背格好が金澤に酷似しているといわれる、銃撃発生直後に事件現場から立ち去る男の防犯カメラ映像
背格好が金澤に酷似しているといわれる、銃撃発生直後に事件現場から立ち去る男の防犯カメラ映像

ラーメン店主の山口組暴力団組長が射殺された事件が、新たな局面を迎えている。ネット上で拡散された犯行時の現場の防犯カメラ動画から、実行犯として別の銃撃事件で指名手配を受けている絆會ナンバー2の金澤成樹(本名・金成行)若頭の名が浮上していると、複数のメディアが報じているのだ。

【写真】指名手配されている金成行容疑者

ヤクザ映画さながらに、追っ手から身をかわしながら凶弾を放ち続けているとされる金澤若頭とは、どのような人物なのか。

金澤若頭は1968年生まれの大阪市出身。少年時代に、絆會の織田絆誠(本名・金禎紀)会長が大阪・天六地区で立ち上げた愚連隊集団・天誠会の下で渡世に足を踏み入れた。関西の暴力団事情に詳しいA氏が語る。

「織田会長は天誠会を立ち上げたあとに山口組の倉本組に入り、その後に山健組へと鞍替えするんだけど、金澤若頭は一貫して付き従い、長期服役も務めている。目立つタイプではなく、同じ在日コリアンでガキの頃からの親分である織田会長を立ててきた」(A氏)

大阪のヤクザだった金澤若頭は2010年代に入り、山健組の長野県松本市の系列団体である竹内組の三代目組長に突如任ぜられる。長野県内の飲食店関係者B氏が回想する。

「農業が主要産業で公営ギャンブルがなく、田舎過ぎてヤクザにとってはうまみの乏しい長野県ですが、それでも竹内組は県内最大の組織。初代は、三次団体の組長なのに五代目山口組の渡辺芳則組長の自宅にも出入りできるほどの人物。

そんな"名門"に金澤若頭が来たのは、山健組の最高幹部だった織田会長の当時の愛人が長野市の権堂のクラブに勤めていたので、長野県に足場が欲しかったからと言われていますが、金澤若頭も落下傘ながら組をうまく統率していたようです。県内選出の衆院議員が、竹内組が面倒を見ているキャバクラで女の子に暴行した際は、きつく脅しあげたそうです」(B氏)

■戦闘組織を統率

そして、2015年に山口組から離脱して神戸山口組が発足。竹内組は神戸側で奮戦した。長野市山口組弘道会の団体を解散に追い込んだり、山口組幹部の長野入りを妨害するために高速道路に車両を放置して封鎖。他にも、50人規模の相手にたった数人で特攻をかけたり、白昼にカーチェイスを繰り広げてその暴力性を際立たせた。金澤若頭も、弘道会の最高幹部の殺害を計画したとして殺人予備容疑で逮捕されたことがあった。

しかし、2017年4月に織田会長が神戸山口組を離脱して、新たに絆會の前身である任侠団体山口組を発足したのを機に状況は一変する。当初は神戸側の半数近くにあたる約700人を引き連れたという触れ込みで、金澤若頭は最高幹部になることで竹内組組長の椅子を後任に譲ったが、山口組の引き抜き工作などで櫛の歯が欠けたように構成員が減少した。

「織田会長は"任侠"を立ち上げる際、一部の者には『山口組に戻るためだ』と誘っていたが、そのうちに『話が違うやないか』と突き上げを食らって見限られたそうだ。天誠会からの仲間も離脱してしまった。組織の退潮を受けて、解散説が幾度も浮上した。

それでも、金澤若頭だけは織田会長のそばで組織の維持に懸命だったという。山口組からは『"任侠"のヤツらはカネがないのでいらないが、男気がある金澤だけは欲しい』という声もあったほど」(A氏)

2020年9月、度重なる解散騒動を受けて絆會から敵であった山口組弘道会系組織への移籍を決意した竹内組四代目組長の慰留のため、金澤若頭は長野県内で相対峙する。しかし、話の折り合いがつかず憤激。携帯していた拳銃を取り出し、組長の腹部めがけて発砲した。

組長は一命を取り留めたが、同じ釜の飯を食った手下を撃つという分裂抗争を象徴するような悲劇となり、金澤若頭は長野県警から全国指名手配が出され、潜伏生活に入る。

■横顔、歩き方が酷似!?

行方は知れず死亡説まで流れた金澤若頭が、再び抗争の俎上(そじょう)に載ったのが、今年4月22日神戸市内で起きた弘道会系組長が自ら経営するラーメン店で射殺された事件だ。

6月に入って流出した防犯カメラ動画では、黒い上下に手袋とマスクをした人物が懐に手を当てて来店し、40秒後にマスクが外れた状態で去る様子が映っている。

その細面の横顔や歩き方が金澤若頭に酷似していると業界内は大騒ぎに。時を同じくして、行方を追う長野県警が手配ポスターを一新して15000部も刷ったことで、金澤若頭犯行説は否応なしに急加速していった。

「『金澤若頭の犯行なら織田会長の指示。ただ、金澤若頭は捕まったら死刑が確実。そのうえ、自らラーメン店を切り盛りするぐらいの構成員を狙って、弘道会を本気にさせてしまったら割に合わなすぎる』(A氏)と否定的な見方はできる。

一方で、「『絆會は、同じく山口組と反目の組織から功労金を引っ張るために、弘道会のガードが手薄な構成員を狙った。まだ他のターゲットを狙っている』と言い張るヤツは多いし、去年の1月に茨城で山口組幹部が射殺された事件も金澤若頭のシゴトだという声まである」(A氏)という意見もある。

殺人未遂などの容疑で金澤成樹こと金成行は重要指名手配中だ
殺人未遂などの容疑で金澤成樹こと金成行は重要指名手配中だ

気になるのが兵庫県警の動きだ。事件直後から織田会長の神戸市内の自宅に警戒車両が張り付き、件の動画拡散後は2台に増えたという情報がある。

また、捜査関係者によると、事件直後に、逃走に使われたとみられる乗用車を発見し、この車両を手続きがないのに廃車しようとしたとして、元暴力団組員の男らを逮捕したが、現状は起訴猶予で釈放されているという。

「事件の関係者やクルマが分かっているということは実行犯もある程度特定できているでしょう。もし、金澤若頭の犯行だと断定している場合、長野が既にフダを出しているので、合同捜査本部を立ち上げない限りは兵庫が指名手配をかける必要はないです」(全国紙社会部デスク

様々な憶測が飛び交う中、金澤若頭は暴力と忠義という昔気質のヤクザ根性を身にまとい、不穏な凶状旅(きょうじょうたび)を続けている。

●大木健一 
全国紙記者、ネットメディア編集者を経て独立。「事件は1課より2課」が口癖で、経済事件や金融ネタに強い

文/大木健一 写真/長野県警、ツイッター

背格好が金澤に酷似しているといわれる、銃撃発生直後に事件現場から立ち去る男の防犯カメラ映像