サメ映画にちなんだサメ料理が味わえるレストランが高田馬場にあるとの噂。昆虫食や珍しい料理に造詣が深く、“虫食いライター”として活躍するムシモアゼルギリコさんが、そのサメ料理の全貌をレポートします!

 サメ映画がブームとなり、あっちでもこっちでも、ガブガブと人がサメに食べられまくっています。ところが現実のサメは人間をエサとみなしておらず、“シャークアタック(サメに襲われる事故)”は、一般にイメージされる数よりはるかに少ないのだとか。それでも強い! 怖い! 神秘的! というサメの存在感が、私たちを大いに楽しませてくれています。

 そして今、映画のサメからインスパイアされた“サメ料理”が提供される、驚きのフェアが東京で開催されているというので、さらなる楽しみが増えそうで……! 『ブラック・デーモン 絶体絶命』(松竹配給)の公開を記念した、タイアップメニュー企画としてサメ料理を提供するのは、高田馬場ジビエ居酒屋『米とサーカス』。ジビエ肉や希少食材を幅広く取り扱う、珍味マニアに愛される有名店です。

『米とサーカス』の店内の壁には珍しい肉の説明がズラリと並ぶ
『米とサーカス』の店内の壁には珍しい肉の説明がズラリと並ぶ

 タイアップメニューでは、お客から「いろいろなサメを食べたい」という声があがることを想定し、日本各地の港から食用としてメジャーなサメを各種仕入れているそう。シロザメ、アブラツノザメ、モウカサメ、アオザメ。これらが南米テイストの料理に仕立てられているのは、物語の舞台に合わせてのこと。

『ブラック・デーモン 絶体絶命』は、メキシコに実在する巨大ザメの伝説を、古代アステカの神の化身として描く海洋サバイバルスリラー。利己的な海底油田開発で、海を汚した人間への神罰なのか!? 神話を通じオカルティックな不気味さも漂わせつつ、容赦なく襲い掛かってくる巨大ザメのパワーは、恐怖を通り越し清々しさすら感じてしまうほど。

 昨今のサメ映画は、頭が6つになったり陸を走ったり空を飛んだり夢で会えたりとやりたい放題な印象がありますが、その中では比較的正統派サメ映画らしさ(って何だろう?)を味わえました。

VFXによって生み出された小型船舶をダイナミックに飲み込む巨大ザメ。(c)2023. Black Demon Movie, LLC. All rights reserved.
VFXによって生み出された、小型船舶をダイナミックに飲み込む巨大ザメ。(c)2023. Black Demon Movie, LLC. All rights reserved.

 人間では絶対かなわないパワーとスピード。恐怖の象徴である背びれが、目に入った時の緊迫感。しかも、助けが来ない海の上。そんなスリルを味わったあとに、陸で呑気に食べるサメ肉の味わいはきっと格別に違いない――というわけで、いざ高田馬場『米とサーカス』へ。畏れ多くも(映画では神の化身なので……)サメ料理を味わってみましょう。

サメ社会学者と一緒に魅惑のサメ料理に舌鼓!

サメ社会学者Rickyさん。自家製の骨格標本(右がアカシュモクザメ、左がクロトガリザメ)。サメは「軟骨魚類」のため骨が非常に柔らかいので、標本づくりは大変だと話す
サメ社会学者Rickyさん。自家製の骨格標本(右がアカシュモクザメ、左がクロトガリザメ)。サメは「軟骨魚類」のため骨が非常に柔らかいので、標本づくりは大変だと話す

 今回はサメの魅力をより深く味わうべく、特別ゲストとしてYouTubeやSNSでサメと人との関わりについて発信しているサメ社会学者・Rickyさんを、サメ肉の宴へお招きしてみました。

 料理を待つ間、Rickyさんはサメ映画をこう解説します。「ヒトは陸の生き物。サメは海の生き物。襲われないためにはどうすればいいか? 陸にあがればいい。でもそれだと終わっちゃうので、サメ映画はそこが工夫のしどころですよね。いかにサメの口に人を放り込むかを、自然にかつエキサイティングに見せるかが勝負でしょう。それができないサメ映画が、サメに陸を走らせるんです(笑)」

 なるほど~! と笑っているうちに、さっそく運ばれてくるサメ料理。いかにヒトをサメに食べさせるかという話を聞きながら、サメを喰らうという、ちょっとだけ倒錯のひととき……。

流出した油でドロドロの海。荒ぶるサメだけでなく、油まみれになるという生理的なイヤさも加わり恐怖度が跳ね上がる。(c)2023. Black Demon Movie, LLC. All rights reserved.
流出した油でドロドロの海。荒ぶるサメだけでなく、油まみれになるという生理的なイヤさも加わり恐怖度が跳ね上がる。(c)2023. Black Demon Movie, LLC. All rights reserved.

 映画では冒頭に、主人公は家族を伴い仕事で海底油田の採掘現場を訪れます。これが海に取り残され窮地に追い込まれる発端となるわけですが、そんな状況を料理で表現すると……? ヒタヒタの油でじっくり煮込む「アブラツノザメの油田アヒージョ」(980円)となるのです。脅威(=サメ)を煮てしまうと、ア~ラ幸せ。噛みしめるたびに、ギュッと締まった身からジュワッと出てくるうま味を含んだ脂がしみじみウマい!

 ちなみにアブラツノザメは、食用とされるサメの中でも特に味のよさに定評のある種類。かまぼこなど、練製品の原料にも使われます。「サメは白身で基本的に淡白な味わいなので、こうした味の濃いメニューは本当によく合いますね」とRickyさんの箸もすすみます。サメの専門家、お墨つき!

「アブラツノザメの油田アヒージョ」(980円)。食用のサメの中でも味の良さで知られるアブラツノザメは、かまぼこなどの原料となることもある
アブラツノザメの油田アヒージョ」(980円)。食用のサメの中でも味の良さで知られるアブラツノザメは、かまぼこなどの原料となることもある

 また、インパクト絶大な料理なら、シロザメの胎児(!)を丸揚げにした「BLACK DEAMONの丸揚げ」(780円)がそれ。機会があればなるべくサメを食べているというRickyさんも「サメ胎児のまるかじりは初めて」と驚きます。一般でもサメにまるかじりされる映画は数あれど、サメの頭にかぶりつける機会はそうそうないですからね。

「BLACK DEAMONの丸揚げ」(780円)。西日本では一般的に食べられるシロザメだが、胎児はなかなかレアかもしれない
「BLACK DEAMONの丸揚げ」(780円)。西日本では一般的に食べられるシロザメだが、胎児はなかなかレアかもしれない

 ビジュアルのインパクトもさることながら、サメの特徴を最も実感できるのもこの一皿の魅力でしょう。サメは「軟骨魚類」という種類の生き物で、歯を除くすべての骨が弾力のある軟骨(エイなども同類)。クセがないうえ小骨が存在しない柔らかい身は、お年寄りや子どもにも食べやすいハズ。

シロザメは成魚も1メートル前後と比較的小さめ。湯引き、フライ、刺身で食べられることも
シロザメは成魚も1メートル前後と比較的小さめ。湯引き、フライ、刺身で食べられることも

 この丸揚げも、衣のサクッと感を通過するとアツアツの身はフワッフワ! スルリと飲みこめてしまいます。食べ慣れている人なら「サメは飲み物」なんて思っている人もいそう。サメが練り物の原料に使われているのも納得の構造。学術的なシーンでは標本を作るのが大変難しいというハードルがあるようですが、食用の場合はメリットだらけに思えます。

 身の柔らかさはサメの種類によっても違うそうですが、Rickyさんによれば、生息域によって食感が変わるとか。

「今まで食べてきた印象ですと、海の底のほうに生息している種類は身がホロっとして柔らかい。このシロザメもそうですよね。比較的深度の浅いところに生息し、素早く泳ぎ回る種類のサメは身が締まっていて歯ごたえがしっかりしていることが多い」

 その柔らかいシロザメに対し、“身が締まっている”チームに属するのがヨシキリザメ。メニューを開発した料理長もそれを実感したことから、口当たりをよくするためにスープ仕立てで提供されます。「ヨシキリザメのアステカスープ」(1280円)がそれです。一般にヨシキリザメは鮮魚として出回ることは少なく、フカヒレや練り製品の原料であるので、こうした食べ方ができるのはかなり珍しいと思われます。

「ヨシキリザメのアステカスープ」(1280円)。トマトも実は南米と深く関わる食材。トマトの語源が、アステカだとされているのだ。映画の舞台となる土地の文化が、すべてのメニューにしっかり落とし込まれている
ヨシキリザメのアステカスープ」(1280円)。トマトも実は南米と深く関わる食材。トマトの語源が、アステカだとされているのだ。映画の舞台となる土地の文化が、すべてのメニューにしっかり落とし込まれている

 具はさっぱりしたサメの白身ですが、ダシに青森産の「サメ節(ぶし)」が使われているのもポイント。ベースのトマトと合わさって深いコクが味わえる、絶品スープです。

 このほか、トルティーヤとアオザメの肉をミルフィーユ状に重ね、チーズをたっぷりかけて焼いた「アオザメのパン・デ・カソン」(1080円)も食べやすさ抜群。取り残された採掘場で、主人公家族がかろうじて口にする缶詰食をイメージしたものです。同作を見てから食すと、説明を聞くまでもなく「あのシーンかな」という既視感が……。チーズたっぷりでビールがすすむ!

「アオザメのパン・デ・カソン」(1080円)。トルティーヤとサメ肉をミルフィーユ状に重ね、チーズをかけて焼きあげた一品。数あるサメの中でも最も速く泳ぐとされるアオザメの力強さをかみしめよう
アオザメのパン・デ・カソン」(1080円)。トルティーヤとサメ肉をミルフィーユ状に重ね、チーズをかけて焼きあげた一品。数あるサメの中でも最も速く泳ぐとされるアオザメの力強さをかみしめよう

激レア食材「モウカの星」も味わえる!

 さて、筆者の個人的ハイライトは、珍味好き垂涎の「モウカの星」。モウカザメの心臓です。砂肝のようなシャキッとした歯ごたえと、レバーを感じさせる風味が特徴。「モウカザメの心臓入りセビーチェ」(880円)は、うす切りにしたモウカの星をマリネにして、まわりに低温調理で加熱した白身をあしらった一皿。

「モウカの星は僕も一番好きなサメ料理です。でも頻繁には食べられないので、嬉しいですね~」と頬をほころばせながらRickyさんの解説が入ります。「モウカザメは、正しくはネズミザメという名称です。しかしネズミという名前が食用には不向きだからなのか? 食用になった時点でモウカという名前に変わります」(Rickyさん)

 サメにはいろいろな名称があり、かつて「ワニ」と呼ばれていたのは『因幡の白兎』(日本神話に登場する物語)で広く知られています。神話に出てくる生き物はワニと表記されてきたものの、実はサメだと考えられているのです。ほかにもフカ、イラギ、モロなど、様々な呼び名があるのも面白いですね。

都内では、なかなかお目にかかれないモウカの星(モウカザメの心臓)。
都内では、なかなかお目にかかれないモウカの星(モウカザメの心臓)。

 今回はどの料理からも、サメの優しい味わい、食べやすさが存分に堪能できました。ところが意外にも、かつてサメは「臭い肉」とされてきた歴史があります。

「サメの血液中に尿素が豊富に含まれるので、それが分解されるとアンモニア臭を放ちます。しかしそのおかげで、保存が効くという利点もあります。冷蔵庫のない時代でも海のない地域へ届けることができ、サメ食文化が発展しました。当時は臭みを消すために、ショウガなどを効かせて食べていたようですね」(Rickyさん)

 現在は輸送システムや下処理の技術が発達したため、サメ肉のそうした負の特徴を感じる機会はほぼなくなり、こうして臭みもクセもない上品な味わいを楽しめるようになったわけです。

 映画公開記念のタイアップ企画は6月30日までですが、その後も店では新たなサメ料理がメニューに並ぶ予定だとか。サメが初めてという人も、サメは久しぶりと言う人も、サメ映画が好き! という人も、きっと満足できるハズ。

●SHOP INFO

店名:米とサーカス

住:新宿区高田馬場2丁目19−8
TEL:03-5155-9317
営:月~金16:00~23:00(火曜は17:00~)
土日祝12:00~23:00
(フード・ドリンク22:00LO/テイクアウト~22:00)
休:無休
※6/26~7/2は店舗改装のため休み。その間、系列店『米とサーカス 渋谷PARCO店』は営業。

●MOVIE INFO

『ブラック・デーモン 絶体絶命』全国で絶賛公開中

監督:エイドリアン・グランバーグ
配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/blackdemon/
(c)2023. Black Demon Movie, LLC. All rights reserved.

●著者プロフィール

ムシモアゼルギリコ
フリーライター。記事の執筆のほか、TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めている。昆虫食だけでなく、一般の食卓では見かけないような食材を追うのが好き。著書に『びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい むしくいノート』(カンゼン)、『スーパーフード! 昆虫食最強ナビ』 (タツミムック) 。

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