学校を卒業し社会に出る時に、大きく「正社員」か「それ以外=非正規」の二択があるでしょう。その後は時代は変わったとはいえ、「長く(同じ会社で)働けば、給与が上がる」というのが一般的。しかし非正規社員に限っていえば、そういうわけでもないようです。みていきましょう。

意外と多い「非正規社員で現状に満足」…正社員になりたい「非正規社員」はどれほど?

大学卒業に向けて、就職活動を行い、どこかしらの企業から内定が出て、正社員として社会人の第一歩を踏み出す……というサラリーマンの既定路線だといえます。

一方、「自分には叶えたい夢がある」という夢追い人や、「会社には縛られたくない」などという自由人も。最近は求人も豊富ということもあり、“同じ線路にはあえて乗らない”人が増えているとか。

なんとも羨ましいと、いまの40代くらいの人は思うでしょう。いわゆる就職氷河期真っ只中。就職したくてもその一歩を踏み出すことができず、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトといった、いわゆる非正規社員として社会人の仲間入りをした人が多くいました。

また正社員になれたとしても、希望の業種や職種でなかったため途中でリタイアしたり、当時はいまほどパワハラなどへの意識が低かったため、いわゆる“ブラック企業”に就職してしまったりして、途中でリタイヤ。以来、非正規社員としてキャリアを積んでいる人もいます。

そしてもちろん、就職が厳しかった時代でも、夢追い人自由人もいました。このように、いまの40代にも、非消極的な非正規社員と積極的な非正規社員がいます。

厚生労働省令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査』で企業側に「なぜ非正規社員を雇っているのか」を尋ねたところ、最も多いのが「正社員が確保できないため」で38.1%。「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」31.7%、「賃金の節約のため」31.1%、「即戦力・能力のある人材を確保するため」が30.9%と続きます。会社としてはやむを得ない事情もありつつも、人件費のプラスの側面があることが、非正規社員を雇う大きな理由になっているようです。

一方、非正規社員本人が「なぜ、非正規社員なのか」を尋ねてみると、「自分の都合のよい時間に働けるから」が最も高く36.1%。次いで「家庭の事情(家事・育児・介護等)と両立しやすいから」が29.2%、「家計の補助、学費等を得たいから」が27.5%と続き、どちらかといえば積極的な理由が上位を占めています。

消極的な理由としては、「正社員として働ける会社がなかったから」が12.8%、「体力的に正社員として働けなかったから」が4.4%。圧倒的に少数派です。

また「今後も会社で働きたいか」の問いには、85.6%が「今後も会社で働きたい」と回答(「現在の会社で働きたい」と「別の会社で働きたい」の合計)。そして彼らに「今後の働き方の希望」を聞いたところ、「現在の就業形態(非正規社員)で働きたいが64.9%と過半数超え。「正社員になりたい」は26.7%でした。

非正規社員として働く人のなかで「現状に満足」が多数派。その影響もあってか「正社員になりたい」という人への支援は、十分とはいえないでしょう。

非正規社員「真面目に働き続けること」にメリットなし

そもそも、なぜ「正社員になりたい」のでしょうか。前述の調査によると、最も多いのが「正社員の方が雇用が安定しているから」で73.6%、続いて「より多くの収入を得たいから」で71.8%。。低収入で、しかも不安定……なんとも厳しい非正規社員の現実です。

しかも正社員であれば、長く働きキャリアを積んでいけば給与は上がっていくというのが一般的なイメージ。しかし、非正規社員の場合は、そういうわけでもありません。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、「正社員0年目」の月収(所定内給与額)は平均30万5,400円。一方、非正規社員は平均27万1,800円。その差、3万円あるとはいえ、そこまで大きな格差は感じません。

しかし、それから10年後。大卒であれば30代後半でしょうか。勤続10年を超えると、正社員の月収は平均39万9,500円と、勤続0年目に比べて130%に。一方、非正規社員は平均26万8,600円と、勤続0年目と比べて98%。なんと月収は下がるという事態に。

勤続20年目、大卒であれば40代前半でしょうか。正社員は勤続0年目と比べて154%、非正規社員は118%。勤続30年目と、大卒であれば50代前半となったときには、正社員は勤続0年目と比べて173%、非正規社員は117%。

同じ大学の同期が、一方は正社員として、一方は非正規社員としてキャリアをスタート。お互い、真面目に働いてきたとしても給与差は歴然。非正規社員として20年頑張ってきた人がこの状況を知ったら、「真面目に働いてきたのに、たったこれだけ」と呆然としてしまっても仕方がないでしょう。

【非正規社員・正社員「勤続年数別」平均給与】

0年:271,800円/305,400円

1~2年:272,200円/318,300円

3~4年:285,300円/325,300円

5~9年:290,200円/353,400円

10~14年:268,600円/399,500円

15~19年:287,500円/434,400円

20~24年:322,800円/471,400円

25~29年:307,500円/520,400円

30年以上:320,200円/529,300円

出所:厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』

※数値左:大卒非正規社員、右:大卒正社員

終身雇用制度といった古き日本の人事制度は終わったといわれますが、まだ「石の上にも3年」などの考えは残り、同じ会社で働き続けることにはメリットがあるケースも珍しくありません。ただ非正規社員に限っていえば、同じ会社で働き続けることはもちろん、非正規社員を続けることに、給与面では何のメリットもないといえます。

非正規社員のなかには、「正社員として働ける会社がない」という理由で非正規社員を続けている人がいます。一方で「正社員が確保できない」と、非正規社員を雇わざるを得ない会社もあります。両者が繋がれば万事OKとなりますが、そうはいっていないと現状を鑑みると、「正社員になりたい非正規社員問題」、なかなか解決は難しそうです。