プロローグ/情報非開示が進むロシア

 都合の悪い情報は隠蔽する。

JBpressですべての写真や図表を見る

 これは情報操作の鉄則ですから、発表されている数字より発表されていない数字・発表されなくなった数字の方が重要になります。

 ロシア(露)のV.プーチン大統領(70歳)は「ロシア経済は順調である」と豪語しましたが、事実は正反対です。

 今まで水面下で起こっていたことが、今年は徐々に顕在化・表面化してくるでしょう。

 典型例を2つ挙げます。

 1つ目はロシア国家歳出の月次支出項目です。

 露財務省は2021年12月までは歳出欄の個別支出項目に数字が記載されていましたが、2022年1月以降は白紙になりました(歳出総額のみ記載)。

 従来は支出項目の戦費を数字で検証できたのですが、今では支出明細がすべてブラックボックスになりました。

 2つ目は原油・ガス生産量です。

 生産量減少が表面化したため、ロシア連邦統計庁は今年3月度から露原油生産量発表を停止。露ガスプロムは今年4月度からの自社天然ガス生産量を発表しておりません。

 欧米の対露経済制裁措置強化を受けロシア産原油(ウラル原油)はバナナの叩き売り状態ですから、インドや中国の民間石油企業が超安値ロシア産原油の輸入を拡大しています。

 従来輸入していなかったパキスタンロシアウラル原油の輸入を始めました。

「安値で原油を買って、国際価格で石油製品を売る」のですから、文字通り濡れ手に粟。

 しかしこのこと自体は当然の商行為であり、何ら非難されるべきことではありません。

 一方、これはロシアにとり機会損失となり、その責任は戦争を開始したプーチン大統領その人が負うべきと筆者は考えます。

 82年前の6月22日、バルバロッサ(赤髭)作戦が発動されました。

 ソ連のスターリンにとっては、文字通り≪青天の霹靂≫でした。

 ドイツ枢軸軍は3方向(北方・中央・南方)でソ連領内に深く侵攻、同年11月にはドイツ軍威力偵察部隊はクレムリンに30キロほどの地点まで進出。

 クレムリンを指呼の間に捉え、ドイツ軍はクレムリンを砲撃する長距離砲の設置準備作業開始したまさにそのとき、突如現れたのが旧満州との国境線で日本軍と対峙していた、冬季戦に備えた赤軍精鋭部隊でした。

 この年の冬将軍はソ連に味方しました。

 その後、スターリングラード攻防戦でドイツ軍は敗北。クルスク戦車戦でドイツ軍は後退を余儀なくされました。

 ドイツでは、「ドイツの進軍はスターリングラードで終わり、ドイツの敗北はクルスクに始まる」と言われています。

 この戦争はソ連にとり祖国防衛戦争ですから、ソ連国民は困窮生活に耐えました。

 一方、昨年2月24日ウクライナ侵攻作戦は、ロシアのとり祖国防衛戦争ではなく、他国侵略戦争です。

 よくテレビ番組などで「ロシア人は戦争の際、困窮生活に慣れている」と解説している評論家がいます。しかしこの歴史認識は正しいとは言えず、率直に言えば間違っています。

 また、「第2次大戦では、ロシア2700万人の犠牲を出した」と解説している人もいましたが、これも違います。

 犠牲となったソ連国民にはロシア人以外、ウクライナ人、ベラルーシ人、ほか多くの他民族が入っており、ウクライナ人も700万人ほど犠牲になったとも言われております。

 本稿では、ロシア財政の現状と間違いだらけの日系マスコミ報道に言及したいと思います。

第1部:北海ブレント・露ウラル原油
週次油価動静(2021年1月~23年6月)

 最初に2021年1月から23年6月までの2油種(北海ブレント・露ウラル原油)週次油価推移を概観します。

 油価は2021年初頭より2022年2月末まで上昇基調でしたが、ロシア軍ウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落開始。

 ウラル原油以外は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。

 ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。

 ちなみに、日本が輸入していたロシア産原油は3種類(S-1ソーコル原油/S-2サハリン・ブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油です。

 露ウラル原油の6月12~16日週次平均油価はバレル$51.58(前週比▲$1.19/黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)、北海ブレント$74.39(同▲$1.67/スポット価格)でした。

 ブレントとウラル原油の大幅値差が続いていますが、一時期はバレル$40以上あった値差も現在では$23程度に縮小しています。

 この超安値のウラル原油を輸入し、自国で精製して石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出して“濡れ手に粟”の状態がインドです。

 中国も輸入拡大していますが、主にESPO原油です。

 ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油FOB)はバレル$45.3、実績$69.0。2022年の予算案想定油価は$62.2、実績$76.1。今年23年の想定油価は$70.1です。

 上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線はロシア軍ウクライナに侵攻した昨年(2022)2月24日です。

 この日を境として北海ブレントは急騰。6月に$130近くまで上昇し、最高値更新後に下落。

 今年4月2日のOPEC+原油協調減産サプライズ発表後に油価上昇しましたが、その後再度下落傾向に入りました。

 一方、露ウラル原油はウクライナ侵攻後に下落開始。今年4月に入り油価上昇後、同じく下落。現在は$50前後で推移しています。

 今年の露予算案想定油価は$70.1ゆえ、国家予算赤字幅はさらに拡大必至です。

第2部:北海ブレント・米WTI・露ウラル原油
月次油価動静(2021年1月~23年5月)

 次に、3油種の月次油価推移も確認しておきます。

 油価を確認すればすぐ分かることですが、ウクライナ侵攻後、露ウラル原油は下落しています。

 日系マスコミでは「ウクライナ侵攻後油価上昇したので、ロシアの石油収入は拡大した」との報道も流れていましたが、この種の報道は間違いです(後述)。

 下記の月次油価推移グラフをご覧ください。

 昨年2月度の露ウラル原油(FOB)はバレル$92.2。以後毎月ウラル原油の油価は下落しており、今年5月度は$53.3。実にバレル約$40の油価下落になりました。

 ご参考までに、露連邦統計庁発表の露原油・天然ガス輸出価格推移を概観します。

 下記グラフより、油価とガス輸出価格が連動していることは一目瞭然です。ただし、最近は統計資料が発表されなくなりました。

第3部:ロシア経済は油上の楼閣経済
国庫税収はウラル原油の油価次第

 ロシア経済は油上の楼閣経済であり、ウラル原油の油価依存型経済構造です。

 下記グラフをご覧ください。露経済と国庫税収は油価(ウラル原油)と強い正の相関関係にあることが一目瞭然です。

 ウラル原油の油価が国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存しています。

 ちなみに、石油・ガス税収の8割以上が地下資源採取税で、非石油・ガス税収の大半は付加価値税(消費税)と利潤税(利益税)です。

 昨年と今年1~5月度の露石油・ガス税収をグラフで表示すると以下のようになります。露石油・ガス税収は油価に依存していることがお分かりいただけると思います。

第4部:拡大するロシア財政赤字
戦費財源減少に直結

 ロシアの原油・天然ガス生産量が減少し油価が下落すると、それはロシア財政にどのような影響を与えるのでしょうか?

 答は簡単です。ロシア財政は破綻の道を歩むことになり、既に歩んでいます。

 露財務省6月6日に今年1~5月度の国家予算案遂行状況を発表したので、本稿では要旨のみご報告します。

 ロシアの2022年国家予算は期首予算案1.33兆ルーブルの黒字案でしたが、実績は3.31兆ルーブルの赤字になりました。

 期首想定油価(ウラル原油)バレル$62.2に対し実績$76.1ですから、本来ならば1.33兆ルーブル以上の大幅黒字になるはずが大幅赤字です。

 これが何を意味するかは説明不要と思います。

 今年5月度の石油・ガス関連税収は5,707億ルーブルとなり、前月4月度と比較して▲12%、前年同期比▲36%。

 一方、今年1~5月度の国家財政赤字は3.4兆ルーブルを超えました(予算案▲2.9兆ルーブル)。

 露国家歳入の骨格たる石油・ガス関連税収は前年同期比半減、企業の利潤税(日本の法人税相当)は▲15%です。

 不利な情報も発表するところに、露財務省の矜持が透けて見えてきます(露連邦統計庁は一番重要な露原油関連生産量を発表停止。露ガスプロムは自社天然ガス生産量未発表)。

 注目すべきは、石油・ガス税収が前年同期比半減した点です。

 非石油・ガス税収は増えていますが、増えているのは付加価値税(消費税)であり、企業に賦課する利潤税(利益税)は15%減少しています。

 これは企業収益、特に石油・ガス関連企業の財政状況が急激に悪化していることを示唆しています。

 ご参考までに、露財務省発表の2023年1~5月度国家予算案遂行状況は以下の通りです。

露国家予算案遂行状況(2023年5月度速報値/単位:10億ルーブル

 ロシアの2022年井戸元原油生産コストはバレル約$50ゆえ、現行油価は石油企業にとり利益の出ない油価水準になっています。

 欧米による海上輸送原油FOB上限$60設定は、ロシア石油企業を生かさず・殺さず原油生産を継続させる、よく練られた上値上限設定です。

 油価(ウラル原油)と原油生産量が下落すれば、露経済・財政を直撃。油価・生産量下落→露経済弱体化→戦費枯渇となります。

 これが、ウラル原油の油価動静と原油・ガス生産量が注目されるゆえんです。

 ちなみに、石油・ガス関連税収とは2018年までは地下資源採取税(石油・ガス鉱区にかかる税金)と輸出関税(天然ガスはPLガスのみ)のみでしたが、2019年からは(補填含む)追加税が算入されました。

 露ガスプロムの経営悪化は既に始まっており、早晩顕在化・表面化するでしょう。

 筆者はこの傾向が続けば、ガスプロム経営破綻も視野に入ってくるものと考えております。

第5部 減少するロシア原油・天然ガス生産量
ロシア経済破綻の兆候

 ロシアでは今後情報統制が進み、原油・ガス生産量が発表されなくなるのではないかと筆者は懸念していました。その懸念は的中。

 露政府は今年4月26日付け政令「1074-r」にて、2023年3月度分から原油・随伴ガス生産量が発表停止となり、来年4月1日まで11か月間、原油・ガスコンデンセート・随伴ガス生産量発表を全面禁止することになりました。

 露ガスプロムは今年4月から自社天然ガス生産量を発表しなくなりました。

 昨年2月24日ロシア軍ウクライナ侵攻後、欧米は対露経済制裁措置を強化。主要欧米メジャーと石油サービス企業はロシア市場から撤退開始。

 筆者はその時点で、「今後、ロシアの原油・天然ガス生産量低下は不可避」と孤高の論陣を張ってきましたが、今年に入り当方主張が数字で検証可能になりました。

 生産量減少が数字で検証可能になるや否や、その数字が発表停止となったのです。

 今年3月度のガスコンデンセート・天然ガス・随伴ガス生産量はかろうじて発表されていましたが、今後は来年4月1日まで、我々はロシアの原油・ガス生産量を知ることはできないことになります。

 生産量が順調に伸びていれば、統計数字を非公開とする理由はありません。

 都合の悪い情報は隠す。欧米による対露経済制裁措置強化がロシアの石油・ガス産業に悪影響を与えていることが分かってしまうので、原油・ガス生産量発表禁止措置が導入・発動されたものと筆者は理解します。

 ご参考までに、昨年2022年と今年4月度までの露連邦統計庁発表公開情報は以下の通りにて、4月度以降、露原油・ガスコンデンセート・随伴ガス生産量は発表停止となりました。

 露ガスプロムの欧州市場向け天然ガス輸出量は激減しており、欧州ガス大手需要家側は露ガスプロムとの長期契約解除の動きが表面化してきました。

 欧州天然ガス市場を喪失したガスプロムは、今後経営危機も視野に入ってくることでしょう。

 原油の叩き売りと欧州ガス市場喪失により、ロシア経済自体の破綻も透けて見えてきたと筆者は考えます。

第6部:ロシア国民福祉基金資産残高推移

 ロシアには「国民福祉基金」が存在します。これは一種の石油基金であり、もともとは「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました。

 露原油(ウラル原油)の油価が国家予算案で設定された基準を上回ると「安定化基金」に組み入れられ、国家予算が赤字になると、「安定化基金」から補填される仕組みでした。

 この仕組みを考案したのが、当時のA.クードリン財務相です。

 この基金は発足時の2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い2008年1月には1568億ドルまで積み上がりました。

 この安定化基金は2008年2月、「予備基金」(準備基金)と「国民福祉基金」(次世代基金)に分割され、「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」は年金補填用や優良プロジェクト等への融資・投資用目的として発足。

 分割時、「予備基金」は約1200億ドル強を継承、残りを「国民福祉基金」が継承。

 この石油基金のおかげでロシアリーマンショックを乗り越えられたと言われています。

 その後「予備基金」の資金は枯渇してしまい、2018年1月に「予備基金」は「国民福祉基金」に吸収合併されました。

 露財務省は2023年6月1日現在の資産残高は1531億ドル(GDP比8.2%)と発表しました。ただし、この資産残高は預貯金残高ではなく、あくまでも資産残高です。

 過去に投融資した資産が含まれており、その中には不良資産も入っています。

 このことは流動性のある真水部分は少ないことを意味します。

 露財務省は毎月、国民福祉基金残高を発表しています。参考までに、発足時の2008年2月1日から2023年6月1日現在までの資産残高は以下の通りです。

 2021年国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル$45.3に対し実績は$69.0、2022年予算案想定油価$62.2に対し実績$76.1。

 ゆえに本来ならば2021年と22年の国民福祉基金資産残高は右肩上がりで上昇するはずが、22年には右肩下がりになりました。

 国民福祉基金は本来、戦費には転用できません。

 ゆえに露政府は昨年、「緊急目的のため支出可能」とする修正法案を成立させ、戦費に転用しています。

第7部:間違いだらけの日系マスコミ報道

 昨年2月24日ロシア軍によるウクライナ侵攻後、筆者はロシア財政問題と戦費に言及してきました。

 欧米メジャーや欧米石油サービス企業がロシア市場から撤退したことに鑑み、今後ロシアの原油・天然ガス生産量は減少必至と筆者は予測し、今年に入り生産量低下が数字で検証可能になりました。

 すると、日系マスコミでも付焼刃のように露財政問題を取り扱うようになりました。

 しかし、内実を知らずして間違いだらけの報道になっています。枚挙にいとまはありませんが、本稿ではいくつかの実例を挙げてみます。

 まず、「ロシア国民福祉基金」。

 上述の通りこれは「資産残高」であり「預貯金」ではありません。

 ところが、テレビ生番組に登場したある評論家は「ロシアには国民福祉基金があるので、1~2年は戦費の問題はない」と解説していました。

 この人は国民福祉基金を預貯金と誤解しているのです。

 筆者の推測にすぎませんが、恐らく今年末までには国民福祉基金資産残高の流動性資産は枯渇することでしょう。

 次に「朝日新聞」の記事に言及します。

 昨年9月3日付け朝日朝刊は、「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じました。

 しかし第1部と第2部で詳述した通り、露ウラル原油はウクライナ侵攻後に下落しており、この記事は間違いです。

 油価が上昇したのは、ウラル原油以外の油種です。

 また、ロシアの石油収入が伸びたのは事実ですが、それはウクライナ侵攻後に油価が上昇したからではなく、昨年同期比でウラル原油の油価水準が上がっていたから収入が伸びたにすぎません。

 朝日新聞の石油・ガス関連記事は間違いが多いので、この機会にさらに言及してみます。

 今年4月23日付け朝日朝刊の1・2面特ダネ記事として、アフリカの天然ガスプロジェクトが言及されています。

 以前からある構想でなぜ1面トップ記事なのか筆者は理解できませんが、この記事の中に「ナイジェリアからモロッコまで洋上を5600キロにわたりつなげるパイプライン」が地図入りで掲載されています。

 筆者はこの「洋上パイプライン」に笑ってしまいました。

 なぜなら、「洋上パイプライン」はこの世に存在しないからです。

 しかし、書いた記者も校閲した本社デスクもこの間違いに気づかなかったようです。

 署名記事なので記者名が明記されています。この記者は今年6月11日付け朝日朝刊に「もう一つの計画は海上。ギニア湾の沖合から時計周りにモロッコまでつなぎ、その先の欧州と結ぶという世界最長の洋上パイプライン構想だ」(第4面)と書いています。

 すなわち、この記者は本当に「海上に浮かぶ洋上パイプラインを建設する」と思っているのです。

 しかし海上に浮かぶ洋上パイプライン(PL)を建設すれば、船舶通過が不可能になり、大陸封鎖になってしまいます。

 ジブラルタル海峡が封鎖されれば、地中海と黒海が孤立します。

 では、本当にそのような「海上に浮かぶ洋上PL建設構想」は存在するのでしょうか?

 存在しません。このPL建設構想は海底に敷設する海底PL(offshore pipeline)のことです。

 次に、ロシア産原油の油価に言及したいと思います。

 上述の通り、ロシアの代表的油種ウラル原油はバナナの叩き売り状態ですが、ロシアが長期契約に基づき原油PLで中国に輸出しているESPO原油にも影響が出ています。

 ESPO原油は軽質・スウィート原油なので油価水準は北海ブレントと同じですが、中国向けはブレントより約10ドル安くなっています。

 ところがあるネット雑誌は「中国は露ウラル原油より約20ドルも高い価格でロシア産原油を輸入し、財政支援している」と報じていました。

 ESPO原油は本来ならばウラル原油よりも30ドル以上高い油価ですから、20ドル高いということは実態として買い叩いていることになります。

 中国が市場価格より高い原油を対露財政支援のために輸入することはあり得ません。

 今年5月25日付け「Record China」は、「石油と天然ガスの輸出はロシアの国家歳入の約4割を占めている」と報じています。

 しかし、国家歳入の約4割を占めていたのは「石油・ガス関連税収」であり、石油・ガス輸出関税ではありません。

 石油・ガス関連税収の8割以上は地下資源採掘税です。

エピローグ/ロシアの国益は?

 最後に、ロシア軍によるウクライナ全面侵攻によるロシアの近未来を総括したいと思います。

 ただし、現在進行形の国際問題なので、あくまでも6月22日現在の暫定総括である点を明記しておきます。

 ロシア軍ウクライナ全面侵攻作戦は、「プーチンプーチンによるプーチンのための戦争」です。

 この戦争は露プーチン大統領が主張するような祖国防衛戦争ではなく、1956年ハンガリー動乱1968年プラハの春の延長線上にあると筆者は理解しております。

 すなわち、自国の生存圏(Lebensraum)を脅かす存在は、戦車で蹂躙する思考回路です。

 繰り返します。ロシア経済は油価依存型経済構造です。

 ウクライナ戦争長期化を予測する人は多いのですが、油価低迷により露経済は破綻の道を歩み、財政悪化により戦費が減少・枯渇する結果、年内に戦争の帰趨は見えてくるものと筆者は予測します。

 強硬姿勢を崩さない露プーチン大統領ですが、今年中に停戦・終戦交渉を余儀なくされることでしょう。

 繰り返します。日系マスコミではよく「ロシア国民は戦争による耐乏生活に慣れている」と話している人がいますが、そのように主張している人は重要な事実を見逃しています。

 それは、ナポレオン戦争もドイツのソ連侵攻もロシアにとり祖国防衛戦争であり、ロシア祖国防衛戦争で負けたのは侵略軍です。

 しかし、今回の戦争はロシア他国侵略戦争です。

 侵略戦争はウラル原油の油価を低下させ、欧米の対露経済制裁措置強化を誘発。欧米メジャーロシア市場から撤退した結果、ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しました。

 油価(ウラル原油)下落と原油生産量減少によりロシア経済は弱体化し、財政は破綻寸前です。このまま戦争を継続すればロシア国内は流動化して、中央アジア諸国のロシア離れはますます加速化され、ロシアの対中属国化が進むことになります。

 ロシアの対中依存度が上昇しており、対中資源属国化が水面下で進行しています。

 中国の習近平国家主席にとっては内心笑いが止まらないことでしょう、熟柿が落ちるのを待っていればよいのですから。

 現在の局面におけるロシアの国益、それはロシア軍の即時撤退・停戦以外あり得ないと筆者は確信している次第です。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  プーチン演説から読み解くロシアの苦境と財政悪化

[関連記事]

財政破綻にまっしぐらのロシア、ガスプロムも経営悪化か

ロシアが短期決戦に挑む理由は財源枯渇、早期撤退が生き残る道

モスクワ赤の広場に立つスターリンなどの石像