2011年、東日本大震災で発生した津波の直撃を受けたために起きた福島第一原発の事故。当時の原発事故の関係者に取材したジャーナリストの門田隆将によるノンフィクション「死の淵を見た男―吉田昌郎福島第一原発」(角川文庫刊)などに基づき、Netflixがドラマ化した「THE DAYS」が6月1日より世界配信された。本作で原子炉の1、2号機の中央制御室の当直長を演じた竹野内豊に、撮影を通して感じたことや、撮影秘話などを語ってもらった。

【写真】竹野内豊の色気あふれる撮り下ろしカット満載!

■福島の景色を見て感じたことを忘れないように「責任感と覚悟を持って演じていました」

――福島第一原発事故を日本政府、東電本店、福島の現場という3つの視点で描いた本作ですが、オファーを受けたときはどのような心境でしたか。

竹野内豊東日本大震災当時、原発事故のニュースを毎日のように見ていましたが、爆発後の現場の様子は上空から撮影した映像でしか知ることができない中で、ただニュースにかじりつくばかりで何もできない無力さに打ちひしがれていて、あのとき、多くの国民の方々もきっと同じような気持ちになっていたのではないかと思います。

いつの日か、役者という仕事を通して、僅かでも何かを伝えられる機会があればと心のどこかでずっと思っていたので、本作のお話をいただいたときは光栄でした。

――台本を読まれたときの感想もお聞かせいただけますか。

竹野内豊】本作に映し出されていることは、ごく一部にしか過ぎないと思いますが、福島第一原発であらゆる作業にあたられた方々だけではなく、被災に遭われた方々の心情が描かれていて、演じることの根本を改めて考えさせられました。

――クランクイン前に福島の原発を視察に行かれたと聞きました。

竹野内豊】撮影に入る前に、福島第一原発を視察させていただきました。12年の月日が経っているのに、未だに原発の敷地内にある建物の窓ガラスが当時の爆風で吹き飛ばされた状態のままで、まるで時間が止まっているかのような光景はショックでしたし、原発に向かうまでの立ち入り禁止区域の家屋には、草木が鬱蒼と生い茂っていて……。

当時、故郷を離れなければいけなかった方々の心の叫びが、ただただあの場所に残されているような気がして、なんとも言えない複雑な気持ちになりました。

――中央制御室の当直長である前島を演じるにあたり、どのようなことを大事にされましたか。

竹野内豊】そうですね、やはり福島第一原発へ視察に行って、あのとき、自分の肌で感じた気持ちを忘れないように、自分の心に嘘がないようにといいますか、気持ちだけは大切にしたいと思っていました。

――中央制御室のシーンは、年齢やキャリアもバラバラな運転員たちが、団結しながら危険な場所で体を張って作業にあたる姿が印象的でした。撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

竹野内豊】やはりこのような事実に基づいた題材ですので、撮影風景も他にはない独特な緊張感がありました。長丁場の撮影で、防護服もとても暑かったので、肉体的にも皆さん演技に集中することは大変だったと思いますが、小林薫さんや六平直政さんをはじめ、運転員を演じた皆さん個々に本作に挑む覚悟と、伝えねばならない責任は重たいものがあったと思います。

もちろん台本があって、それぞれに演じる自分の役目があるとはいえ、あのとき、福島原発にいた方々の心情は、我々の想像を遥かに超えるものだと思いますし、演じるうえで何が正解なのか、自分自身に何度問いかけても答えが見えない難しさがある中で、その場、その瞬間に湧き上がる真実を逃さないように皆さん取り組まれていたと思います。

福島第一原発の事故で起きたことを「風化させないことが大事」

――福島第一原発所長の吉田を演じた役所広司さんのお芝居で印象に残ったことを教えていただけますか。

竹野内豊】今回、役所さんと実際現場でお会いできたのはたった一度だけでしたが、お芝居中、声だけで緊迫感や繊細な心の揺れが伝わってきましたし、自分がいうのも何ですが、本当に改めて日本が誇る素晴らしい役者だなと思いました。

――小日向文世さんが内閣総理大臣を演じていますが、「イチケイのカラス」ファンとしては、いつもニコニコと笑みを絶やさないチャーミングな裁判官役と今回の役のギャップに驚きました。

竹野内豊】確かに、全くの別人でしたね。完成を拝見したときに、一国の総理として、刻一刻と現場で何が起きているのかを知りたいという焦りや苛立ちを、小日向さんが危機迫るお芝居で表現されていたので圧倒されました。

――こういった題材を扱ったドラマを世界に発信することについて、竹野内さんはどう感じてらっしゃいますか?

竹野内豊】国際的に注目されている大事故だと思いますし、未来の地球のためにも決して風化させてはならないことだと思うんです。

福島の立入り禁止区域にはまだ手付かずの所もあって、世界の人がそれを自分の目で確認することはできませんが、本作が全世界に配信されることにより、1人でも多くの方が、この映像の中から何かを感じ取っていただくことに大きな意味があるのではないかと思っています。

――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

竹野内豊】ある日、突然コロナ禍になり、誰もが自分自身と向き合い、苦しい時間を乗り越えてきた中で、僅か3年たらずで、これほどまでに人々の意識や時代の流れが大きく変化するとは想像ができなかったのではないかと思います。

本作は、決してただ原子カエネルギーの危険性を訴えるものでもなく、日本の危機に勇気ある者が立ち向かう美談でもないと思います。個々の意識や日本人としての精神性が問われる今、「THE DAYS」の映像の中から、何かを感じる、考えるきっかけになったらうれしく思います。

取材・文=奥村百恵

◆スタイリスト:下田梨来

◆ヘアメイク:須田理恵

ドラマ「THE DAYS」で重要な役を演じた竹野内豊/撮影=三橋優美子