韓国で会食する際のいま最大の話題は「円安と日本株高」だ。

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 いったいいつまで続くのか。考えるよりまずは動く。韓国人の経済活動も一気に変わってきた。

「給料をウォンでもらっていて良かったですね」

 最近、筆者は、知人からこう言われて苦笑した。

給料をウォンでもらっていて良かった?

 確かにそうだ。今の円安なら、何か得をした気分になる。

 日韓間を長年行き来しているが、まさかこういう時代がこんなに早く来るとは思わなかった。

 これは喜ぶべきことなのか。最近、韓国人ビジネスマンと会食をすると質問攻めに合う。

「円安」「(日本の)株高」。これが圧倒的な関心事だ。

 どうしてか、いつまで続くのか、という一般的な質問から、日本銀行の植田和男総裁はいつ金融政策をどのように転換するのか、さらに個別企業の業績見通しまで内容は様々だ。

 ここ数年で、韓国人がこんなに日本経済に対して関心を持ったことがあっただろうか。

 日本経済といえば「失われた30年」と「超高齢社会」。成長がなくなって、「反面教師」に過ぎなかった。関心の対象ではなかったのだ。

「円安」が急速に進んで、旅行先、買い物や食事を楽しむために関心が出た。それだけでない。株高や好調な企業業績までセットになると、がぜん経済全体に対する興味が出てきたのだ。

100円=1000ウォンだったのに・・・

 韓国では、過去10年以上、円ウォンのレートといえば「1対10」が基準だった。

「100円=1000ウォン」といった具合に表示することが一般的だった。

 つい2か月前の4月26日のレートは「100円=1004ウォン」だった。ところがそれ以降、急速に円安が進んだ。

 昨年来の「ドル高」で、円もウォンも対ドルレートが弱含みだったが、円ウォンレートは大きく動かなかった。

 ところが、ここへきて一本調子で対ウォンでも円安が進んだ。

 100円=900ウォン台になり、5月23日には、「100円=953ウォン」になった。その後もどんどん円安が進んだ。

衝撃の800ウォン台

 2023年6月19日午前9時前、韓国の外国為替市場で「100円=897ウォン」をつけた。一時ついに800ウォン台になったのだ。

 2015年6月25日以来、8年ぶりのことだった。

 ここ10年間で見ても、2015年6月の最安値(同年6月12日の100円=885ウォン)に迫る円安になった。

 衝撃の800ウォン台だった。

 ソウル中心部で両替店が多く並ぶ明洞(ミョンドン)のある両替店に午後行ってみた。ふだんより少し多い程度の混み方だった。

 顔見知りの店員に聞いたらこういう答えだった。

「2~3週間前に急速な円安が始まった時には両替に来る客は多かった。今はもっと円安になるとの期待感から、待っている人が多いのかな。もっと混雑すると思った」

 少なくとも、すぐに円高に戻ることはないと見始めているのだ。

 ちょうど両替に来ていた日本人観光客がいた。母親と娘さんだった。

「せっかくの韓国旅行なのに、円安になってしまいましたね」と聞いたら、「今は世界中どこに行っても円安だから覚悟して来ています」との話だった。

 海外旅行に出かける日本人にとって円安は「覚悟」が必要だが、韓国からの日本旅行熱はますます熱くなる一方だ。

 筆者の周辺でも、2022年末以降、「日本に行った」「日本に行く」という話をあちこちで聞いたが、最近は「2022年秋に入国規制が緩和になってから3回目」というような話を頻繁に聞く。

日本語不要の日本旅行?

 実際に、東京や福岡に行くと、韓国人の多さが本当に目につく。

 筆者の韓国人の友人は「最近、福岡に観光で行った。どこに行っても周りが韓国人だらけで『すみません』という日本語を使う必要もなかった」と笑う。

 日韓間の航空便はさらに増えており、一時はかなり高かった航空券料金もかなり「正常化」してきた。

 最近は、仁川(インチョン)福岡往復で10万ウォン台の航空券も出始めている。

 日本政府観光局がまとめた「訪日外客数(2023年4月推計値)」によると、2023年1~4月に日本を訪問した韓国人数は206万7700人で、全体の訪日外客数の30%を占めた。

 超円安の追い風を受けてさらに訪問客が増えそうな勢いだ。

円テクブーム

「円テク」

 最近、韓国メディに頻繁に登場する新造語だ。円に投資する財テクのことだ。

 安い円を今のうちに買っておこう。こういう動きが活発になっている。

 韓国メディアによると、4大銀行(KB国民、新韓、ハナ、ウリィ)を合わせた「円販売額」(ウォンを円に交換した金額)は、2022年5月には62億8500万円だったが、2023年4月に228億3900万円、5月に301億6700万円となった。1年間で5倍になった。

 また、2022年5月末時点で54452900万円だった4大銀行の円預金残高は、2023年5月末時点で6978億5900万円となった。

 2023年4月末時点では5788億900万円だったので、1か月間で1000億円以上増えた勘定になる。

 最近になって、円安・日本株高に注目した「日本株投資」にも関心が急速に高まってきた。

 大手証券会社が販売している日本円先物ETF(上場投資信託)は円安が進んだ6月19日だけで72億ウォンの投資を集めた。

 個別の日本株に対する投資も活発になってきた。

 5月は日本株を3441万7000ドル買い越した。人気銘柄は、ソニーアシックスなど韓国でも知られたブランドの企業のほか、ウォーレン・バフェット氏が追加投資したことが伝えられ、総合商社も注目を集めているという。

 こうした個人投資家の動きを反映してなのか、最近、韓国紙で日本の経済、特に企業、業界ニュースが増えているのが目につく。

円安は良いニュースか?

 もちろん、「円安」は日本に行く観光客にとっては良いニュースだが、韓国経済にとってそうともいえない。

 韓国紙デスクはこう指摘する。

「自動車、鉄鋼、石油化学分野で韓国企業は日本企業とグローバル市場で競争している。日本企業の輸出競争力がさらに高まるのではないか」

 輸出は最近の韓国経済の頭痛の種だ。2022年10月から8カ月連続して輸出額が前年同月比を下回り、15カ月連続して貿易赤字が続いている。

 6月の輸出は久しぶりにプラスに転じるとの見方も出ているが、「円安」は脅威だ。

 このデスクは「旅行収支がさらに悪化する」とも指摘する。

 新型コロナの流行による出入国規制が緩和されたことで韓国人が2022年末以降一気に「報復海外旅行」に出た。

 その中でも、日本旅行の人気が特に高かった。

 円安がさらに進んで、夏から秋にかけて、さらに日本旅行が増える可能性が高い。

 韓国の旅行収支は2023年1~3月に32億35万ドルの赤字になった。過去最大規模に迫る規模だったが。これが拡大する懸念もある。

 韓国紙デスクは「輸出が好調で貿易黒字が積み上がっている時期であれば心配無用だが、今は貿易赤字が深刻だ。こんな時に旅行収支の赤字が膨れ上がるのは韓国経済にとって打撃だ」と話す。

 この韓国紙デスクは「それでも円安はしばらく続くだろうし、韓国人日本旅行ブームもさらに高まるだろう」と読む。

 わずか4年前、日本政府による韓国向け輸出規制の発動を機に韓国で日本製品の不買運動や日本旅行に行かないなど「ノージャパン運動」が起きた。

 いまや、「ゴージャパン」が止まらない。

 日韓関係の好転や新型コロナによる各種規制の緩和に加えて、猛威を振るう「円安」。日韓間の人やマネーの動きを大きく変えている。 

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