幼児期は人間の脳が最も発達しやすい時期であり、その期間にしっかりとした基礎を築くことが、将来的な学習において重要な役割を果たします。一方、幼児期の教育には注意点もあると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。詳しくみていきましょう。

子どもの幼児教育と早期教育の違いとは?

今回は小児科医として“医学的に正しい”子どもの教育法を考察していきます。

幼児教育とは?

幼児教育とは、生後0歳から6歳までの子どもたちに対して、基本的な言語や数学、社会性などのスキルを教える教育のことです。幼稚園や保育園の教育だけでなく、その間に行われた家庭や地域で学ぶすべての教育が含まれます。

0歳~6歳は人間の脳が最も発達しやすい時期であり、将来的な学習において重要な役割を果たします。

また幼児教育は、子どもたちが自己肯定感を高め、創造性や好奇心を刺激し、適切な社会性を身につけるのにも大切。なので、多感な時期にいかに多くのことを吸収できるかは、今後の人生にも大きく関わってきます。

幼児教育とは異なる「早期教育」とは?

一方、早期教育はさまざまな定義がありますが、日本では主に「超早期教育」と「幼児・就学前教育」の2つを指すことが多いです。

幼児期に対しての教育は、主に保育や遊びを通じた教育を指すのに対し、早期教育は、その前の「0歳~3歳までの教育」を指しますね。

早期教育も、幼児教育と同じく、言語や数・社会性などのスキルを教えることも目的の1つですが、もっと専門的なことも含まれます。たとえば、外国語やリズミックを中心とした「音教」・塾などで教える「知育」などです。

幼児教育と早期教育の主な違いは「対象となる子どもたちの年齢」と「教育の内容」です。

幼児教育は子どもたちが自由な遊びや創造力を発揮することが重要視されます。一方、早期教育は、「先んずれば人を制する」の理念のもと、より専門的なトレーニングや教育をうけることが目的になることが多いです。

医学的にも、幼児教育は非常によい影響が多い

幼稚園までにしっかり教育を行うのは意義があるのでしょうか? さまざまな論文から、幼児教育の有用性が指摘されています。

たとえば、2017年のハーバード大学の研究によると、1960年から2016年の間に実施された22の質の高い研究を分析し、幼児教育を行うことで、

●成績が8.1%ほど維持しやすい傾向にある

●アメリカの高校の卒業率が11.4%上昇する

ということが報告されています。

しかし、実はこれらの背景として考えられているのは「先取り教育をしたほうが脳が開発されるから」ということだけではありません。

幼児教育で小さい頃から色々経験させてあげることで

●自分のなかの世界が広がり、さまざまなことに興味や熱意が持ちやすい

●多くのことに関わりをもつことで、社会的なコミュニティが広がり、多くの視点も持てるようになる。

といった、「テストの成績」で測れない部分の能力をもたせることができます。

早期教育も脳にとってよいが、やり過ぎは弊害も

では、3歳までに行われるが「早期教育」はどうなのでしょうか? 実は、早期教育は「やり過ぎはよくない」という報告もみられています。

たしかに多くの研究で「早期教育は脳の構造的な成長をうながす」ことがいわれています。

脳は一般的に6歳までに90%くらいは決まってくるといわれていますが、3歳までに脳の「重さ」が急激に重くなることは分かっています。

裏を返せば、0歳から3歳までの時期は脳もまだまだ発展途上の状態であり、どれだけ詰め込もうとしても限界があるのです。

そんな脳の機能も構造自体も未発達な段階で「詰め込み教育」をしたらどうなるでしょうか。

たとえば、次のようなデメリットがでてくるかもしれません。

●過剰な教育へのストレスを植え付けてしまう

誰しも自分の能力以上を求められるとストレスは大きいものです。教育そのものが嫌いになってしまうかもしれません。

●自由な遊び時間の減少

遊びは創造性を育む大切な時間。早期教育をしすぎると、これにより、子どもの創造力や好奇心を抑えつけてしまう可能性があります。

●能力開発の偏り

どうしても勉強というと、「座学」が中心になりがち。しかし、世界は色々な経験があります。早期教育が過度に行われると、特定のスキルや能力の開発に偏りがちになります。

このように、子どもたちの現状を把握しながら、適度な早期教育が望まれるでしょう。

幼児教育と早期教育のまとめ

早期教育と幼児教育の違い、わかっていただけましたでしょうか。

幼児教育は単なる先取り教育ではありません。6歳までの子どもたちに色々な経験を早くから多くさせてあげることで、脳をどんどん刺激していくこと。読書やドリルだけが勉強ではないのです。

そして、色んな刺激を受けた子どもたちはますます勉強や社会的なアクティビティに夢中になっていく。これが理想ですね。

一方、早期教育は3歳までに育む教育法。ついつい、ひたすら「詰め込む」教育に走りがちですが、3歳の子どもの脳はまだまだ未熟です。

温かい目で、子どもたちの成長を見守っていく。そんな親の度量が求められます。人と比べず、早いうちから一つひとつ子どもたちが「できた」ことを見つけて伸ばしていってほしいと思います。

秋谷進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)