マイナンバーカードを使ってコンビニで住民票の写しを入手しようとした際に、別の人のものが発行されたり、マイナンバーカードと一体化した健康保険証「マイナ保険証」に別の人の個人情報がひも付けされたりするなど、マイナンバーカードを巡るトラブルが相次いでいます。この件について、SNS上では「本当に大丈夫?」「マイナンバーカードはやめた方がいい」など、制度を不安視する意見が多く上がっています。

 マイナンバーカードが原因で個人情報漏えいなどのトラブルが発生し、何らかの損害を被った場合、国や自治体に損害賠償を求めることはできるのでしょうか。もしトラブルに遭遇した場合、どう対処すればよいのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

責任の所在が不明

Q.そもそも、マイナンバーカードに登録していた情報が何らかの形で外部に流出してしまった場合や、マイナンバーカードと一体化した健康保険証「マイナ保険証」に他人の個人情報がひも付けられていた場合、責任は国にあるのでしょうか。それとも、情報の登録を担当した自治体にあるのでしょうか。

佐藤さん「一般的には、マイナンバーカードの情報にまつわる問題がなぜ起きてしまったのかによって、法的責任の所在は変わります。問題の原因が、システムを作った民間企業にあるような場合、民間企業が法的責任を負うこともあり得ます。

マイナンバーカードは国の事業ですが、『問題が生じたとき、誰が責任を負うのか』という点について、これまで十分に議論されてこなかったように思います。そのため、責任の所在が不明確になっている面があるでしょう。国の責任について法律などで定めれば、国の責任を問うこともできますが、現状では、国に対して責任を問うのは難しいケースが多いでしょう」

Q.では、マイナンバーカードが原因で情報漏えいなどのトラブルに遭い、「個人情報が悪用された」など、何らかの損害を被った場合、国や自治体に損害賠償を請求するのは難しいのでしょうか。

佐藤さん「自治体などに損害賠償請求することはできますが、損害賠償が認められるかどうか、また、認められるとしても賠償額がいくらになるかは、ケース・バイ・ケースです。

過去には、自治体が管理する住民基本台帳のデータ約22万件分が、民間業者の従業員により不正コピーされて流出した事件があり、情報漏えいされた住民が自治体に対して賠償請求した事例があります。この件では、氏名や住所、性別、生年月日などの情報が漏えいしたため、自治体に対して、原告1人当たり1万円の慰謝料の支払いが命じられました。

今後、マイナンバーなどの情報が漏えいし、ひも付けられた個人情報が悪用されるようなケースが生じた場合、さらに高額の賠償が認められる可能性があります。

なお、マイナポータルの規約(26条)には、『マイナポータルの利用に当たり、利用者本人または第三者が被った損害について、デジタル庁の故意または重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わないものとする』などと、デジタル庁の責任を限定する記述がありますが、情報漏えいの問題が生じた経緯や原因はさまざまであり、いかなるケースもこの規約によって賠償請求が認められなくなるわけではありません」

Q.このマイナポータルの規約にある「故意」「重過失」とは、どのようなケースを指すと考えられますか。

佐藤さん「一般的に、『故意』とは、『わざと』『意図的に』という意味です。『重過失』とは、故意と同視できるほどの重大な過失がある場合を意味します。例えば、わずかな注意をすれば、結果を予見し回避することができたのに、漫然と見過ごしたようなケースが考えられます。

一部のメディアが、デジタル庁の担当者が『例えば、(システム上の)ウイルスの存在を認識しながら放置するなどが重過失に当たる』と説明したと報じています。そのほか、システム上の問題に容易に気付いて修復できるような状況だったのに、気付かずに放置したようなケースなども重過失と認められる可能性があるでしょう」

Q.もしマイナンバーカードの取得後、情報漏えいが疑われるケースに遭遇した場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

佐藤さん「居住先の自治体に相談をするか、『マイナンバー総合フリーダイヤル(0120-95-0178)』に電話相談するのが良いでしょう」

オトナンサー編集部

マイナンバーカードに関するトラブルが続出