Suica首都圏から長野まで使えるようになります。いっぽうで切符のルールに変化があり、「途中下車不可」など意外なデメリットも。何に注意すればいいでしょうか。

Suica首都圏エリアが長野駅へ拡大

JR東日本が発行する交通系ICカードSuica」の「首都圏エリア」の利用可能範囲が、2025年春からさらに拡大します。6月20日の発表によると、もともと長野県松本市までだったエリアが、篠ノ井線経由で長野駅まで、大糸線は穂高駅まで。計23駅が新たに追加されることとなります。

これにより、たとえば長野駅で「ピッ」と入場し、東京駅で「ピッ」と出場することができるようになります。特急に乗る場合は別途、車内やホーム券売機で特急券を買うだけで済みます。

ここで鉄道ファンを中心にSNSで話題となっているのが、長野駅をはじめ当該区間が「東京近郊区間」に組み込まれるのではないかということです。

JR東日本長野支社にたずねたところ「そのとおりで、Suicaエリア拡大にあわせて、東京近郊区間長野駅、穂高駅まで拡大されます」との回答でした。

Suicaエリアと東京近郊区間の拡大、何が一体どうなるのでしょうか。

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JRの運賃には特例があり、東京・新潟・仙台・大阪・福岡の5つの「大都市近郊区間」が設定されています。ひとつの大都市近郊区間の中で移動が完結する場合、「最短経路で運賃を計算する」こととなっています。

ICカードは「乗車駅」「降車駅」の2情報でしか運賃計算できず、厳密な移動距離にもとづく一般の運賃計算ルールを運用できません。そのため、Suicaエリアの拡大と近郊区間の拡大は「不可分の関係」というわけです。

ちなみに、この「近郊区間の特例」を利用して最大限の鉄道旅行を楽しむのが「150円大回り」というもので、たとえば東京駅から総武線に乗り、千葉から房総半島を一周して我孫子・小山・高崎・大宮・新宿とぐるっと回って……最後に東京駅の一つ手前の有楽町駅で改札を出ても、ひと駅だけ乗った扱いで運賃計算されるのです。ただし、途中下車はできず、同じ駅や経路を2回以上通ってはいけません。また、移動できるのは当日のみです。

途中下車ができなくなる!?

いっぽうで、「大都市近郊区間」の拡大によるデメリットもあります。それは、先述の「途中下車NG」「有効期限1日」ルールが適用され、本来の長距離鉄道旅行の自由度が狭まってしまうということです。

近郊区間の特例に当てはまらない一般的なきっぷは、100kmを超えると有効期限が2日、3日…と長くなっていきます。さらに一部例外をのぞき、途中下車も可能。単なる目的地への移動だけでなく、道中のあちこちで改札を出て、途中宿泊しつつのんびり歴訪するのもまた、旅の醍醐味でした。

今回、東京近郊区間が拡大すると、たとえば熱海や千葉、水戸から長野まで行く場合も、有効期限1日、途中下車不可になります。甲府でいったん降りて名物「ほうとう」を食べたり、松本で観光して1泊し、翌朝また長野へ向かうという旅をする場合、それぞれの乗り降り区間のきっぷが必要となってきます。

もともと中央本線の韮崎駅が西端だったのが2014年に岡谷・塩尻・松本へ拡大した際も、鉄道旅行ファンのあいだで「ただの移動しかできない」「1日でとても無理」など嘆息の声が上がりました。今回いよいよ長野行きにも拡大とあり、SNS上ではやはり残念がる声が上がっています。

とはいえ、先述の長野支社も「長野へは便利な北陸新幹線をご利用いただければ」と話すほか、在来線特急「あずさ」なども運行されているため、「1日で移動できない問題」自体は特に大きくなく、「歴訪できない問題」が旅情という側面で最大のデメリットと言えるでしょう。

中央本線などで使用されていた電車(画像:写真AC)。