2022年11月、内閣の「新しい資本主義実現会議」によって、「資産所得倍増プラン」が決定しました。NISA制度の抜本的拡充・恒久化が主な政策であり、その実現によって株高が期待できます。では、投資家はこの資産所得倍増プランをどう捉えて、投資に活かしていけばよいのでしょうか。株式会社ソーシャルインベストメントの川合一啓氏が解説します。

NISA制度が大幅に進化…来年1月から始まる「資産所得倍増プラン」

2023年6月時点では、NISA(少額投資非課税制度)口座は主に「一般NISA」と「つみたてNISA」に分かれています。

これを「成長投資枠」「つみたて投資枠」と改め年間投資枠を広げ、非課税保有期間を無期限化し、さらに両投資枠の併用も可能にするなど、NISA制度の抜本的変更が決定しました(2024年1月~)。これが、「資産所得倍増プラン」です。

投資による利益の非課税枠が広がり、かつそれが無期限化されるのですから、「利益が出ても非課税だから、投資しよう!」という誘因となり、依然として日本の主な金融資産となっている預貯金が株式市場に流入し、株高となることが期待できます。

ただし、資産所得倍増プランによる「もう一方の側面」も考えておくことが必要です。

岸田首相は当初、株式市場を“軽視していた”?

実は岸田首相は、政権発足時には「金融所得課税の見直し」を掲げていました。投資によって生じた所得への課税を、強化しようとしていたのです。

結局、世論の反発と株価下落に遭い、その件については「当面は触ることを考えていない」と言い直したようです。

しかし岸田政権はそもそも、「新しい資本主義」という経済政策を掲げ、以下のようなアナウンスをしています。

市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた、格差や貧困の拡大。市場や競争の効率性を重視しすぎたことによる、中長期的投資の不足(中略)。分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機。

(中略)市場に任せればすべてがうまくいくという、新自由主義的な考え方が生んだ、さまざまな弊害を乗り越え、持続可能な経済社会の実現に向けた、歴史的スケールでの「経済社会変革」の動きが始まっています。

成長と分配の好循環による「新しい資本主義」によって、官と民が全体像を共有し、協働することで、国民1人ひとりが豊かで、生き生きと暮らせる社会を作っていきます。

さまざまな弊害を是正する仕組みを、「成長戦略」と「分配戦略」の両面から、資本主義のなかに埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化していきます。

※ 引用元:「政府広報オンライン」

以上の文面からは、それまでの「分配」に対して否定的である見解がうかがえます。そして、今般「資産所得倍増プラン」を掲げましたが、当初は株式市場を重視しておらず、ひょっとしたら「株での儲けには、課税を強化するのが公平」という考えを持っていた可能性もあります。

政府への「過度な期待」は禁物

以上の経緯を考えると、「資産所得倍層プラン」を打ち出していますが、岸田政権には結局、明確な経済政策がうかがえない感もあります。

一方、安倍政権の「アベノミクス」の場合、資金の流通量とその循環をよくし、「物価上昇」→「企業の売上上昇」→「賃金(家計の所得)上昇」→「消費増大」→「物価上昇」という循環を促すことが狙いだったことが明確にわかります。そしてそれによって、株価も上昇させるという目論見がありました。NISA制度も、安倍政権下でスタートしたものです。

実際に、民主党政権が終わった2012年11月に8,000円台だった日経平均株価は、安倍首相辞任発表の2020年8月には2万3,000円弱となりました。

ただし、すべてが安倍首相の思惑通りにいったわけではありません。本人の意向か、他の誰かの意向なのかは不明ですが、アクセルを踏みながらブレーキを踏むように、任期中に消費税の増税も行いました。物価や賃金の上昇も、道半ばだったように思えます。

結果的に、政府の方針に対する我々の見方は、以下のようにいえます。

・首相本人が、迷ったり考えを改めたりして、途中で方針転換することもある ・他者の反対などにより、すべてが首相の思うとおりにいくわけではない ・未来を予測して首相は政策を実現しようとするが、その予測が当たるかどうかはわからない

したがって投資家は、政府の方針に過度に左右された売買は避けるほうが賢明です。

「ああ言ってるけど、実現するかどうかはわからない」「こう予想されてるけど、そのとおりになるかどうかわからない」と常に疑いの気持ちを持っておき、どんな事態にも対応できるよう、自分の投資手法を磨いておきましょう。

岸田政権の「資産所得倍増プラン」に対しても、その成果に期待しつつ、一方で期待外れに終わる可能性も考えておいたほうがいいでしょう。

株式会社ソーシャルインベストメント 取締役CTO

川合 一啓

(※写真はイメージです/PIXTA)