2011年3月11日に発生した東日本大震災によってもたらされた、史上最悪の原発事故福島第一原発事故”。あの日あの場所で、いったいなにが起きていたのか。映画化もされた門田隆将のノンフィクションをはじめ、複数の調書を基に徹底的なリアリティを追求して描きだしたNetflixシリーズ「THE DAYS」が、現在Netflixにて全世界独占配信中だ。

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このたびMOVIE WALKER PRESSでは、本作で8話中6話の監督を務めた西浦正記と、第4話、第5話の監督を務めた中田秀夫へのインタビューを実施。発生から12年以上が経過したいまもなお多くの人が直面し続けている未曾有の事故を、「コード・ブルー」シリーズなどで知られる西浦監督と、『事故物件 恐い間取り』(20)や『禁じられた遊び』(9月8日公開)の中田監督がどのような思いをもって映像化したのか尋ねた。

■「福島第一原発には、まだ事故の爪痕がはっきりと残っている」(西浦)

――実際に起きた原発事故を題材にした本作。最初にオファーを受けた時の心境からお聞かせください。

西浦「『コード・ブルー』シリーズで長年タッグを組んできた増本淳プロデューサーから話が来て、改めてあの原発事故について考えをめぐらせた時に、自分が全然わかっていないことに気付いてショックを受けました。知識という点はもちろんのこと、気持ち的にもまるで他国で起きた出来事のように捉えていた。だからこそ、日本の人だけでなく世界に向けてありのまま伝えていかなければいけない。そう感じながら、監督を引き受けしました」

――西浦監督は撮影前に実際に福島第一原発を訪れたとお聞きしました。

西浦「はい。2度ほど行きました。もうあれから10年以上が経つのに、まだ事故の爪痕がはっきりと残っていて、風向きによって変わる放射線量が電光掲示版に表示されていたりと、非常に生々しい体験をすることができました。メインの役者さんたちと行けたことは作品づくりをするうえでとても大きかったですね。このドラマは室内と室外のやりとりがすごく多く、役者さんたちにリアルな距離感を実感してもらう必要がありました。もちろん僕自身にとっても、原発の全体像を掴めたことが演出に非常に役立ち、意義のある訪問だったと感じています」

中田「僕は原発を直接見に行くことができなかったのですが、以前撮った津波に関するドキュメンタリー映画の経験が作品づくりに役立ちました。『3.11後を生きる』という作品で、2011年の7月から岩手県宮城県の海岸沿いの被災地を訪ねて回り、インタビューしていったんです。それに加えて、学生時代に原子力工学の講義を受けたこともありました。それらを思い返しながら、今回の撮影に臨みました」

■「放射能の恐怖は目に見えない。どこまで踏み込むべきか悩みました」(中田)

――中田監督といえば、これまでホラーやサスペンス作品を多く撮られてきましたが、その経験が本作にどのように活かされたと感じていますか。

中田「増本プロデューサーから最初に言われたのは、『放射能の恐怖を最大限に描く努力をしてほしい』というかなり難易度の高いことでした。決してホラー的な作品ではないけれど、作業員の方々が現実に味わった恐怖をどう画面のなかで描いていくか。放射能の恐怖は目に見えない。考えた結果、粒子や銀粉のようなものを空中や水中に撒いてみたりなど、少々ホラー的な手法も取り入れることにしました。また実際に犠牲になった方もいますので、どこまで踏み込んで描くべきかについても悩みましたが、そこは関係者の方々や担当されたお医者さんと話をしながら進めていきました」

西浦「撮影自体は僕の現場と中田監督の現場がほぼ同時進行だったのですが、中田監督の現場では暗闇だったり粉が飛んでいたり雰囲気づくりにかなりこだわられているという話を聞いたので、その時は正直そこまで想像していなかったと驚かされました。僕もそれを参考にさせていただいて、自分の担当回でもやらせていただきました」

――撮影中などにお2人のあいだで演出のすり合わせや、情報共有をすることはなかったのでしょうか。

西浦「増本プロデューサーがあいだに立って逐一チェックをしてくれていましたので、2人で話し合う必要はあまりありませんでした。なによりも、一緒にこのドラマを作る相手が中田監督ですから。安心して観ていれられると言ってはおこがましいかもしれませんが、もう全幅の信頼を寄せて、すべてお任せしていました」

中田「たしか僕らが最初にお会いしたのは2019年でしたよね?まだコロナ前に撮影の下見に行った時だったと思います。西浦さんが撮られた『コード・ブルー』の劇場版を観て、いったいどんな人なのだろうかと興味があって、実際に会ったら想像以上に気さくな方でした(笑)。あの時、一緒に仲良く海鮮丼を食べたのを覚えています」

西浦「食べましたね!」

中田「そこで西浦さんは『あの映画、どうやって撮ったんですか?』と僕に質問してきたり(笑)。すごく和やかな雰囲気で迎え入れてもらったおかげで、チームに入っていけたんだと実感することができました。撮影している時には西浦さんの現場の撮影量がすごく多かったので、西浦さんにしっかり時間を使って撮ってもらいたいと、少しでも早くバトンを渡すことばかり考えていました」

西浦「ありがとうございます。出来上がった作品を観て、中田監督の撮られた第4話と第5話はもうおもしろかったという感想以外思い浮かびませんでした。建屋のなかの緊張感が本当にすごくて、観終わった後には作り手としてさまざまな気付きをもらいました」

中田「僕も西浦さんの撮られた回は見事だったと思います。第1話の津波のシーンは特に、ワンカットワンカット丁寧に撮られていて。僕も以前時代劇のホラー映画を撮った時に水槽を使った撮影をやったことがあるのですが、本当に大変なんですよね」

西浦「正直津波のシーンは、センシティブな表現ですのでかなり悩みました。あの映像を観てPTSDになる方もいるかもしれませんが、避けて通ることはできないし、“自然の脅威”というテーマは絶対に表現しなければいけない。そこで今回考えたのは、観る方に臨場感をもってほしいということでした。俯瞰で全体を映すショットではなく、目線の高さで映さなければいけない。きっちりとねらいを定めて、これを伝えるんだと念頭に置きながらあのシーンを作っていきました」

中田「この作品をいわゆる“ディザスタームービー”と呼ぶべきではないと思いますが、少なからずそうした側面がある。西浦さんは『コード・ブルー』でもたくさんそういう場面を描いてきたと思います。史実であるがゆえに検証も必要でしょうし、CG作業も含めて本当に大変だったろうと感服いたしました」

■「可能であれば、全8話を一気に観ていただきたい」(西浦)

――吉田所長の役を演じた役所広司さんの現場での“座長”ぶりについてもお聞かせください。

西浦「役所さんご本人も、自分が座長ですとか、まとめますといったことを表立ってすることはありませんでしたが、そこにいるだけで現場全体が締まるという感じはありましたね」

中田「この作品はものすごい人数のエキストラの方が出てくださったんですが、役所さんは彼らと共演しているんだという意識をきちんと持っている方なんだと感じました。細かい注文というよりは、この場面でこの人はこの動きでいいのでしょうか?という、普段俳優さんから指摘されることがないような問いかけをして作品のリアリティに寄与してくれたのが印象的でした。さすが何十年も映画の世界でやっている方だなと感じました」

西浦「増本プロデューサーからは、要素の一つとして“無力感”をと言われました。それは最終的に第8話の終盤、役所さん演じる吉田所長のモノローグで感じてもらえればと思っています」

中田「実際の吉田所長も、きっと同じような思いに苛まれたのでしょうね。それは吉田さんも、竹野内豊さんが演じた当直長や小林薫さんが演じた運転員の方もそうだったと思います。あと遠藤憲一さんと石田ゆり子さんの家族の視点も、ぐっと胸を締め付けられるものがありましたね」

西浦「遠藤さんと石田さんの家族の話は、決してテンプレート的なお涙頂戴にならないようにリアルに描くにはどうしたらいいのかと逆に難しいシーンではありました。行方不明になった運転員である息子をお茶の間で待ち続ける。原発のなかのシーンももちろんですが、そうした外で起こる物語にも注目してほしいなと思います。おそらく観ている最中は、シチュエーションや出演者、起こる出来事に引っ張られてなかなか冷静になれるタイミングがないと思いますが、可能であれば全8話を一気に観ていただきたいです」

取材・文/久保田 和馬

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