東京を舞台に異常な光景が繰り広げられている。5月の人口は1408万人と過去最多を記録し、新築マンションの平均販売価格は1億円を超え、株価は連日のようにバブル以降の最高値を更新している。1990年前後のバブル期を彷彿させる現象だ。しかし、世界経済を見ると米国や中国、新興国などで不気味な動きがちらついている。「東京バブル」は大丈夫なのか。

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年間8.6万人ペースで増え続ける東京の人口

 東京都の最新人口(5月1日現在=推計人口)が1408万5336人と過去最高を記録した。前年同月比で6万8390人の増加だ。

 前月と比べると23区は全て増加。人口が減ったのは青梅市東久留米市武蔵村山市瑞穂町檜原村の5市町村のみである。2003年(平成15年5月)は1236万人だったから、この20年間で172万人も増えたことになる。年間8.6万人増ペースである。172万人と言えば、熊本県173万人)の人口とほぼ同じである。

 ちなみに東京の人口が1000万人になったのは1962年昭和37年)。最初の東京五輪の2年前である。1200万人超となったのは2000年(平成12年)。200万人増えるのに38年かかっている。年間平均増加数は5.26万人。この20年間は高度成長期よりも東京一極集中のスピードが増しているということだ。

バブル後の最高値を更新する株価の「不安」

 人の集まるところにはカネが集まるのが、世の常である。日経平均株価が連日高騰している。

 バブル崩壊後の最高値を更新し、6月13日にはついに3万3000円を突破した。1990年前後のバブル期と現在を比べると日経平均を構成する銘柄が大幅に入れ替わっていることもあり、単純な比較は意味がないかもしれないが、「年内に3万5000円」なんて声も出ているほどだ。

 実体経済の回復がなかなか進まず、物価高で実質賃金は13カ月連続で減少中である。そんな経済情勢の中で、1カ月間で日経平均が3000円、率にして1割も急騰している現状は、やはり異常としか言いようがない。

 市場関係者からは「今回の株高は異次元の金融緩和と超低金利、そして円安によってもたらされている」といった指摘が出ている。企業業績好調を受けての上昇局面ではないだけに不安が残るところだ。

1億円超の“億ション”が全体の46%を占めている

 バブル現象は不動産市場にも及んでいる。

 不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向」(5月)によると、首都圏の供給戸数は1936戸で前年同月比21.5%減、平均価格は8068万円(同32.5%高)。東京23区は、供給戸数886戸(同7.5%増)、平均価格1億1475万円(同47.9%高)となっている。価格急騰が止まらない。

 23区の状況をさらに詳しく見ると驚きの事実が浮かび上がってきた。供給戸数610戸のうち、1億円以上の物件は全部で328戸あり、全体の37%を占めている。このうち2億円以上が62戸、3億円以上が36戸ある。

 23区全体の契約率は78.6%だが、1億円台は83.9%、2億円台は96.7%(未契約2戸)、3億円以上は97.2%(未契約1戸)である。高額物件ほど売れているのである。世帯年収2000万円ほどの“パワーカップル”が高額のタワマンを購入していると言われているが、2億、3億の物件は明らかに投資用だろう。庶民には縁のない世界である。

 人口増、株高、不動産高騰とメガシティー・東京はまさにバブルの真っ最中といっていいのではないだろうか。

世界各地で「変調のシグナル」が点滅中

 問題は、この状況がいつまで続くのか。いや、バブル現象がいつ弾けるか、である。過去最高規模の膨れ方をしているだけに、その反動が恐ろしい。世界経済の現況を見渡すと、すでに危険なシグナルが点滅しているという。どういうことか。グローバルエコノミストの斎藤満氏がこう指摘する。

「米国がインフレ対策で金融引き締めを続けていることでドル高基調となり、対外債務を多く抱えている新興国の経済に影響が及んでいます。アジアやラテンアメリカの新興国では通貨安から輸入が減少している。目立たない動きですが今後注意が必要です。

 今後の世界経済を見るうえでやはり注目は米国経済でしょう。金融引き締め下でも、ウクライナ情勢の影響で軍需関連産業が潤い、全体的には堅調です。ただし、ここへきて商業用不動産市場に危機感が漂っています。

 FRB(連邦準備制度理事会)は6月こそ利上げを休止しましたが、7月は再び利上げに動く可能性があります。そうなると、不動産に投融資している中小金融機関やファンドは大きなリスクにさらされるうえ、金利上昇を嫌気して資産価値が下落する恐れがあります。米国の不動産バブルが弾けるかどうか、気にかかるところです」

 米国ではFRBの金融引き締め政策による米国債の価格下落などで中堅銀行の破綻が相次いだ。またローン金利の上昇などを受け、不動産市況の悪化が顕著となっている。コロナ禍でのテレワーク浸透でオフィス需要が低下したことに加え、相次ぐ利上げで景気の先行き不透明感が漂い、商業用ビルの空き室状況が高まる一方だという。

 米国の株式市場も一本調子の上げではない。6月16日は、FRBの金融引き締めが長期化するとの懸念から売りが優勢となり、前日比108ドル94セント安の3万4299ドル12セントで引けた。先行きを不安視する投資家は少なくないのだ。

先行き不透明な中国経済

 GDP世界2位の中国経済の行方も気がかりだ。

 今年に入り、地方政府の財政が深刻な財政難にあえいでいる。過去のインフラ整備への過剰投資に加え、コロナ禍で景気下支えのために大量の地方債を発行したことも加わり、過剰債務に陥っているというのだ。地方銀行の取り付け騒ぎや倒産も伝えられている。

 さらに一帯一路政策で支援してきた途上国の経済状況が思わしくなく、途上国向け債権の多くが不良債権化しているとの指摘がある。過去3年間に焦げ付きが明らかになった債権は10兆円を超えたとも報じられた。

 経済全体でみても減速感が色濃くなってきている。国家統計局が公表した5月の製造業PMI(購買担当者景況感)は48.8と2カ月連続で50を下回り、5カ月ぶりの低水準となった。生産活動を示す「生産」も49.6で4カ月ぶりに50を下回り、減産の動きがみられる。「輸出向け新規受注」も47.2と低調だ。内需外需ともにさえない状況がうかがえる。

 このままいくと、中国政府が掲げる2023年の実質成長率目標である「5%前後」は達成困難との見方が強い。

植田日銀が金融政策の変更に踏み切る可能性

 新興国だけでなく、世界経済をけん引する米国や中後にも不安材料、懸念材料が山積するなか、最大のポイントは日本の金融政策が今後どうなるのかだ。

 植田和男日銀総裁は6月9日の衆院財務金融委員会で、「粘り強く金融緩和を継続していく」と強調した。しかし、食料品から電気代まで物価高騰の影響で庶民の生活は苦しさを増すばかり。

 日銀の「生活意識に関するアンケート調査」最新版(3月)では、1年前と比べて「暮らしにゆとりがなくなってきた」が56%、「支出が増えた」が60.2%に達している。物価高についても62.8%が「かなり上がった」と回答。高騰率の平均値はプラス14.6%だった。

「物価高で苦しんでいるのに、インフレを放置している日銀に対して国民の怒りは爆発寸前です。これ以上金融緩和を続けていくのは困難。官邸からのサインもあるかもしれない。近いうちに修正局面が訪れるはずです。

 米国の7月の再利上げ、日銀の金融政策修正のタイミングが、今のバブル的な状況の大きな転換期となる可能性があります。ちょっとイヤな感じがしますね」(前出・斎藤氏)

 早ければこの夏にも大きな変化、変調が訪れるかもしれないというのである。

 今回の局面で見逃せないのは、株式相場も不動産市場も主役は外国人投資家だということ。日本国内の動きよりも前に、米国や中国で何らかの危機的状況が露呈すれば、日本への悪影響を察知していち早く資産を売却し、日本市場から逃げ出す可能性があることだ。

 それが発火点となり、株価も不動産価格も下落の一途となる。その先には想像もしたくない展開が待ち構えているかもしれない。そんな悪夢のようなシナリオもささやかれ始めている。杞憂に終わればいいのだが。

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