ジェームズ・キャメロン監督が手掛けた映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」が6月7日より配信開始した。日本では国内興行収入42億9676万円、動員数236万2731人を記録し、全世界では興行収入が22億9370万7227ドルに達するなど、大ヒットを記録した同作。歴代興行収入でもキャメロン監督の代表作「タイタニック」を抜いて3位に。「第95回アカデミー賞」では作品賞を含む主要4部門にノミネートされ、「視覚効果賞」を受賞。その奥行きと深みのある映像の美しさは、まさしくその賞に値するものだった。そんな映画史に名を刻む「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の魅力について検証してみたいと思う。(以下、一部ネタバレを含みます)

【写真】まさに“生きている”…!ジェイクら“サリー家”の絆を感じる家族ショット

■前作から13年の時を経て公開

前作「アバター」が公開されたのは2009年12月。「ターミネーター」シリーズや「エイリアン2」「タイタニック」といったヒット作を手掛けるキャメロン監督が、思い描いていた構想を表現できる映像技術が出来るまでおよそ10年寝かせたというだけあって、それまでの映画作品とは一線を画した、全く新しい映像作品を作り上げることに成功した。映像技術は常に進化し続けているが、「アバター」の公開によってその進化がより加速することとなった。

アバター」は、アルファ・ケンタウリ系惑星ポリフェマス最大の衛星“パンドラ”を舞台にした物語。“アンオブタニウム”という希少鉱物がこの星の地下に多く眠っているということで、地球のエネルギー問題を解決するために採取しようとするが、そこにはナヴィ族という先住民族が住んでいて、どんな条件を出しても頑として譲らず、手を出せない状況となっていた。

そこでスタートしたのが“アバター計画”。地球人とナヴィのDNAを掛け合わせた人造生命体を作り、神経を接続して操作する人間の意識を憑依させた“アバター”を送り込み、ナヴィ族と接触を図るというものだった。言うなれば、おなじみの“青いアバター”とリンクして遠隔操作をするという方法。

■元海兵隊員がナヴィ族の考えに共鳴

前作の見どころは、元海兵隊員のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)が亡くなった兄の代わりにアバターを使ってナヴィ族と接触を図り、ナヴィの狩猟部族の族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と出会い、ナヴィ族の生き方を教わり、死生観を含めた自然への関わりや経緯に感銘し、考えがどんどん変化していくところを挙げることができる。

グレースオーガスティン博士(シガニー・ウィーバー)や人類学者のノームスペルマン(ジョエル・デビッドムーア)といったナヴィと友好的に交渉しようとする“味方”もいるが、元海兵隊の大佐マイルズ・クオリッチ(スティーブン・ラング)のように力づくでアンオブタニウムを奪おうとする者もいて、兵器などを多く所有し、腕力に勝るクオリッチ側の方が体勢的にも有利な状況だ。ジェイクも最初はクオリッチに報告することを命じられていて、内通者(スパイ)的なこともさせられていたが、途中から改心。そういう経緯もあって、クオリッチから執拗に攻撃される羽目になってしまうわけだが。

森の中の表現がとても美しく、リアル。サイやクロヒョウに似た凶暴な動物や、巨大な翼竜トゥルークなども生命力が感じられるほどで、作品への没入感は桁違い。そんな中で、地球人とナヴィの信頼関係と絆の構築をジェイクとネイティリを通して見せていくストーリーも秀逸。物語として、映像作品として見ごたえのあるものとなった。

■最新作では映像美とリアルさがさらに進化

第1弾から13年後に公開された「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」。前作でも驚かされたが、映像美とリアルさがさらに進化しているのを見始めてすぐに痛感した。物語は前作から10年後の“パンドラ”が舞台。ジェイク・サリーは晴れてオマティカヤ族の一員となり、ネイティリと結ばれ、息子のネテヤムとロアク、娘のトゥク、オーガスティンのアバターから生まれた養女キリ、クオリッチ大佐の息子・スパイダーと一緒に平穏な暮らしを送っていた。

しかし、人類は地球人とナヴィを融合させたアバターを生み出し、そこにクオリッチ大佐らの人格を植え付け、パンドラに舞い戻ってきたことでジェイクたちの生活は一変。部族の他の者たちに迷惑を掛けないために、ジェイクは一家で別の土地に移ることを決意した。

ジェイクとクオリッチの対決というのは前作「アバター」と同様だが、今作では“家族のため”という思いがあり、そこが新たな作品的魅力になっている。

■森の部族から水の部族へ

ジェイクたちが新たな居住地にしようと思ったのは海洋民族“メトカイナ族”のいる集落。しかし最初はよそ者扱いされ、仲間とは認めてもらえない状況が続く。リーダーのトノワリ(クリフ・カーティス)は理解を示し、一族の者に言い含めるが、妻のロナル(ケイトウィンスレット)は快く思っておらず、子どもたちもネテヤム、ロアク、キリを快く思ってなくて、尻尾の細さや指の数の違いで差別したり、“悪魔の血が混じっている”という暴言も口にしている。しかし、娘のツィレヤだけは偏見なく友好的に接してくれていた。

あまりいい環境ではないかもしれないが、そこで生きるためにジェイクたちは水の多い環境に慣れようと努力。元々“地球人”だったジェイクが、ナヴィの生活に溶け込むために危険な目に遭っても頑張ってきたので、頑張れば環境に適応できるというのを信じ、自身が努力する姿を見せることで子どもたちの模範になろうとしていたのだろう。そういった一家の中の絆というのが今回の大きなテーマであり、見どころだと言える。

ジェイクとネイティリは地球人とナヴィという壁を超えて結ばれた。優秀な兄ネテヤムにトラブルメーカーの弟ロアクはコンプレックスを抱き、キリは父親を知らず、スパイダーは父親を嫌っているなど、それぞれ抱えるものがあったが、それでも“一家はいつも一緒”という気持ちで強い絆を作ってきた。“家族”“親子”というテーマが、多くの人たちを感動させた要素となったのだろう。

ジェイク・サリー役のサム・ワーシントンネイティリ役のゾーイ・サルダナは前作から続投。養女キリを演じているのは前作でグレイスオーガスティン博士を演じたシガニー・ウィーバー。「エイリアン」シリーズでリプリーを演じた彼女が今作では14歳の少女に。これは「アバター」シリーズだからこそ出来ることの一つと言える。

そしてメトカイナ族のロナル役でケイトウィンスレットが出演。「タイタニック」のヒロイン“ローズ”役でスターとなった彼女がキャメロン監督作品に帰ってきた。こういうつながりも分かると、この作品をより楽しめるのではないだろうか。

ディズニープラスで配信中の「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」本編を見た後に、制作の様子を収めたドキュメンタリー「アバター ディープ・ダイブ」もチェックしておきたいところだ。

◆文=田中隆信

映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」がディズニープラスで配信中/(C) 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.