長年、深刻な電力不足に悩まされ続けている北朝鮮では、国民が国からの電気供給を期待しなくなり、ソーラーパネルを購入して、自宅で発電を行い、照明などに使用する傾向が生まれている。

一方で当局は最近、大規模な太陽光発電所を建設する方針を示し、国民に支援を呼びかけている。他の国ならば、民間のソーラーパネル設置に国が支援金を出す形の事業が行われるところだが、北朝鮮では全く逆の形となっている。江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋が詳細を伝えた。

江原道人民委員会(道庁)は、内閣の指示に基づき行っている太陽光発電所の建設に対して、住民による支援事業を行うように各市、郡の人民委員会(市役所)に指示を下した。

それを受けて高城(コソン)郡人民委員会は、住民に対し、1世帯あたり3万北朝鮮ウォン(約480円)を供出するよう指示した。コメが5キロ以上買える額を食糧難の中で出すのはあまりにも負担が大きい。

経済的に余裕のある家は、自宅にソーラーパネルを設置しているが、縦横1.8メートルのもので発電できるのは、テレビ1台、照明器具3〜4個分に過ぎない。電子レンジやエアコンなど電力消費の多いものは、そうおいそれと使用できないのだ。

このように個人単位企や業単位で発電をしたところで、必要な電力のすべてを賄えるわけではないため、住民に「税金外の負担」を強いて、大規模太陽光発電所を建設して電力を供給し、恩を売ろうというのが当局の目論見だ。また、電気料金として多額の現金収入が得ることも考えているのだろう。

なお、住民受けが非常に悪い「税金外の負担」は、金正恩総書記が厳しく戒めた行為ではあるものの、今回の指示が内閣から出されていることを見ても、全く守られていないことがよくわかる。

首都・平壌郊外の南浦(ナムポ)のデイリーNK情報筋も、市の人民委員会から同様の指示が下され、洞事務所(末端の行政機関)が各世帯に太陽光発電所建設のために現金を供出せよと強いていると伝えた。「そうすれば人民は24時間電気が使えるようになる」という触れ込みだ。

北朝鮮では一般的に、どうしても電気が必要な場合、太陽光発電以外に用いられる手法としては、配電担当者にワイロを掴ませ、工場向けの電気を回してもらうという一種の盗電がある。このような無秩序な電力供給を一掃し、国家電力供給網に住民を加入させることが、今年下半期の政府の主要事業のひとつなのだという。

しかし、住民は疑いの目で見ている。

「国営企業所も電気がなく『交差生産』(生産時間をずらす方式)の時間を決めて電気を分け合って使っているのに、家庭に24時間電気を供給するからと太陽光発電所の建設を支援せよと言い、支援金の額に応じて国家電力供給網への加入可否が決められるというのだから呆れる」(南浦市民)

より多くの資金を集めるために、「支援金を多く出すほど電気を優先的に供給してもらえる」という形で、競争心理を煽っているのだろう。北朝鮮当局がよく使うやり方だ。

「電気を24時間供給してやる」という国の話を真に受けている人はほとんどいないだろう。何か別の目論見があってメガソーラーを作ろうとしているのではないか、と疑ってかかる人も少なくないと思われる。

ちなみに、北朝鮮では昨年3月、ソーラーパネルの使用を禁止する命令が下されたが、全く守られていないようで、江原道でも南浦市でも、今のところ民家に設置されたソーラーパネルを没収する動きは出ていない。しかし、資金の集まり具合によっては、禁止令が徹底される可能性もあるだろう。

ソーラーパネルが設置された北朝鮮・開城市内の建物(朝鮮中央テレビ)