2009年に公開された「アバター」の続編として、スケール感が増し、より壮大なストーリーと細部にまでこだわった美しい映像で、世界中の人々を感動させる作品に仕上がった「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」。そのクオリティーの高さを考えると、世界歴代興行収入3位(1位は「アバター」)というのも頷ける。「アバター」シリーズにおいて、サム・ワーシントン演じる“ジェイク・サリー”が重要人物というのはもちろんだが、同じくらいのキーパーソンとなっているのがゾーイ・サルダナ演じる“ネイティリ”。ナヴィの狩猟部族“オマティカヤ族”の族長の娘で、ジェイクの妻。前作「アバター」ではナヴィとスカイ・ピープル(地球人)をつなげる役割を果たし、「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」ではジェイクの妻として共に戦い、母親として養子のキリを含めた4人の子どもを守るなど、ネイティリは大きな存在だと見る者に感じさせた。6月19日に45歳の誕生日を迎えたゾーイに注目して、これまでの軌跡を振り返ってみたいと思う。

【写真】「アバター」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」とは全然印象が違う…ゾーイ・サルダナの姿

■映画「センターステージ」で俳優デビュー

ゾーイは1978年6月19日にアメリカ・ニュージャージー州で生まれ、10歳の頃にバレエを習い始めると、その後いろいろなダンスを体得。その経験が生かされた形で、2000年公開の映画「センターステージ」で俳優としてのキャリアをスタートさせた。

この作品は、厳しいオーディションを突破してニューヨークの名門バレエ団「アメリカン・バレエカンパニー」の付属校に入学した12人の若きダンサーたちの成長を描いた青春サクセスストーリー。ゾーイが演じるエヴァは、集団行動が嫌いで少しはすっぱなところが見られる浮いた存在だが、個性の強さもあって目が離せない人物でもある。

クラシックだけでなく、ロックやポップスに合わせたダンスも見られ、ハイレベルなダンスシーンがこの映画の大きな魅力となっている。デビュー作からゾーイらしさが感じられるのでぜひ見てもらいたい作品の一つだ。

“ダンス”と“音楽”の点で言うと、2002年公開の「ドラムライン」もオススメ。この作品は、大学のマーチング・バンド部を舞台に、スカウトされて入学した天才的ドラマーの成長を描いた物語。主人公のデヴォン(ニック・キャノン)はスネアドラムを担当し、並外れたテクニックを身に付けている。演奏においてもスタンドプレーが目立ち、協調性を重んじる上級生ショーンに目を付けられ、反抗する場面もしばしば。

そんなデヴォンは監督からもにらまれ、退部を言い渡されるなど、波瀾万丈の大学生活を送ることとなる。ゾーイは、デヴォンが一目惚れした上級生レイラ役で出演。ダンス部に所属していて、この作品でもゾーイのダンスを見ることができる。“憧れのお姉さん”的な役を務めるゾーイに注目だ。

■「パイレーツ・オブ・カリビアン」にも登場

2003年には世界的ヒットを記録した映画「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」に女海賊“アナマリア”役で出演。かつてジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)に船を奪われた過去があり、インターセプター号用に集められた乗組員の中に紛れ込み、ジャックに平手打ちを2度も食らわせ、借りた(盗られた)船の代わりに“新しい船”をもらうと約束して乗組員になる。気の強いところが魅力のアナマリアだったが、2作目以降に登場しなかったのはちょっと残念。

2004年にはスティーブン・スピルバーグ監督×トム・ハンクス主演の映画「ターミナル」に出演。ニューヨークジョン・F・ケネディ国際空港を舞台に、母国クラコウジアでクーデターが発生したため、空港の外に出ることも母国に帰ることも出来なくなった男ビクターの物語。ゾーイが演じる“ドロレス・トーレス”は空港の入国係官で、毎日やってくるビクターに対して、書類に「入国拒否」のハンコを押し続ける。

フード・サービスに勤務するエンリケがドロレスに気があり、毎日接触して話をしているビクターにお願いして彼女の趣味などを聞き出す役目を請け負ったりしている。そしてその恋は成就し、ビクターは恋のキューピットに。エンリケ役は後に「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」「キャシアン・アンドー」で“キャシアン・アンドー”を演じるディエゴ・ルナ。2人を結びつけた共通の趣味として「スター・トレック」があるが、ゾーイが後に「スター・トレック」シリーズに出演することを考えると興味深い“縁”だと言える。

「ターミナル」はコメディー要素満載だが、2005年公開の「ゲス・フー/招かれざる恋人」もコメディー要素の強い作品。アフリカ系米国人家族の娘テレサが白人の青年と交際したことから始まるホームコメディーで、ゾーイはその“テレサ”を演じている。

アメリカで黒人に対する差別があった時代を背景にした「招かれざる客」という作品があるが、時代の変化を反映させ、黒人と白人の立場を逆転させてリメイクしたのが本作。交際を頑なに拒む父親、理解を示すようになる母親、最初からテレサの味方の妹といった感じは王道とも言えるが、涙あり、感動ありのロマンティックコメディーとして楽しめる内容になっている。

■「スター・トレック」シリーズで注目

2009年はゾーイにとって大きな年になった。「スター・トレック」が5月に公開され、「アバター」が12月に公開。「スター・トレック」は1960年代に始まった人気シリーズで、この2009年版は、オリジナルテレビシリーズ「宇宙大作戦」の主要キャラを新しいキャストで描いたリブート映画シリーズの1作目。「第82回アカデミー賞」で4部門にノミネートされて“メイクアップ賞”を受賞。長い「スター・トレック」シリーズの中で初めてのアカデミー賞受賞となった。

ゾーイが演じたのは宇宙艦隊候補生の“ウフーラ”。主人公のカーク(クリスパイン)に言い寄られるが、彼女はバルカン人と地球人のハーフ・スポック(ザカリークイント)に思いを寄せている。相手を思いやる気持ちの強さと“優しさ”があったからこそ、スポックもウフーラに心を開けたのだろう。

その後、2013年の「スター・トレック イントゥ・ダークネス」、2016年の「スター・トレック BEYOND」とシリーズは続いていき、ゾーイも継続して出演。「アバター」については冒頭で触れた通り、ゾーイが演じるネイティリが2022年の「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」も含めて、キーパーソンの一人となっている。

■「GOG」ガモーラ役も話題に

もう一つ重要な役柄はガモーラ。2014年に公開された「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」に登場したキャラクターで、緑色の肌と、黒と赤紫色のロングヘアが特徴だ。銀河最大の支配者“サノス”に養女として育てられてきたので、戦闘能力が非常に高い。

続編の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」(2017年)の他、「アベンジャーズインフィニティ・ウォー」(2018年)、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019年)、公開中の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」と、各作品で活躍。「アバター」のネイティリもそうだが、ガモーラのように戦う強い女性役もゾーイにうまくハマることが多い。

もう一つ、個人的にも好きな作品ということで、シリーズものではないが2022年公開の「アムステルダム」もオススメしたい。1930年代ニューヨークが舞台で、かつて第一次世界大戦の戦地で出会い、終戦後はアムステルダムで“何があってもお互いを守り合う”と誓った親友3人、医師バート(クリスチャン・ベール)、弁護士ハロルド(ジョン・デヴィッドワシントン)、看護師ヴァレリー(マーゴット・ロビー)の物語。ニューヨークで生活を送るが、殺人事件に巻き込まれて容疑者になり、巨大な陰謀に巻き込まれていく。

ゾーイはバードと共に検死を行う優秀な看護師で、3人の容疑を晴らすために必要な検死報告書を持っている重要人物。事件解決のために献身的なサポートをしている。他に、ラミ・マレック、ロバート・デ・ニーロら豪華キャストが集結。あり得ない奇想天外な話のように思われるが、“ほぼ実話”らしい。

オススメ作品を挙げていたら止められずに多くなってしまったが、世界歴代興行収入の上位3作品(第1位「アバター」、第2位「アベンジャーズ/エンドゲーム」、第3位「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」)に出演していることを考えれば、多くなるのも必然か。

ゾーイの45歳の誕生日をきっかけに、ダンスや音楽をテーマにした作品、コメディー要素の多い作品、人気シリーズなど、幅広いジャンルの作品で見せてくれる多彩な演技を改めて楽しんでもらいたい。

映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」は、ディズニープラスで配信中。

◆文=田中隆信

ジェイク・サリー、ネイティリら“サリー家”の絆を感じる家族ショット/(C) 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.