人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが5月の『キン肉マン』連載をレビュー!
人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが5月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが5月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

―今回の「先月の肉トーク」テーマ―

第415話 最上階からの景色!!の巻(5月8日分)
第416話 崩壊するエネルギーバランス!!の巻(5月15日分)
第417話 いつもの裏切り!?の巻(5月22日分)
第418話 ザ・ワンの大改革!!の巻(5月29日分)
あらすじ
超神vs超人のバベルの塔決戦、バッファローマンvsザ・ワン(調和の神)は、ザ・ワンの圧倒的な力に屈し、さらにその軍門に下るというまさかの展開に。一方、バベルの塔最上階では、超神との闘いで生き残ったキン肉マン、ミートくん、ロビンマスク、ウォーズマン、ジェロニモ、アシュラマン、ネプチューンマンの7超人が天界の恐るべき景色を目にしていた。そこへ現れたザ・マンから天界の状況を聞くことになり......。

●強さのインフレへの挑戦⁉

燃え殻(以下、) しかし、すごい話になってきたね。宇宙のエネルギーの総量のバランスを崩すほど超人たちが力を持ってしまった、だから超神ザ・ワンとしては、今存在する超人の8割を人間にしてしまう、という。

爪切男(以下、) そうですよね。

 少年ジャンプの王道としてさ、敵がどんどんインフレを起こしていくじゃない?

 はいはい、強さのインフレ

 世界一、いや宇宙一、いや神界一、って、もう止まらなくなる。でもそこに対して誰も触れない、そういうもんだからしょうがない、という暗黙の了解がある。『キン肉マン』のこの展開は、ゆでたまご先生がそこに挑もうとしているのかも、と思ったんだよ。大きくなりすぎたパワーを止める、という。

 ああ、なるほど!

 たとえば、キン肉マンは本来95万パワーだけど、王位編では「火事場のクソ力」を出すと7000万パワーになった。そして、バッファローマンモンゴルマンのコンビが2000万パワーズと名乗った。学生時代に読んでいて「これ、どうなっていくんだろう?」と思ったけど、マンガだし、連載ものだし、ジャンプだし、っていうのであきらめた。そういうのを全部回収するために、先生がこういう展開にしたのなら、すげえおもしろい、と思って。それは誰もやらなかったというか、あきらめていたことだから。

王位争奪戦編の最終戦フェニックスとの闘いでは、火事場のクソ力を取り返し、7000万パワーマッスル・スパークを見せた(JC36巻)
王位争奪戦編の最終戦フェニックスとの闘いでは、火事場のクソ力を取り返し、7000万パワーマッスル・スパークを見せた(JC36巻)

 ああ、先生が、自らもやってきたことに対して、異議を申し立てている、みたいな。

 そう。長い歴史がある、成熟したマンガにしかできないことをやろうとしてるのがおもしろい。ゆでたまご先生が、そこに手をつけるとは、誰も思わなかったんじゃないかな。

 でもそれをやろうとすると、物語としては相当ややこしくなりますよね。

 そう、だから実際、ややこしくなっているじゃない? それも納得がいく、というかね。

 でも......水を差しますけど、「8割は超人であることをやめて、人間になってもらう」って言ったら、そのうちの3割ぐらいは「わかりました」と言うと思うんですけどね。

 はははは!

 自分が超人である必要はない、と思っているヤツ、いると思うんですよ。「俺がやめたら宇宙のエネルギーのバランスがとれるんなら」っていう。前回、敵の軍門に下ったバッファローマンを、社会人にたとえて話をしましたけど。これも同じで、やめてくれって言われたら喜んでやめる人もいると思いますよ。

 会社が早期退職者を募集したら、予想以上の人数が押し寄せた、みたいな?()

 超人をひとりひとり呼んで誠意を込めて説得していけばね、けっこうな人数が「わかりました」と。

 暴対法施行後の暴力団員みたいな()。大変な思いでこのまま続けるよりも、カタギになったほうがラクだ、と。

 命を懸けて闘ってまで、超人である資格を守ろうとするヤツが何割いるかな。

 委員長って超人なの?

 そりゃ超人でしょ。

 でも、今のあの感じだとやめそうだよね。

 そこらへんはもう、会社と一緒。高齢の超人は、有無を言わせず定年退職()

 けっこう、合議でいけそうだね。

 合議で半分くらい解決して、それでも残った超人と闘えばすむんじゃないかな。そう考えると結局、キン肉マンのようなトップ級の超人が大変だ、ということですよね。

 そういうことだよね。

 そこで気になったのは、ザ・ワンが、8割は超人であることをやめてもらう、と言った時に、「い...いや、ちょっと待たんかーい!」と言うキン肉マンに、「そ...そうズラーーッ!」とジェロニモが同意するシーン。胸にくるものがありますよね。ジェロニモ、人間から超人になっているから。

『キン肉マン』連載418話より
キン肉マン』連載418話より

 ああ、そうだね。派遣社員感がある。

 ジェロニモは両方の生き方を知ってる。そう考えると、こういう展開になったことで、またジェロニモが活きてくるのかもしれない。

 ああ、そうか。人間と超人の間で揺らぐ、という今の展開になった時に、そこにジェロニモが入っていることは必然だったんだね。

 だからすごいなと思いました。ゆでたまご先生、よくここにジェロニモ入れといたな。とにかく、ここにジェロニモがいると、すごく説得力がありますよ。

 ロビンマスクとか、もし負けて人間になってしまったら、素顔になるのかな?

 なるんじゃないですか? 人間になってもあのマスクと鎧(よろい)のままだったら、ヤバいヤツですよ()

 ウォーズマンは負けたら人間になるの?

 ならないでしょ、機械の身体だから。負けたら、ロボ超人からロボになる。

 そうか。ウォーズマン、かわいそうだな。あと、アシュラマンが人間になるとか、想像がつかない。顔が3つで手が6本なのに......。

 顔がひとつで、腕も2本にされたら、ものすごくかわいそう。

 アシュラマンじゃなくなる、ってことなんだね。普通の人になる。

 そうならないために、今残っているメンバーが、超神と闘っていくんでしょうけど......。

 ハードスケジュールすぎない?

 超ハードスケジュールですよ!

 四天王時代の全日本プロレスぐらいだよ。たとえば、まだ出ていない超人が、スーパーリザーブで出てくることはないのかな?

 ああ、キン肉マンソルジャーとか、テリーマンとかが。

 それはありにしてほしいなあ。あの、『キン肉マン』って、強さのインフレもあったけど、死のインフレもあったじゃない?

 ああ、死んでも蘇って立ち上がってくる。

 でも今回の「超人が人間になる」というのは、そうやって蘇る道も断つ、ってことなんじゃないか、という気がして。

 ああ、そうかも。

 超人が人間になるというのは、死ぬより重い十字架のような気がしない? 『キン肉マン』の世界の中では。

 あと、ザ・ワンは、キン肉マンの力の使い方こそが、超人の成長を抑える究極の切り札になる、と言いましたよね。

『キン肉マン』連載418話より
キン肉マン』連載418話より

 うん。それが友情パワーだ、と。

 昔の少年ジャンプ、「努力・友情・勝利」だったじゃないですか。当時はあたりまえのようにそう言ってたけど、今はちょっと恥ずかしくなっている、という時に、ここであらためて『キン肉マン』の友情パワーにスポットが当たる、というのは、うれしいというか、胸が熱い展開ではありますよね。

燃  ああ、そうだねえ。

 この歳になって、友情を感じる時なんて、ありますか?

 ないですねえ。

 ねえ? 今、俺ら、身体が光る時、ないですよね......いや、子供の時でさえ、なかったな。僕は団体競技がイヤでイヤで、個人競技の陸上をやっていた子供だったので。

 俺もなかった。でも、自分にないからこそ、読んで熱くなってたんじゃないかな。当時、たとえば高校球児とかは友情あっただろうけど、そういう一部の人しか経験しない、僕らには味わえないものだったんじゃないかな。憧れの対象としての友情。

 ああ、それはそうですね。

 それから、「努力・友情・勝利」がスローガンだった頃の少年ジャンプのほかのマンガって、「努力」と「勝利」はあったけど、「友情」って描かれてたっけ?

 ああ......あんまりなかった気がするな、言われてみると。

 物語の中に直接友情という言葉が出てくるのって、『キン肉マン』だけじゃないかな。

「友情」の二文字が強調されて終わった連載418話は、大きな反響を得た
「友情」の二文字が強調されて終わった連載418話は、大きな反響を得た

 ああ、そうかも。

 それを何十年も続けていて、今でも重要なテーマとして描いている。というのと、さっき言った、キャラの消え方に関しても「死ぬ」だけじゃなくて「人間になる」という新たな方法を試みている。強さのインフレに関しても、そこに一石を投じて改革しようとしている。って考えると、ほんとに今後が楽しみだよね。『キン肉マン』の改革であり、ジャンプ的な少年マンガの改革だから、これは。

 あとは、超人がもうひとり、ザ・ワンの軍門に下るとおもしろい。と、プロレス者としては思っちゃいますね。このままだとバッファローマンがかわいそうすぎるし。

 ああ、それはそうだね。

 アシュラマンにもさんざんな言われようだったし。「何もそんなに驚くことはないだろう。いつもの十八番の裏切りではないか」って(417)

 そのもうひとりの超人、バッファローマンと縁もゆかりもある人がいいよね。

 あ、そうですね。

 ラーメンマンじゃない?

 あ! そうか、ザ・ワンの下で、2000万パワーズ再結成。

 そう! それ、よくない?

 いいですね、しっくりきました。最近さえてるじゃないですか、燃え殻さん。

 ありがとうございます()

燃え殻MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は二村ヒトシ氏との共著『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで、ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演・阿部寛)はDisney+でそれぞれ配信中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中

取材・文/兵庫慎司  撮影/鈴木大喜 ©ゆでたまご集英社

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