ガールズパレード

今月、水着撮影会の埼玉県営プール使用中止を求める動きが起きた。

それに対して、ABEMA Primeコメンテーターあおちゃんぺが、「水着撮影会やグラビア、アイドル、コスプレなど自分を表現する場を守るべく魅力を伝えるガールズパレード」を6月18日に開催したことがSNSで話題になっている。

このパレードに参加した約300人のうち、グラビアモデルなどの女性が27人(主催者発表)と、業界で活躍する女性の参加が少なかった結果をどう見るかについては、どういう立場や知見から見るかによって、全くリテラシーや評価が異なる。


画像をもっと見る

■参加者を揶揄する見方も

国内外のエロ産業界の当事者たちの“市民的動員”事情を現地取材してきた私から見たとき、「あれが『水着撮影会の仕事を奪うな』の『世論』か」と一種揶揄を込めた見方には到底肯首することができない。

別に私の多少の経験や知識に照らし合わせるまでもなく、ある主催者による1回のパレードの動員数と内訳で特定のコミュニティ内の「世論」など判断できるわけがなく、様々な差別反対運動に関わる人々がそれを言うのであればブーメランでしかない。


関連記事:「プール撮影会」中止騒動、共産党の“勝手な言い分”にイベント運営側は怒り 1000万円超の損失か

■女性参加者が少なかった理由

「水着撮影会中止に反対した人々のほとんどは男性たちなんだね」と、わざわざ確認したいようなツイートをする人々には、「今回、水着撮影会中止に反対した人々が、女性たちであってほしくない」という願望と、「パレード参加者に女性たちが少なくてよかった」という安堵が見てとれる。

今回のあおちゃんぺ主催のパレードに男性参加者が多く、女性参加者が少なかった事情や背景などをちゃんと見るべきだと思う。

当事者たちの意見を確認したり、当事者たちの意見を政治的に反映させたくない人達にとっては、こうした分析は迷惑でしかないだろう。

しかし、当事者抜きで当事者に関わることを決めてはいけないという民主主義が大事だと思うのであれば、なぜ女性の参加者が少なかったのかにまず関心を持つべきだ。


■芸能の仕事をする人は社会的活動に参加しづらい

あおちゃんぺ自身がパレード呼びかけ当初からTwitterで言っていたように、グラビアやモデルなど、人前に出る仕事をする人たちは事務所に所属していることが多い。

そのため、メディアが来るようなところに自分だけの判断で出ることができず、また、政治的な意味があると見做されるようなところはNGの人がほとんどだ。

政治的でなくても、芸能人やアイドル、AV女優などイメージを大事にする仕事をする人たちは、社会に対して意見を主張するというのは半ばタブーになっていると思う。

だからパレードに参加したくても参加できない人もたくさんいたと思われる。これは私自身昨年選挙に出たので経験上も知っている。

そういう背景も考慮せずに、「グラビアの女性当事者の参加が少ないじゃないか」と、水着撮影会中止問題について意見を持っている当事者がまるでほとんどいないかのように、あるいは意見のある当事者らを無効化するかのように言うのはいかがなものだろうか。


■動員を左右するもの

あおちゃんぺ主催のパレードはよくあるパレードやデモのように、組織化されたものではない。

日本でよく行われる女性たちのデモやパレードは、賛同団体を集めたり、普段からまたは事前にオンライン/オフライン上でネットワーク構築されていたり、普段の活動で長年の繋がりや協働があったり、それぞれの団体の構成員や地域から参加者が動員されたり団体内でも情報がまわるので、必ず一定数は女性たちが集まる。

風俗嬢などの性産業従事者であってもやはり組織化すればたくさん集まる。過去、今よりもスティグマの強い赤線の時代(昭和31年)でさえ、売春防止法反対集会に1,500人の赤線従業婦たちが集まった。

吉原

このときは、都内各地にあった赤線従業婦組合の構成員らによって結成された東京都女子従業員組合連合会が主催した。

■韓国でも6千人が集結

韓国

現代の韓国でも、性売買特別法(2004年施行)反対の国会前集会には6,000人のセックスワーカーたちが集まり、その後も10年以上に渡り毎年当事者女性たちがソウル市街でデモや集会を行なった。

このときは韓国内12地域のセックスワーカー約7,000人からなる「ハント女性従事者連盟」がオーガナイズした。

性に関わる仕事をする女性たちはパレードやデモに集まらないとか少ないというのは嘘で、そのような嘘を広めようとする人達は、当事者の意見をないことにしたいだけだ。


■短い告知期間と限定的なテーマ

あおちゃんぺの場合、一個人が単発的に突発的にたった1週間でTwitterのみで呼びかけて準備し、誰でも参加可ではあったが、特に彼女はグラビアやモデル等のお仕事をしている女性たちに向けて参加を呼びかけることに注力していたと思う。

しかも埼玉の撮影会中止問題というローカルすぎる、仕事の幅も限定的すぎるテーマでだ。

そんな条件のもとで、よく30人近くも女性たちが集まったと思うし、この条件でなかなか簡単にはできないことだと思う。ほめることはあっても、決して貶すことではない。


■男性参加者が多かった背景

今回の水着撮影会中止問題で、コスプレ撮影等にも波及するのではないかという危機感も幅広く共有され、特に男性のパレード参加者増に繋がったのは、コミケなど一大文化圏で、何十年も前からコミュニティ構築がされてきているからだろう。

組織化されていなくても、コミュニティ構築(※)されていれば、どんなコミュニティでも動員力があると思う。

(※私なりの「コミュニティ構築」の意味は、コミュニティの人々の間で歴史や文化を共有しバトンを受け継ぎ発展させてきたという実感や経験、コミュニティに助けられたり貢献してきたことなどがたくさん言葉にされていること、有形無形に残っていること)


■性産業は当事者性の短さが課題

一方、私のライフワークである性産業のコミュニティ構築はどうだと言われば、これもどこからみるかによって様々な見方があるだろう。

私がすぐ思いつくこととして、一定のコミュニティ構築を達成している他のマイノリティや他の被差別のコミュニティと性産業が違うところは、性産業に従事する人々の勤続年数が非常に短いということである。

この当事者性の短さが、差別と闘うアイデンティティ形成において影響があると思う。その他考えられる要因については、今後分析を進めていきたい。


■今後の不安へのオルタナティブ

以上は、活動家である筆者の、”市民的動員”という、これまた偏った狭い関心から言っていることであって、あおちゃんぺ本人の関心はもっと幅広い。

パレード終了後のこのツイートからもわかるように、水着等の仕事の場や機会が今後減るかもしれない不安な状況に対する、あおちゃんぺなりのオルタナティブとしてのパレードでもあったと思う。

実際彼女は、パレードやアフターパーティーに参加する女の子たちにギャラを払うためにお金を700万も集めた。水着撮影会中止への反対運動としてだけみてコメントするのも、筋違いかもしれない。

仕事提供の場として成功させ、たったひとりですごい偉業だと思う。パレードのそういう側面もちゃんと見ている人はどれくらいいるだろうか。


■参加男性への差別をやめよ

最後に、もうひとつ呼びかけたいことがある。パレードに参加した男性たちに対する差別的なツイート、パレードを揶揄するツイートが散見される。

中には、いじめで使うような言葉の数々が浴びせられていたり、彼らを犯罪予備軍のように言う人もいた。普段、様々な属性に対する差別に反対する人であれば、属性と犯罪を疑うような言葉を安易に結びつける言い方には慎重になってほしい。

いじめを誘発するような言葉を発するのもやめてほしい。そこにいるのは、心を持った人間であることをどうか忘れないでほしい。


■執筆者紹介

要友紀子

要友紀子:セックスワーカーの健康と安全のために活動する団体SWASH代表 。アジアのセックスワーカー団体のネットワーク組織APNSW運営委員。

2018年、『セックスワーク・スタディーズ』(SWASH編、日本評論社)を仲間たちと出版。2020年、『社会学評論』に寄稿。2022年、立憲民主党から参院選に出馬し落選。

・合わせて読みたい→楽しんごや橋本愛の投稿も話題のLGBT法案 7割が「慎重に検討を」

(寄稿/SWASH代表・要友紀子

あおちゃんぺ主催「ガールズパレード」への批判や揶揄が的外れである理由 男性参加者が多かった背景とは