MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、人生の立て直しを図る女性を描いたヒューマンドラマ、“無罪率100%”を誇る弁護士が密室殺人の謎に迫るサスペンス・スリラー、“眠れない“2人の高校生の青春を描いた漫画の実写化の、演技力に酔いしれる3本。

【写真を見る】酒に溺れ全てを失ってしまったレスリー(『To Leslie トゥ・レスリー』)

■孤独なレスリーのみじめであたたかい更生…『To Leslie トゥ・レスリー』(公開中)

シングルマザーのレスリー(アンドレア・ライズボロー)は、宝くじで高額当選するも数年で酒代として使いはたしてしまう。その6年後、行き場を失った彼女は息子のジェームズ(オーウェン・ティーグ)を失望させたはてに、とあるモーテルへとたどり着く。本作はアルコール依存症でドン底状態のレスリーが、人生を取り戻そうとあがく姿を活写したヒューマン・ドラマだ。孤独なレスリーのみじめであたたかい更生への歩みを、臨場感たっぷりに描きだす。

スウィーニー(マーク・マロン)とロイヤル(アンドレ・ロヨ)が営むモーテルで働き始めたことをきっかけに、後悔だらけの人生を立て直そうとするレスリー。そんな彼女に執拗な嫌がらせを仕掛ける友人や知人の無慈悲な行いには腹立たしくなるが、厳しいことを言いながらもそっと手を差し伸べてくれるスウィーニーと、奇行癖のあるロイヤルのベタつきすぎない距離感がいい。そんなアルコール依存症者へのサポート問題も描く本作において、最大の見どころはライズボローが体現する圧倒的なリアリティだろう。ケイト・ブランシェットらハリウッド俳優たちに絶賛され、アメリカ国内では単館での公開ながら第95回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされるまでに至ったその圧巻の演技を見逃す手はない。(映画ライター・足立美由紀)

■原作の設定を忠実にトレース…『告白、あるいは完璧な弁護』(公開中)

ホテルの部屋で何者かに襲われた男が意識を失い、目を覚ますと一緒にいた恋人が殺されていた。部屋には内側から鍵がかかっており、男は当然のように犯人として逮捕されてしまう。しかし、彼は自分が無罪であると主張し、敏腕弁護士の手を借りてそのことを証明しようとする。

スペイン映画『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明(17)をリメイクした今作は原作の設定を忠実にトレースする一方で、主人公と彼を助けようとやってきた女性弁護士が出会う場所を都会から離れた山荘に変更。雪に閉ざされた空間でのやりとりが一層、緊迫感を高めている。『Be With You ~いま、会いにゆきます』(19)のソ・ジソブが腹の底が見えない男に扮しセリフ劇でも実力を発揮。『シュリ』(00)以降、アメリカドラマなどでも活躍してきたキム・ユンジンが巧みな話術で男の本音を引き出そうとする弁護士を、さすがの貫禄で見せている。(映画ライター・佐藤結)

■ずっと見ていたい尊さ…『君は放課後インソムニア』(公開中)

MOTHER マザー』(20)で息子役を演じ、強烈なスクリーンデビューを飾った奥平大兼が森七菜とW主演。作品ごとに大きな成長を遂げ、デビューからまだ3年とは思えぬ安定した演技を見せる奥平とどんなキャラクターにも生命力を与え、輝かせる森。楽しいばかりでない、痛みや苦しみも伴う青春のさまざまな感情を、タイプこそ違えど演技に定評のある2人の天才が繊細に、生き生きと表現している。傍目にはキラキラして見えるが、内面はもやもやと葛藤している高校生時代。今時はその悩みを友だちにすら気づかれないよう、気遣うものらしい。そんな誰にも言われぬ不眠症に悩む、優しすぎる高校生2人のストーリー。

躍動感あふれる森演じる伊咲に、あっという間に魅了される奥平扮する丸太は自然を通り過ぎて当然で、もはや人気コミックが原作ということを忘れてしまうほど。若い2人の瞬間瞬間の煌めきはずっと見ていたい尊さ。原作漫画の舞台と同じ石川県七尾市でしか見られない貴重な風景の数々がその美しさをさらに高めている。これまた違うタイプの若手演技派、荻上みのりが具現化した漫画っぽい白丸先輩とのコントラストが絶妙で、何気ない3人の会話が不思議と心地よい。(映画ライター・高山亜紀)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

セカンドチャンスに手を伸ばすシングルマザーを描く『To Leslie トゥ・レスリー』/[C]2022 To Leslie Productions, Inc. All rights reserved