に立たされている。

 米国が中朝ロの連携した戦略核戦力において劣勢ならば、万一核戦争になっても敗北することになり、3国に対し核戦争にエスカレートするおそれのある、日台韓など北東アジアの同盟国・パートナーに対する核の傘の提供はできないことになる。

b. 戦域核バランス

 米ロはともに、米ソ間で締結されたINF(中距離核戦力)全廃条約に基づき、INFの開発・配備を禁じられてきた。

 その間に中国は一方的に、西太平洋から北部インド洋を覆うINFの開発・配備を進めてきた。

 特に、射程約1400キロの準中距離ミサイルは、日印の全土を射程下に入れており、濃密な対空ミサイル網と相まって、米空母打撃群の日台韓への来援と東シナ海、南シナ海への侵入を拒否できる態勢になってきている(「接近阻止・領域拒否」戦略)。

 米国はトランプ政権時代に、この不均衡を是正するため、2019年にINF全廃条約から離脱し、米国はINFの再開発・配備に着手しているが、格差は依然として大きく、インド太平洋におけるINF戦力のバランスは、いまだに一方的に中国側に有利になっている。

 日本に向けられている中国の各種ミサイルの総数は、巡航ミサイルも含め2000発前後と見積もられている。

 ロシアもINF条約から離脱し、北方領土から千島・カムチャツカ、およびバルト海、東部地中海正面に対空・対艦ミサイル網を構成しており、接近阻止・領域拒否戦略をとっている。

 北朝鮮の約500基の核搭載可能なノドン・ミサイルは日本全域を、また数百基の射程約1000キロのスカッドER(改良型)は西日本を射程下に入れている。

 このように、戦域核戦力でも日本周辺は、米国が圧倒的な劣勢になっている。

c. 戦術核バランス

  ロシアは約2万キロの長大な陸地国境を有している。その国境防衛のため通常戦力の火砲、ロケット砲などの火力を補完する大火力として、戦術核戦力を位置づけ重視してきた。

 この軍事ドクトリンはソ連時代から引き継がれている。

 そのため、現在もロシアは約1900発の戦術核兵器を展開しているとみられている。

 それに対し米国は、かつては6000発以上の戦術核兵器を保有していたが、戦術核兵器は平時から前方に配備し、有事には現場指揮官に使用権限が委ねられることになるため、核事故、偶発的な核戦争、指導部の予期しない核戦争のエスカレーションなどを招きやすいとの問題点が指摘されてきた。

 そのため、冷戦崩壊後は大幅に削減され、現在は約230発が展開され、そのうち約100発が欧州に展開されているとみられている。

 インド太平洋正面ではグアムに一部保管されているとみられるが、今年4月の米韓首脳会談でも韓国への戦術核兵器再配備については、バイデン大統領は明確に否定している。

 前方配備により朝鮮半島での有事に米軍の核戦力が北朝鮮やその同盟国の中国等との核戦争にエスカレートすることを危惧しての拒否とみられる。

 同様に、ウクライナ戦争においても、開戦前の2021年12月にジョー・バイデン大統領は、米軍の派遣を「検討していない」と明言し、その後の軍事援助でも米国は、戦闘機や長距離ミサイルなど核戦争へのエスカレーションを招きかねない攻撃的兵器の供与は拒否している。

 ロシアウラジーミル・プーチン大統領が、核使用も辞さないと示唆する発言を繰り返しており、核兵器使用の閾を下げることで核抑止力を高めると方針をとっていることを示している。

 これも、ロシア側の戦術核戦力の優位性を背景にした動きと言える。

 さらに、北朝鮮金正恩総書記も、戦術核戦力を「2023年の核武力・国防戦略の中心に据える」と重視方針を示し、核弾頭の増産を指示し、近年の各種のミサイル発射について、韓国を対象とする戦術核兵器の訓練と称するなど、戦術核兵器の実戦配備に向けた動きを活発化させている。

 以上の中ロ朝の動きを見れば、米国の戦術核戦力の劣勢は否めず、厳しい挑戦に曝されていると言えよう。

 以上の各レベルでの分析・比較から結論的に言えることは、米国が、戦略核・戦域核・戦術核いずれのレベルの戦力においても、連携した中ロ朝に対し劣勢であるという冷厳な事実である。

 米国は北東アジアのみならず、NATO(北大西洋条約機構)加盟国に対する拡大核抑止を欧州に誓約している。

 さらに、今後は中東正面でもイランなどの核脅威を抑止するため、域内の同盟国、友好国に対し拡大核抑止を保証しなければならなくなるであろう。

 その意味で米国の拡大核抑止力は北東アジアのみではなく、欧州・中東正面にも分散されることになり、それだけ相対的に北東アジア正面の配分戦力は減殺される点も不利な要因である。

 以上から、核戦力の相対的バランス上から見れば、米国の拡大核抑止に依存することはもはやできないと言えよう。

劣化する米国の核兵器インフラと核兵器運搬手段

 米国共和党のジョン・ケネディ上院議員は議会で、米国と敵性諸国の核インフラの現状について、以下のように述べ、警告を発している。

「現在はロシアが最大の核弾頭保有国であり、北朝鮮も核戦力増強・近代化に努め、核弾頭を保有している」

「中ロでは不安定な権威主義的指導者に核兵器の発射権限が委ねられており、独裁政権の北朝鮮イランも核を保有している」

「他方、米国の核兵器備蓄は冷戦時代のままであり、弾頭は古く、規模も縮小している。核弾頭の生産は停止され、劣化が進んでいる」

「米国は冷戦終結以降、1発の核弾頭も生産していない。代わりに2020年に核弾頭の改装計画を立てたが、延期が相次ぎ、いまだに実行されていない」

「米国は1995年から2020年までの間に11683発の核弾頭を廃棄し、それに加え3000発を退役させてきた。現在の核弾頭の大半は既に数十年が経過している」

核弾頭の中核となる部品のプルトニウム・ピットは、100年以内に交換しなければならない」

「米国は冷戦期には年間約1000発のプルトニウム・ピットを生産していたが、1989年以降定常的な生産を中止し、2012年以降は1発も生産していない」

プルトニウム・ピットの生産は複雑な作業で、長期の時間と莫大なコストがかかり容易ではない」

「それに対し、中・ロ・朝・パキスタンはピットの生産を続けている。今からピットの生産を再開し維持するのは困難である」

「米国は4000発の新しいピットを必要としており、2030年以降2080年まで、毎年80発のピットを生産し続けねばならない」

「そのために2015年にNSSA設立が議会で決議されたが、その後延期が相次ぎ、年間80発の能力達成の目途は立っていない」

「既に、現在は6年遅れ2036年からの生産開始になる予定だが、2021年度にはそのための予算すらつかなかった」

「新型のICBMは古いピットでは動かない。NSSAには全般を統括する計画がなく、ピット生産計画もない」

核弾頭備蓄の近代化計画は米国の防衛にとり不可欠なだけではなく、核をもたない同盟国も(拡大核抑止を提供するとの米国の)誓約に依存している。このままでは同盟国も米国の誓約に疑念を持つであろう」

「現に、韓国は米国の誓約に疑念を示し、自ら核兵器を開発し、差し迫った北の核脅威に対処しようとしたが、また米国と共同で対処することになった」

「米国防総省によれば、既に中国は米国よりも多数のICBMを保有しており、現在は400発だが2035年には1500発以上の核弾頭を保有することになると見積もられている」

「米国では、いまだにピットの生産も核戦力の能力向上も実現されていない。残された時間内に米国は、核インフラの再建に全力を挙げて取り組まねばならない。『弱者の平和は決して機能しない』のである」

 以上が、ケネディ上院議員の発言の骨子だが、ここには極めて厳しい米国の核インフラ核兵器開発の現状があからさまに語られている。

 それに対し、中・ロ・北朝鮮イランなどは着実に核弾頭の増産・核戦力の増強近代化を進めている。

 ケネディ議員が韓国の例を挙げて訴えているように、早急に核インフラを再建しなければ、米国の拡大核抑止の信頼性は今後ますます低下することになるであろう。

懸念されるミサイル防衛システムの極超音速ミサイル撃墜能力

 上記のケネディ上院議員も同じ演説の中で、「中国は核弾頭を増産しているだけではなく、核兵器の近代化と能力向上にも力を入れている。特に音速の5倍以上で飛翔する核弾頭搭載型の極超音速飛翔体の開発を進めており、米国にとり反応時間は数分しかない」と、中国の極超音速兵器の脅威に警告を発している。

 極超音速兵器は単に反応時間が極めて短いだけでなく、変則軌道をとり、そのために慣性機動を前提として未来位置を予測し、そこにミサイルを誘導して命中させるという在来型のミサイル防衛システムでは、撃墜が極めて困難とみられている。

 このような極超音速兵器の脅威に対処するため、多数の低軌道衛星を星座のように打ち上げネットワークを構成し、極超音速機動型兵器を発見・追尾し撃墜できるシステムをグローバルに構築して対処する計画もある。

 防衛省は、ミサイル防衛などのため、多数の小型衛星を連携させて情報収集能力を高めるシステム「衛星コンステレーション」の構築に向けて、2023年度から5年間でおよそ50基の小型衛星を打ち上げる方向で検討を進めることになったと報じられている(『NHK NEWSWEB』2022年10月30日) 。

 しかしこのようなシステムを構築するには、莫大な予算と長期の時間、卓越した先端技術力、さらに国際的な協力体制の構築が不可欠になる。

 米国の累積連邦赤字はウクライナ戦争の影響もあり、すでに約31.7兆ドルに達しており、このようなシステムの構築に所要の予算を充当し、必要とされる研究開発が可能になるかが今後問われるであろう。

 中ロは極超音速兵器の開発・配備では米国に先行しており、配備されているとの見方もある。

 ロシアはすでに極超音速空対地ミサイル・キンジャールをウクライナで実戦に投入している。

 極超音速兵器に対処できるコンステレーションなどの計画が実現するまでの間の抑止力をどう確保するのかは、米国と日本などその同盟国にとり極めて深刻な問題である。

 中ロ朝に隣接する日本の場合、極超音速兵器に対する反応時間は米国よりもさらに限定され、発射数の密度も大きいとみられる。

 極超音速兵器は、従来の拡大核抑止態勢で前提とされてきた、提供国の米国との協議などの時間的余裕を与えずに、日本領域を直接核攻撃できるが、日本にはそれに対する迎撃手段はないことになる。

 この点でも、米国の拡大核抑止に依存する従来の対応では、極超音速兵器に対し日本の安全は保証できない状態になっていると言える。

 日本はこれまでの、核抑止力を米国の拡大核抑止力に全面的に依存するとの政策を改め、自力で実効性のある核抑止手段を保有する必要がある。

日本の核保有の必要性と核保有の在り方

 韓国の動向にも注目が必要である。

 今年4月26日ワシントンD.C.で米韓首脳会談が開催され、「ワシントン宣言」が表明された。

 同宣言において、米政府は、同国の北朝鮮に対する核兵器使用計画に、韓国が関与することを認め、韓国はその見返りとして、自国の核兵器を開発しないことに合意したと報じられている。

 しかし、ワシントン宣言が、韓国世論の原潜保有、独自の核戦力保有を目指そうとする動きの背景にある不安を宥めることに成功するとは必ずしも期待できず、北朝鮮と同様に、韓国も独自の核戦力保有に向け、歩みを進めることになる可能性はあるであろう。

 もし韓国が核保有に動けば、隣国日本にも深刻な影響を与える。

 韓国は日本と同じく米国の同盟国である。その韓国が核戦力を保有し日韓に重大な国益対立が生じた場合に、米国の拡大核抑止力が日韓いずれに保証されるのか、あるいはいずれにも保証されないのかは不透明である。

 また日韓間には、いまだに韓国が不法占拠を続けている竹島問題、歴史認識問題があり、韓国は、文在寅前左派政権時代のレーダ照射事件にみられるように、軍事衝突を招きかねない挑発行為を行った前例のある反日的体質の国である。

 もし韓国だけが先行して核保有をした場合、日本に対しても核恫喝をかけてくる可能性もないとは言えない。

 その場合に米国が日韓いずれの立場に立つかは、前述したように不透明である。韓国には南北が共同して日本の軍事的脅威に対抗すべしとの、左派の民族主義が今も根強く残っている。

 韓国が核保有に踏み切るのであれば、日本もそれに前後して、独自核保有に踏み切らねば、日本は最悪の場合、韓国あるいは南北朝鮮からも核恫喝を受けることになるであろう。

 日本も、米国の核の拡大抑止が保証されなくなる事態も予期し、韓国に後れを取ることなく、独自の原潜と核戦力保有に踏み切る時にきている。

 日本が自力で実効性のある核抑止手段を保有するとした場合の最適のシステムは、原子力潜水艦搭載核ミサイルSLBM)である。

 その理由および必要とされる態勢は以下の通り。

SLBM搭載原潜(SSBN)は、先制攻撃をすれば発見撃沈されるおそれがあり、先制攻撃には向かない。

 他方、極めて隠密性が高く最も残存性が高い。このため、先制攻撃を受けた後の報復に使用できる自衛的核兵器システムである。

 その意味では、昭和48(1973)年の田中角栄総理大臣による参議院予算委員会での「自衛の正当な目的を達成する限度内の核兵器であれば、これを保有することが憲法に反するものではない」との答弁を踏まえれば、現行憲法下でも合憲である。

②我が国は狭隘な国土の海岸平地部に人口が密集しており、地上配備の核兵器システムの場合、先制核攻撃の際に周辺住民等に二次被害を及ぼすことになる。

 SSBNの場合、そのおそれはない。また、四面環海で深海が近海にある我が国の地政学的条件を最大限に生かすことができる。

③我が国の通常動力型潜水艦は世界最高水準であり、小型原子炉の高度の技術も保有しており、固体燃料弾道ミサイルの製造・誘導・弾頭の再突入技術も保有している。

 プルトニウムの抽出・成形とウラン濃縮技術も一定量の核分裂物質も保有している。また、日本の技術水準があれば、核実験なしでもコンピューター・シミュレーションにより核爆弾の設計は可能と、米国などの専門家は評価している。

 このため、わが国の潜在的な能力を発揮すれば、約3000億円で5年以内に1隻のSSBNを建造し、SSBN6隻とそれを掩護し一体的に運用される攻撃型SSN12隻を10兆円程度で10年以内に建造できると専門家は見積もっている。

④SSBNの開発・製造に至るまでの核抑止力を維持するためには、地下深部に配備した地上発射式の車載型固体燃料弾道ミサイルシステムが、最も短期間の数カ月以内に数千億円で製造・展開が可能とみられる。

⑤いずれの兵器システムを採るにせよ、首相直轄の、最高度にセキュリティが維持され即応性のある独自の指揮・統制・通信システム、最高度の警護態勢とそれを担当する独立的な警護部隊、秘密が保全され最高度のセキュリティ・クリアランスを保証された協力的な科学技術者・企業担当者からなる組織が、必要となる。

 その前提条件として、機密保護法、スパイ防止法の制定が必要である。

⑥外交的には、米国の不信感をどう払拭し、核保有を認めさせるか、中朝ロの反対あるいは対抗手段をどう封ずるか、隣国の韓国、台湾の不安をどう解消し、連携態勢をとるのか、国際社会の反発とNPT体制崩壊への核兵器国の危惧、濃縮ウラン輸入の途絶等経済制裁への対応など様々の課題が予想される。

 これらの課題を克服するには、日本をめぐる核戦力バランスの変化など、上記の日本の核保有の必要性を説明し、国家安全保障上の万止むを得ない措置であることを国内外に説得する必要がある。

 特に、米国との緊密な協議が不可欠であり、日本の核保有が米国の国益にも適うことを米国に対し説得しなければならない。

 また、日本政府は国際社会に対し、唯一の被爆国として、国民への核の惨害を抑止するため、あらゆる執りうる措置を執る責任があることを説明するとともに、核の先制使用をせず、核兵器は核攻撃を受けたときの自衛目的のためにのみ使用すること、他国や非核保有国に対し核恫喝を加えることもなく、引き続き世界の非核化と核軍備管理に努力することなど、日本の基本的な核政策を速やかに宣言しなければならないであろう。

 ただし、核実験を行わないのであれば、イスラエルに倣い、核兵器を持っているとも、持っていないとも明らかにしない「曖昧戦略」を採るのが望ましいであろう。

 上記の外交的課題を噴出させることなく、抑止効果は高まるためである。以上のような国家戦略を追求しつつ、研究開発を秘密裏に進め、課題の悪化を未然に防ぎつつ、少なくとも基礎的な技術力を高めておかねばならない。

 そのような潜在力があれば、核恫喝を受けても「わが国には相応の対応手段がある」と首相自ら言い切れるであろう。

 また核関連の諸活動は、極秘に最小限の関係者のみで行わねばならない。漏洩すれば必ず妨害を受けるためである。

 単に原潜を保有するだけであれば、「非核三原則」にもNPTにも抵触せず、「むつ」の実績もあり、いつでも政治決断次第で可能である。

 また、前述したように、SSBN搭載弾道弾のような自衛的な核兵器の保有は合憲との政府見解は今も有効である。

 いずれも、政治的決断次第でいつでも実行可能であり、既にそのような決断が求められる状況に、日本を取り巻く国際環境がなっていることは明らかである。

 決断を遅疑逡巡すれば、日本は周辺国の核恫喝に屈し、戦うまでもなく死活的国益を失い国家の存立すら危うくなるであろう。

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