バイデンの対中政策が俎上に
バイデン政権は、アントニー・ブリンケン国務長官の訪中で米中閣僚の相互往来を含む高官対話を再開する方向に舵を切った。
その延長線上には習近平国家主席の11月訪米がある。「世界のステーツマン」であることを誇示したい習近平氏にとっても渡りに船だろう。
習近平氏は、11月にサンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力首脳会議(APEC)に出席、その際にジョー・バイデン氏との首脳会談を持ちたいとの意向のようだ。
一方、ジョー・バイデン大統領も米国内で米中首脳会談を実現し、再選に弾みをつける戦略を秘かに目論んでいるという。
現実的な外交では、中国とロシアの二正面展開を避けたい米国、政治的、軍事的、経済的封じ込めを打開して経済回復を急ぎたい中国――。
バイデン氏と習近平氏の虚々実々の思惑が交錯する中で、露払い役のブリンケン氏訪中の役割は、米メディアの報道による限り一応成功したかに見える。
(Blinken held 'candid' talks with Chinese foreign minister in Beijing - Nikkei Asia)
(After Months of Cold Shoulder, China Welcomes Antony Blinken to Beijing - WSJ)
もっとも、当初からブレークスルーは期待されていなかった。期待度が低いだけ、失点も目立たなかった。
バイデン政権としてはこの後、ジャネット・イエレン財務長官、ジーナ・レモンド商務長官、ジョン・ケリー気候問題特使を北京に送る一方、秦剛外相をワシントンに招いて米中首脳会談の道筋を作る算段だ。
だからと言って、米大統領選を来年に控えた米国でバイデン氏の描く対中政策が筋書通りに行く保証はどこにもない。
米国民から見ると、ブリンケン訪中はそれほどの関心事ではない。
米国民の中国嫌いは異常だ。米国民の50%が「中国は最大の敵」と答えている。10人中8人が「中国が嫌いだ」と答えている。
党派別に見ると、「中国が好きだ」と答えたのは民主党支持者では18%、共和党では6%、無党派層では17%となっている。
(Record-Low 15% of Americans View China Favorably)
その中国とコミュニケーションの場を作り、双方の相違をお互いに分かり合おうという「東部エリート的、上から目線」の説得は今の米国の一般国民には通用しない。
米一般国民は戸惑うだけだ。元々、一般国民は外交などには関心がない。だが選挙ともなれば、大統領以下、上下両院議員を決めるのは彼らなのだ。
(McMaster: Blinken China trip ‘may portray a bit of weakness’ | The Hill)
スパイ気球の決着はついていない
そうした状況下でブリンケン氏は、国務長官としては5年ぶりに中国の土を踏んだ。
2022年11月4日のインドネシアでのバイデン・習近平首脳会談を踏まえて、ブリンケン氏は当初、2月に訪中する予定だった。
ところがその直前、中国の気球が米本土上空に飛来。中国側は気象観測用の気球だと抗弁したが、米軍はこれをミサイルで撃墜。その瞬間写真を全世界に流した。
中国にとってはまるで軍用機が公衆の面前で撃ち落とされたような屈辱を味わったはずだ。
中国は技術的なミスで軌道を外れたとして意図的な領空侵犯ではないと主張し、今もって謝罪していない。
「この後遺症が、ブリンケン氏が執拗に軍事レベルでのコミュニケーションの再開を求めたにもかかわらず、中国は国防閣僚を含むすべての軍部高官との接触を強硬に拒否した要因になっているとみられる」と米軍事筋は指摘している。
さらにブリンケン氏の今回の訪中直前、中国がキューバ国内に諜報施設を設置することで合意したという情報が報じられた。
中国による台湾に対する軍事的威嚇は増えることはあっても減ることはない。
台湾防衛については、米国では党派を超えて支持する者が多い。米軍投入すら辞さぬといった声も根強い。
米国民の51%が台湾防衛を支持している。共和党支者では58%、民主党では55%、無党派層では41%だ。
「米軍派兵もよし」とする者は37%。共和党支持者では41%、民主党支持者では38%、無党派層では32%となっている。
(More Americans prefer taking a strong stand to protect Taiwan than would choose good China relations)
中国共産党にやりたい放題させている!
となれば、国務長官が5年ぶりに訪中し、習近平氏はじめカウンターパート(2人いる)の秦剛外相、王毅国務委員(外交担当)と会った際には、台湾問題では米国側の基本的姿勢を堂々と言うべきだった。
(ブリンケン氏は習近平氏との会談後、数十分にわたった記者会見で十二分に米国の立ち場を説明したと強調したが、共和党反中派の面々は全く納得していない)
(Secretary of State Antony J. Blinken’s Press Availability - United States Department of State)
最初にブリンケン氏の訪中が計画された2月、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)ら14人の共和党上院議員が、ブリンケン氏に連名の書簡を送った。中国共産党に対し、以下の点を厳重抗議するように求めていた。
①台湾海峡周辺、南、東シナ海における軍事的威嚇行為
③日米欧におけるスパイ諜報活動
④不公正な金融・通商活動
さらに今回の訪中に際しては、マイケル・マコール下院外交委員長(共和、テキサス州選出)が6月16日までに中国に対する経済制裁措置や対中輸出入制限などバイデン政権が行っている具体的な措置リストを文書で提出するよう求めていた。
(ブリンケン氏は期限切れ後も提出していない)
こうした一連の動きの中でマコール氏は、6月16日、ブリンケン氏に対し召喚状を送付し、下院外交委員会でバイデン政権の対中政策の全容について説明するよう求めた。
同氏は、召喚状を出すに当たってこう指摘している。
「バイデン政権は中国共産党の国際舞台での振る舞いを勇気づけている。バイデン政権は、中国共産党が米国の主権を脅かす行動を合法化させる以外の何物でもない」
「バイデン政権は中国がスパイ気球を飛ばしてわが国の領空を侵犯するという挑発行為にただ手をこまぬいて無能な対応をしている」
「バイデン政権は台湾との軍事的連帯を誇示するのをためらいがちだ」
(Republicans Attack Blinken for China Trip, Threatening Subpoena - The New York Times)
(US Lawmakers Discuss Expectations for Blinken Trip to China )
下院に新設された米中戦略的競争特別委員会のマイク・ギャラガー氏(ウィスコンシン州選出)は、「バイデン政権は中国に対する軍事的抑止力を弱体化させて、一体何をしようというのか」と、国防費歳出をめぐる議会審議で徹底的に追及するとしている。
ブリンケン訪中に一定の評価を与えている国際世論や外交専門家の見解とは裏腹に、ロンドン経由でワシントンに戻るブリンケン氏を迎えるワシントンの空気は冷ややかだ。
(Blinken Meets Xi as China and the U.S. Try to Ease Tensions - The New York Times)
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