甲子園で実績を残せなくとも、プロで開花する選手は少なくない(C)ACPHOTO

 高校球児にとって、最後の公式戦となる夏の地方大会がこれから本格化していきます。

 選手にとっては「負けたら終わり」の緊張感の中で、仲間と白球を追うラストサマーですが、この夏が「勝負」となるのはプロ野球のスカウト陣も同様です。

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 パ・リーグ球団のベテランスカウトは言います。

「高校球児は『3年間の思いを夏にぶつけます!』とか言うでしょ。あれはウソ。厳密に言えば、高校野球って2年3か月しかできないんですよ。夏の甲子園大会に出場できる選手はほんの一握りなので、他の逸材はみんな予選で高校野球を終える。その後も練習には参加するんだろうけど、真剣勝負のパフォーマンスは甲子園組を除き、この7月にしか見られないわけです。その中で秋のドラフトで誰を指名するかを見定めなくてはならない。我々も失敗は許されません」

 どの選手に伸びしろがあるのか。将来性があるのか。

 スカウトの視点は今のチーム内での評価と乖離することも珍しくありません。2018年、夏の甲子園大会を圧倒的な強さで勝利した大阪桐蔭がまさにそうでした。

 最強世代からは根尾昂藤原恭大、柿木蓮、横川凱の4人がドラフト指名され、プロの世界へ。

 当時のアマチュア担当記者は言います。

「投手としてチーム内で一番評価が高かったのが柿木。済美との準決勝での完投勝ちに続き、吉田輝星を擁する金足農との決勝マウンドを託され、見事に2失点完投勝利をマークしたことからも、信頼度の高さがうかがえます。次がショートも兼務していた根尾。2回戦・沖学園戦での先発8イニングに続き、準々決勝の浦和学院戦に先発し、5回2失点とゲームメイクして、あとは柿木に譲った。3番手が横川で、あの夏の甲子園での登板は3回戦の高岡商戦での先発5回のみです。ここで9三振を奪い、3安打1失点と堂々の投球を披露しています」

 センス抜群のショートとして4球団競合の末、中日入りした根尾はともかく、柿木は日本ハムが5位で指名。横川は巨人が4位で指名と、横川の方が指名順は上でした。

「あのドラフトの日は高校野球ファンの間で『なんで横川が柿木より早く消えるんだ?』との声があがったりしましたね」(前述のアマチュア野球担当記者)

 そして今。結果的に柿木は育成選手、横川は巨人の先発ローテーションの一角を担っています。スカウトが目先のパフォーマンスだけでなく、将来性を見出していた一つの例でしょう。

 話はそこで終わらないと、前述のアマチュア担当記者は語気を強めます。

「その柿木が今季、イースタン・リーグで18試合に登板し、25イニング2/3を投げて失点、自責点はわずか1と、堂々の投球を披露しています。3勝2セーブ防御率は驚異の0・35です。再び支配下となって、日本シリーズで横川と投げ合う、となったら胸が熱くなるシーンとなることでしょう」

 今年の夏はどんな逸材が、急成長を遂げるのでしょうか。

 熱闘を見守るスカウトたちにとっても、勝負の夏といえそうです。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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