いま、日本が抱える重大な問題のひとつ、「少子高齢化」。少子高齢化による総需要の減少によって、日本には、デフレ人手不足中小企業の低収益化、年金問題、貧富の差の拡大、財政の悪化といったさまざまな問題が引き起こされてきました。

日本で少子化が進んだワケ

なぜ日本の政治家や経済学者の中には、少子化対策について消極的な考え方の人が多いのでしょうか? それは、戦後の少子化が、日本の高度経済成長を支えた国策の一つだったからです。

もともと少子化は、吉田茂による戦後日本の復興政策の一つでした。終戦後、焼け野原だったその当時の日本は、戦場が日本本土だった事から、日本の供給設備が徹底的に破壊され尽くし、まともに市場に物が供給できるような状態ではありませんでした。

それによるモノ不足……、ここでいう有りあまる需要を解消するために、当時の日本政府がとった政策の一つが少子化政策だったのです。

発展途上国が有りあまる需要に対して、市場に十分にモノやサービスを供給できるようになるためには、子供の出生数を減らさなければならない。なぜなら、子供一人にかける教育のレベルを上げるためには、子供の数を減らしたほうが都合がいいからなのです。

また、企業の生産性(供給能力)を上げるためには、企業は積極的に設備投資をしなければなりません。しかし、そのためには国民はできるだけ消費を抑え、その分を銀行に貯蓄し、その貯蓄した資金を銀行は企業に貸し付けなければ、企業は設備投資を行う事ができません。

しかし、子沢山の家庭では、とても貯蓄を行うだけの余裕が生まれにくく、このため日本政府は企業の生産性を上げるために、戦後、積極的に少子化政策を推し進めてきたのです。

この理由から、今では世界のマーケットで十分戦っていけるだけの競争力を持った製品を、我が国は市場に安定的に供給できるようになり、モノ不足も無事解消されるようになりました。そして、今では供給が需要に追いつきモノあまりの時代になってしまったのです。

その証拠に、日本の輸出額は毎年安定して増え続けている反面、国内の民間需要はバブルが弾けてからほとんど成長していません。そしてこの事は、近年急激に経済成長しているインドや中国、ロシアなどにも同じような事がいえるのです。

これらの国々は、EUやアメリカなど移民によって成長してきた国々とは違い、2000年から現在まで人口の推移が横ばいか、せいぜい一割程度の増加に対して、それ以上に大きく経済成長を果たしています。

深刻な「需要不足」一体どこから来るのか?

そしてこの事は、「人口増加率の低下(働き手の減少)による生産性の減少は、生産過程を機械化する事によって代替可能である」といった反論についても同じ事がいえるのです。現在の日本経済は、けっして人手不足による供給不足が問題なのではありません。需要不足による、供給能力の低下が問題になり始めています。

日本は現在、戦後50年かけて作り上げてきたこの供給能力を、需要不足によって持て余している状態です。そして、この素晴らしい供給能力を我々経営者は、たとえ目先の利益を削ってでも少しでも長く維持しようと長年努めてきました。日本で消費者物価が常に下がり続けている(デフレスパイラル)のは、実はこのためなのです。

もし、人手不足により早急な機械化が必要なほど供給不足の状態であれば、市場では逆にインフレが起きていてもおかしくありません。しかし実際は、人口減少による需要不足によって、日本経済は世界に誇るべき供給能力を、現在、維持できなくなりつつあるのです。

その一番良い例といえるのが、2020年の新型コロナウイルス感染症が流行した際に起きました。皆さんも記憶に新しいと思いますが、その頃の日本は、新型コロナウイルスの影響で一時的にマスク不足に陥りましたが、民間の努力のかいもあり、ものの2、3ヵ月で国民に十分な量のマスクが行き渡るようになりました。

つまり、目の前に需要さえあれば、いつでもそれを供給できるだけの力が、まだ日本には残されているのです。

それでは、この需要不足の原因は一体どこから来るのでしょうか? それが、少子高齢化によるお客さんの減少、つまり総需要が毎年減少し続けている事から起こってくる事なのです。

この少子化による需要の減少という話は、現在やっと少しずつですが、テレビやネット、国会などで取り上げられるようになりました。しかし、その深刻度については、多くの経済学者やアナリストからはまだまだその実感が足りていないように感じます。

中には、安倍晋三政権時の上辺だけの好景気を信じて、少子化は景気とは全く関係なく、反対に日本経済にとって素晴らしい事なのだと信じている有名な経済学者や政治家までいる始末です。

しかし、私のような現場で実際のお客さんと接している企業の経営者からすれば、もうすでに日本経済はかなり深刻な状態に陥りかけています。

少子化によって、今現場で起きている事

これは私が実際に経験した事ですが、2015年から2018年の比較的景気が良いとされていた時期、私は苦しくなりつつある自社の経営環境を見直すため、ある立地の良い不動産を手放す事にしました。

すると、その不動産の噂を聞き付けた今までに面識のなかった複数の不動産業者から、毎日その物件についての問い合わせがあり、いろいろな不動産業者と会うたびに不動産価格が吊り上がっていったのです。

しかし、その当時の私の会社は、世間の景気の良さとは全く逆の状態で、毎年毎年、会社の売上が下がり続け、いつも会社の会議の場は暗い雰囲気に包まれ、とても取引銀行がいうような景気の良さを実感できるような状態ではありませんでした。しかし、その時の不動産業者の反応を見て、私は初めて世間では本当に景気が良いのだという事を実感したのです。

しかし、よくよく考えてみると実際の商売が儲かっていないにもかかわらず、リニアモーターカーや五輪に付随する建設や、日銀の金あまり政策のため、首都圏近郊の不動産価格だけが吊り上がっている状況が、果たして本当に日本経済にとって良い事なのか? 景気が良いとされていた日本も、実は実体経済のほうはボロボロなのではないのか?と考え始めたのです。

私は当時、不特定多数の一般の方を対象としたサービス業を営んでいましたが、2000年代初め頃からきれいに毎年一割ずつ会社の売上が落ち込んでいくようになりました。

はじめは、お客さんがどこか規模の大きな同業他社に取られているものだと思っていましたが、ある時気が付くと、経営している店舗の周辺の飲食店などのお客さんまで減り始めているのに気が付きました。ちなみに店舗の場所は、名古屋の中心地にある住宅街の駅の周辺で、けっして過疎化が起こるような立地ではありません。

そこで自社のお客さんを詳しく調べてみると、私が仕事を始めた1990年代の頃は、来店されているお客さんの中心は20代から50代くらいの働き盛りの人達ばかりでしたが、2000年代辺りから仕事をリタイアされた年金生活者の数が増え始めていたのです。

ちょうど世間では、団塊の世代が定年を迎え始めた時期でした。そして、それに伴い店舗の客単価とお客さんの総人数が減り始め、店全体の売上が減少し始めていたのです。

大山 昌之

(※写真はイメージです/PIXTA)