「クリエイターエコノミー」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。本連載では、米国・人材系ビジネスの最前線企業「LinkedIn」の日本代表を務めた経験もある村上臣氏の著書『稼ぎ方2.0「やりたいこと」×「経済的自立」が両立できる時代』から一部を抜粋し、日本にも到来しつつある新時代の稼ぎ方について解説します。

理想論ではなく「本当の意味で」個が稼げるのがクリエイターエコノミー

日本ではすでに副業でUber Eatsの配達員をしている人や、クラウドソーシング(企業や個人がインターネットを通じて業務を発注する業務形態)サイトを通じて仕事を請け負い、収益を得ている人が増えています。

こういった、インターネットを通じて単発の仕事を行なう働き方は「ギグ・エコノミー」と呼ばれています。

「ギグ(gig)」は、もともとミュージシャンがライブハウスなどで単発で演奏を行なうことを意味する業界用語でした。それが転じて、単発で仕事を請け負う働き方を示す言葉になったものです。

ギグ・エコノミーは、基本的に空き時間を効率的にお金に換える手段です。

タスクを決めるのはプラットフォーマーの側であり、そのタスクをこなす人は特定の個人である必然性はありません。

つまり、ギグ・エコノミーは「個人の表現が入る余地はない(乏しい)」というところに特徴があります。

これに対して、クリエイターエコノミーは個人の表現をお金に換える手段といえます。

収益化のパターンは大きく2つに分かれます。一つは、個人の表現に対してスポンサーがつくことで間接的に収入を得るパターン。

俗に「案件」といわれる方式がこのパターンに当たります。

そしてもう一つは、ファンから直接お金をもらう直接課金のパターンです。

現在は、ファンから収益を得ることをサポートするクリエイター支援サービスのプラットフォーム(パトロンサービスとも呼ばれる)が続々登場しています。

単純に課金の仕組みを代行するサービスだけでなく、動画編集など表現活動のサポートをするサービスや、プロモーションページの作成といった営業活動の一部を担うエージェント的なサービスも存在しており、それらもクリエイターエコノミー市場の一部を形成しています。

その文脈でいうと、クラウドソーシングを通じ、何かのタスクをこなすことで収益を得ている人が、継続的に指名を得るようになり、そのままプログラマーやデザイナーとして独立するケースがあります。

これは純粋な意味でクリエイターエコノミーではないかもしれませんが、「その人自身が指名されて仕事を得る」「プロフェッショナルとして本業以外のキャリアを築く」という意味では、クリエイターエコノミーに通じるものがあります。

欧米で「クリエイターエコノミー」への転換が進んでいるワケ

欧米でギグ・エコノミーからクリエイターエコノミーへの転換が進んでいるのは、個人の「好き」と収益のバランスが取りやすいからではないかと思います。

ギグ・エコノミーは自分の意思を介入させる余地が少ないですし、プラットフォーム側の意向に従って働く必要があります。

例えば、Uber Eatsでは、配達員の動向はリアルタイムで管理されており、効率の良し悪しでランク付けも行なわれています。

しかし、クリエイターエコノミーではそこまでプラットフォームに縛られることはありません。

最近は企業に所属していた個人がクリエイターとして独立するケースが少しずつ目立ち始めています。

例えば、企業で公式Twitterの「中の人」をしていた社員が、独立してSNSマーケティングの会社を運営するような事例があります。これも表現活動が個人中心にシフトしていることの表れではないかと思います。

日本では、BASE株式会社、note株式会社、UUUM株式会社などが参加するクリエイターエコノミー協会が2021年に設立されています。同協会が目的としているのはクリエイターが活動しやすい環境の整備です。

海外の潮流やこうした動向を見るにつけ、日本でも「1億総クリエイター」になる時代が間近に迫っているのを強く感じます。

村上 臣

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部

客員教員

(※写真はイメージです/PIXTA)