「息子は悪いことはしていない」発言が裏目

 過去5年にわたり、ジョー・バイデン大統領を悩ましてきた「放蕩息子」の犯罪容疑で米連邦検察局が結論を下した。

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「父親」は、喜び、「(有罪を認めた)息子を非常に誇りに思う」とコメント。

 これを聞いた米国民の多くは鼻白んでいる。

 バイデン氏は以前から、「(息子の)ハンターは何も悪いことはしていない」と言い続けてきた。そのハンター氏が罪を認めたのである。

Joe Biden's long-standing support for Hunter Biden on display following plea deal | CNN Politics

 ハンター氏は当初、銃の不正購入については検察当局に否定していた。

 しかし、2021年4月に上梓した回顧録『Beautiful Things』の中で「銃を買った時点で自分は極度のアルコール依存者だった」と告白してしまった。検察当局はこれを見逃さなかった。

(もうほとぼりが冷めたと見たのか、出版元に「新事実」を書くよう唆されたのか。いずれにしても自分で墓穴を掘ってしまった)

Amazon.com: Beautiful Things: A Memoir eBook : Biden, Hunter: Kindle Store

親の七光りでブタ箱にはぶち込まれなかったのだろう。黒人格闘技俳優のウェズリー・スナイプスは税金未払いで3年半、刑務所に送られている」

 筆者の隣に住む共和党員の元会社重役の白人男性(67)はこう吐き捨てるように言っている。

 おそらく米一般市民の声を代表していると見ていい。

 米メディアによれば、バイデン氏は今も薬物依存症の治療を受けているカリフォルニア州在住の「二男」のことが心配で毎日、電話をしていたという。

 6月21日付のロサンゼルスタイムズは、ハンター氏がハリウッドのセレブ専用の秘密セックス・クラブの会員だったことをスクープした。

Snctm founder Damon Lawner banned after naming Hunter Biden as former member - Los Angeles Times

 交通事故で先妻ネイリアさん(30)と娘ナオミちゃん(1)を失い、生き残った2人の息子のうち、将来を嘱望されていた長男ボー氏は8年前に病死。

 残った二男ハンター氏(53)はまさに「飲む、打つ、買う」の「放蕩息子」だった。

(一応、ジョージタウン大学を経て、イエール法科大学院で法務博士号を取得はしている)

5年もかけた捜査、今なぜ3件だけで司法取引

 その「二男坊」を米デラウェア州地区連邦検察局のデイビッド・ワイス地区検察官が6月20日ドナルド・トランプ政権下で捜査を開始した容疑案件のうち、2件の税法違反(所得税未納)と銃不法購入・所持(アル中であることを隠蔽していた)容疑で起訴した。

 ハンター氏が罪状認否手続きを前に事前司法取引に応じ、罪状を認めたからだ。同地区連邦地裁が受理すれば有罪が決定する。

 司法取引したお陰で、ハンター氏は収監(本来なら最高刑は懲役10年)だけは免れる。2年間の保護観察になるとみられる。

 なぜ、この時期にという疑問が湧く。

 大統領選のアイオワ州党員集会(予備選)開始まであと5か月。

 民主党からは環境保護活動家のロバートケネディ氏(故ロバートケネディ司法長官の三男)と作家のマリアンヌウイリアムソン氏が立候補している。

 両氏ともに指名される確率は小さい。

 しかし、「ケネディ氏が20%の支持率を獲得していることを誇張すべきではないが、真剣に考えるべきだ」といった論調が出始めている。

Robert F. Kennedy Jr. Tops Biden And Trump In New Favorability Poll

 高齢を理由にバイデン氏の再出馬に米国民の70%が反対していることを踏まえて、バイデン氏以外の候補よ、いでよ、というわけだ。

Opinion | Take Bobby Kennedy Jr. Seriously, Not Literally - The New York Times

 目下のところ、バイデン氏は不人気ながら「唯一の最有力大統領候補」だ。

 バイデン氏の息のかかった司法省なら(?)党内の候補者指名レースが穏やかなうちにバイデン氏のネガティブ要因は片付けておこうとしても不自然ではない。

 もっとも、トランプ氏がデラウェア州地区検察官に任命したワイズ氏は「他の容疑については、捜査は続行中だ」と述べて、(当然のことではあるが)中立性を強調している。

 保守系サイトは、これまで過去5年間、ハンター氏に纏わる①外国代理人登録なしの違法ロビー活動、②マネーロンダリング、③人身売買関与、といった疑惑を追及してきた。

 ワイズ氏の発言は、これらの事案についての追及は続けられることを仄めかしている。

The New York Post e-Edition)

腐敗した司法省が切った交通違反カード

 8月14日に機密文書持ち出しでスパイ防止法違反で起訴されたドナルド・トランプ大統領の公判が開廷することが決まった。

 トランプ氏は公判の長期化を目論んでいる。したがってこの日程通り始まるかは不透明だ。

 そのトランプ氏はSNSにこう書きなぐった。

「おい、おい、腐敗し切った司法省がまるで交通違反カードを切ったような罪状で、ハンター・バイデンの数百件の刑事責任をチャラにした」

「一方で無実の人間を収監すると脅し、有罪判決を受けた人間には縄をかけない。この国に正義はない」

「我が国のシステムは完全に破壊されてしまった」

Donald Trump, Republicans lawmakers react to Hunter Biden plea deal

 トランプ氏支持の政治資金団体、スーパーPAC(政治行動委員会)「MAGA Inc.」は、「この決定は明らかに司法省とバイデンとのなれ合い談合だ。今必要なのはハンター疑惑を徹底的に調査する特別検察官だ」と主張した。

Trump compares Hunter Biden charges to ‘traffic ticket’ | The Hill

 共和党のトップ、ケビン・マッカーシー下院議長は、「大統領の政敵なら投獄しようとし、大統領の息子なら甘い取引をする」と痛烈に今回の司法取引を批判した。

 マッカーシー氏は、トランプ氏が機密文書持ち出しを巡り、スパイ防止法違反など37件の罪で起訴されたことを引き合いに、「(検察の対応は)ダブル・スタンダード(二重基準)だ」と訴えた。

 共和党が過半数を占める下院では、下院監視・政府改革委員会(ジェームズ・コマー委員長)が現在行っているハンター氏の一連の不法活動疑惑の解明を行う一方、歳入委員会(ジェイソン・スミス委員長)もハンター氏の税務関連文書の開示を国税庁に求め、不正の有無を調査すると強調した。

House Republicans move to consider private documents related to Hunter Biden tax probe - POLITICO

ハンターはバイデンの疫病神

 米司法制度は、最高裁は言うに及ばず民主、共和両党の「政争の場」に化した感すらする。

 共和党は政権与党・民主党が司法システムを「武器化」していると糾弾しているが、保守派の人たちから見ると一理ありそうな判例が目立つ。

 今回のハンター裁定に対する批判が出ているのもそのためだ。

 保守派ウォールストリート・ジャーナルは、6月20日付の社説でバイデン氏の再選の行方にハンター問題は「バイデン再選にとっての頭痛の種」(Biden’s re-election headaches)だと、こう指摘している。

「ワイズ検察官の事前の司法取引は(ハンター氏にとっては)慈悲深い(Lenient)裁定だ。そしてバイデン再選にとっては新たな頭痛の種をまいたと言っていい」

「同検察官は、ハンター氏に纏わる他の疑惑についても追及の手を緩めてはならない」

The Hunter Biden Business - WSJ

 一方、リベラル派、ニューヨークタイムズでは政治コラムニスト、ピーター・ベイカー氏がこう書いた。

「これまで何度も共和党のやり玉になってきたバイデン氏のわがままな息子が収監を免れた」

「保守派の言葉を借りれば、ハンター氏はまさにワシントンの泥沼に潜むペイ・ツゥ・プレー文化(Pay-to-Play Culture)*1を地でいく典型的な存在だった」

*1=ペイ・ツゥ・プレー文化とは、割に合うゲームという意味で、政治家官僚間でまかり通っている「持ちつ持たれつ」の文化的風土を指すものと思われる。

「(バイデンという)名前で利益を得ていたからだ」

ハーバード大学米政治学研究センターがハリス調査に委託した世論調査によると、米国民の63%がハンター氏が斡旋収賄(Influence peddling)に関与していると答えている」

「53%がそれに当時副大統領だったバイデン氏が関与していると答えている」

Hunter Biden’s Troubles Bring Personal and Political Pain for the President - The New York Times 

 政治専門サイト「ザ・ヒル」のナイル・ステネッジ氏は、「ハンター問題はワイルドカードだ」と言い切っている。

共和党はハンター問題を徹底的に追及する構えだ」

「ハンターの名前がメディアから今後数カ月、いや大統領選たけなわになっても消えることはない」

バイデン氏の政治生命にとってハンターは疫病神としてどこまでもつきまとうだろう(A scenario is never good for his father’s political fortunes)」

Hunter Biden agreement deals wild card in 2024 race

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司法取引で罪を認めたハンター・バイデン氏(2022年4月撮影、写真:AP/アフロ)