配達先のホテルで外国人宿泊客へ商品を渡すときには目のやり場に困ることも......?
配達先のホテルで外国人宿泊客へ商品を渡すときには目のやり場に困ることも......?

連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長チャリンコ爆走配達日誌】第3回

ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!

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5月8日から感染症法の分類が5類へと引き下げられるなど、新型コロナウイルス感染症に関する規制が大きく緩和されました。
 
思い返せば2020年に緊急事態宣言が出され、外出が規制される中、ほぼ無人の新宿、渋谷、銀座などで配達していたので、最近は自転車で走っていると、歩道を行き交う人の多さだけではなく、道路を走る観光バスの数が相当増え、人出が戻ってきたなと感じます。

【写真】閑散として人通りはほとんどなかった緊急事態宣言中の銀座

最初にそれを感じたのは2022年の秋。GoToトラベルの再開が話題となっていたあたりです。東京オリンピックが開催されることが決まった2013年以降、私がよく配達をしている銀座、日本橋エリアでは1泊1万円前後のホテルがどんどん建てられ、大きな通りから1、2本裏に入った通りにも林立していますが、その頃を境に、朝の時間帯を中心にこれらのホテルまで配達するという依頼がものすごく増えたのです。

ホテルへの配達の場合、フロントのあるフロア、もしくは建物の入口で料理を受け渡すことになるため、注文された方と軽く言葉を交わすのですが、そのほとんどが外国の方。白人系、黒人系、アジア系とさまざまですが、交わす言葉は「Thank you」程度のものなので、どこの国からいらしたかはわかりません。また、ホテル内なので、館内着やガウンをラフに着た外国人宿泊客へ商品を渡すこともしばしば。相手が女性の場合はどうにも目のやり場に困ってしまう、なんてこともありました。

その人たちが注文するのはマクドナルドやスターバックスなど、海外でも展開するチェーン店のモーニングメニューが中心ですが、アプリに表示される料理の写真がおいしそうに見えたのか、コメダ珈琲店や上島珈琲店など日本の喫茶店チェーンのモーニングセットを頼む人も結構いました。きっと朝、ウーバーイーツでモーニングを頼んで、部屋で食事をとってから、観光に出かけるんでしょうね。

ちなみに、注文される料理の量はひとり分ばかりでしたが、それは個人旅行で来ているからではなく、支払いが個人のクレジットカードとなっているため、友人と一緒の旅行の場合でもそれぞれが自分のアプリから料理を頼んでいるからでしょう。

調べたところ、ホテルへの配達が増えたのは個人旅行で日本を訪れる観光客へのビザの発給が再開されてから間もない頃。ということは、日本への個人旅行が再開されるのを待ち望んでいた人がたくさんいたということなのですね。

また、2022年の秋は円安が進んでいて、海外の方にとって日本のウーバーイーツは自国で普通に外食するよりもはるかに安いという状況も、お店で食べるより割高なウーバーイーツの利用を後押ししたのかもしれません。

昨年は、東京オリンピックの取材でやってきた海外のメディアの方が宿泊する場所、もしくは東京都がコロナ療養施設にしたところ、というのがホテル配達の定番でしたが、この1年で大きく変わったものです。

緊急事態宣言中の銀座。現在は観光客などでごった返しているが、当時は閑散として人通りはほとんどなかった
緊急事態宣言中の銀座。現在は観光客などでごった返しているが、当時は閑散として人通りはほとんどなかった

一方、日本人の観光客が増えたと感じたのは2022年の年末。クリスマスあたりから銀座、日本橋エリアのホテルへの配達で日本人の方に渡すパターンがグッと増えました。

日本の観光地を巡り、食も満喫したい外国の方は、観光に出かける前の朝食を注文する人が多いのに対して、日本の方は年末年始に東京観光やディズニーランドで遊んだあと、20時以降の遅めの時間帯に注文する人が多かったです。

そういえば、クリスマスの日にホテルまでピザを運び、フロントで待機していたら、手を繋いだカップルが登場。その時は「48歳のおじさんが変な想像をしてしまうから、どちらかひとりで受け取りに来たらいいのに......」と思いつつ、目を合わせずにピザやポテトを渡しました。

その後、二匹目のドジョウ(生々しい感じのカップル鑑賞)を狙い周囲を回っていたら、神田駅近くの店からラブホテルまでの配達依頼が。ホテルの場合、普通はフロント受け渡しですが、受付のおばちゃんに聞くと「部屋へ直接行ってくれ」と。しかも配達指示の画面を見ると、ドアの前に置く「置き配」ではなく、直接受け渡しと書いてある。これは先ほどより生々しいものが!と、期待と体の一部分を膨らませながらノックしたら、出てきたのは腰にタオルを巻いた中年男性でした......。

クリスマス最後の配達が裸の中年男性で終わるのはイヤなので、採算度外視でこのラブホテル界隈を回っていたら配達の依頼が。店で料理を受け取り、配達でインターホンを押すと、スピーカーから「サンタさんきた?」と眠気と戦いながら一生懸命サンタさんがくるのを待っている子供の声が聞こえて、ラブホテル狙いの自分が情けなくなり......って、話がそれてしまいましたね。

こんな感じで観光客の注文は春になる前から戻ってきていますが、今月(2023年6月)に入って戻ってきたのがオフィスへの配達。

東京駅北側の大手町エリアにはたくさんのオフィスビルが建てられ、コロナ前はランチタイムになるとオフィスへの配達で忙しかったのですが、リモートワークの普及で配達が激減。コロナ5類移行後もしばらくは訪れても依頼がほとんど入りませんでした。ところが6月に入ったあたりからランチタイムの配達数が爆上がり。どんな事情があったのかはわかりませんが、リモートよりもある程度はオフィスで顔を合わせてたほうが仕事の効率がいいのでしょうか。

緊急事態宣言中の東京駅。駅北側・大手町エリアにあるオフィス街への配達数は6月に入ってようやく戻ってきた
緊急事態宣言中の東京駅。駅北側・大手町エリアにあるオフィス街への配達数は6月に入ってようやく戻ってきた

一方、依然として閑古鳥なのは夜10時以降の配達。以前はファストフードや牛丼チェーン店、ファミレス居酒屋など、深夜も営業する店はたくさんあり、配達もそこそこありましたが、コロナで生活のスタイルが大きく変化。都内でも夜10時を過ぎると店が一気に閉まり、営業しているのはコンビニ程度。食べたいものがあっても店がやっていなければどうしようもなく、注文が減ってしまうのは致し方ないことですが、都内ではコロナで夜の風景が変わってしまったという印象です(新宿の歌舞伎町など、依然として変わらないエリアも一部ありますが)。

リモートワークが進んだことで生活のスタイルが変わったというのもありますが、ファミレス牛丼屋は24時間営業が当たり前、という感覚で過ごしてきたおじさんにとって、現在の深夜の光景は少々寂しいものです。

渡辺雅史(わたなべ・まさし) 
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。

文・撮影/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明

配達先のホテルで外国人宿泊客へ商品を渡すときには目のやり場に困ることも……?