暑い夏がそろそろやってきます。頼りのエアコンが故障していたら頭を抱えてしまいそう。「故障していた」という賃貸マンションの住人から弁護士ドットコムに相談が寄せられています。

管理会社は故障の非を認めて、修理を約束してくれたそうです。しかし、相談者は「はっきり言って現状が暑く修理して直るのも未定です。とてもじゃないですが住めないです」とストレスを感じている様子。子どもが熱中症にならないかと心配も絶えません。

相談者はエアコンが直るまで、家賃の減額や、「避難場所」としてホテル代の請求を考えています。

賃貸物件でエアコンが壊れてしまった場合、住人は管理会社にどこまでの対応をもとめられるのでしょうか。不動産の問題にくわしい山之内桂弁護士に聞ききました。

●ガイドラインでは「1カ月5000円」を超えて減額されない

——賃貸マンションでエアコンが故障した場合、住人は貸主側に賃料の減額をもとめられるのでしょうか。どの程度の減額が認められますか。

原則として、使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、賃料が減額されます(民法611条1項)。

例外的に、部分的な使用制限があっても減額されない特約や、貸主のエアコン修繕義務を免除する特約があるケースでは、減額されません。

減額される場合でも、法律では単に「割合に応じて」としか定めていないので、具体的な金額は、当事者の協議で定める必要があります。協議が成立しなければ、調停や裁判などで解決することになります。

なお、減額算定の参考になる民間の資料として、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協) が示した「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」 があります。

それによると、エアコンの故障のケースでは、3日分を免責し、1カ月あたり5000円の減額としています。つまり、故障した日から3日間を過ぎて、4日目以降故障が直るまで1カ月5000円(月30日の日割計算)を減額するというものです。

——ガイドラインに従えば、丸々1カ月間もエアコンが直らないとしても、5000円を超えて賃料減額されることはないということですね。

そうなります。このガイドラインは、民間団体が提案した目安であり、すべての賃貸事業者がこれに従うわけではありませんが、過去の裁判事例から大きく乖離する内容でもないので、実務的には、このガイドラインに沿って解決される例が多くなるかもしれません。

●ホテル代までは認められにくいだろう

——相談者は真夏に冷房のない状況で「家賃を払うのがバカバカしい」と怒っています。エアコンが直るまで、家族のホテル宿泊費を請求できますか。

請求することは自由ですが、賃貸人が支払いに応じることは期待できません。

快適さが損なわれたとしても、居室としての使用が社会通念上可能である限りは、外泊の費用は相当損害と評価できないと思われます。宿泊費の請求が裁判で認められる可能性は低いでしょう。

ちなみに、賃貸人がエアコンの修繕義務を負うにもかかわらず、その修理をしない場合は、賃借人が自ら修理をして修理代を賃貸人に請求できます(民法608条1項)。

自ら修理するときは、後日のトラブルを避けるため、賃貸人に対して3日以上の猶予期間を設けた修理催告の内容証明を送付し、契約の定めに留意しつつ、賃貸人が自ら修理をしない状況や、賃借人の修理を妨げている状況を記録したうえで、実際の修理を進めてください。

修理費用の評価をめぐる紛争を避けるため、複数業者の見積もりを取るのがよいでしょう。

なお、契約の内容にもよりますが、法律上は、事前予告や猶予期間を設けた催促の必要はありません。

【取材協力弁護士】
山之内 桂(やまのうち・かつら)弁護士
1969年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学法学部卒。司法修習50期、JELF(日本環境法律家連盟)正会員。大阪医療問題研究会会員。医療事故情報センター正会員。
事務所名:梅新東法律事務所
事務所URL:https://www.uhl.jp

真夏の悲劇…マンションでエアコン故障、管理会社に「ホテル代」まで請求できる?