空自から退役するF-15戦闘機のエンジンをインドネシアへ輸出できるかもしれません。実現すれば、まとまった装備品輸出の事例となりますが、現状では不可能。超えるべきハードルが、国の内外に存在するのです。

これから100機以上退役のF-15のエンジン輸出へ?

航空自衛隊から退役するF-15J/Dj戦闘機のエンジンをインドネシアに輸出する話が持ち上がっています。2023年6月19日付の読売新聞は、政府関係者の話として、自衛隊の保有装備品や国内メーカーが開発した防衛装備品を輸出する際のルールである「防衛装備移転三原則」の運用指針に、エンジンを含めた部品の提供を追加する方向で、与党と調整する見直しを検討していると報じました。

もし実現すれば、日本にとっては宿願ともいえる装備品輸出のまとまった事例になるかもしれません。退役するF-15J/DJや、その中古エンジンとは、どのようなものなのでしょうか。

航空自衛隊は2023年3月31日の時点で、F-15J/Djを200機保有しています。このうち、J-MSIPと呼ばれる能力向上改修が施された後期生産型の単座仕様機68機については、空対空ミサイルの搭載数の増加と電子戦能力の向上、長射程対艦ミサイル「JASSM」の運用能力追加などが図られており、長期にわたって運用する計画となっています。

その一方で、おおむね1981(昭和56)年から1984(昭和59)年に生産された、Pre-MSIPと呼ばれる、J-MSIP改修を施していないF-15J/DJは、F-35AF-35Bで更新されることが2018年に決まっています。このため早晩、航空自衛隊からは100機以上のF-15J/DJが、順次退役する予定となっています。

F-15の機体寿命は8000時間程度と見積もられていますが、その一方で搭載するF100-IHI-100ターボファン・エンジンの寿命は1万時間以上と見積もられています。スペアを含めれば、寿命に達していないF-15J/DJのエンジンは少なくないものと思われます。政府はこのPre-MSIP機のエンジンのインドネシアへの輸出を目論んでいるというわけです。

2022年6月現在、インドネシア空軍はF-15を保有しておらず、読売新聞F-15J/DJのエンジン輸出が実現した場合、インドネシアは同国空軍のF-16戦闘機に搭載すると報じています。

両国にぴったりじゃないか!

インドネシア空軍が1989年から90年にかけて導入したF-16ブロック15仕様機は、F-15J/DJのPre-MSIP機に搭載されているF100-IHI-100ターボファン・エンジンの原型であるアメリカのプラット・アンド・ホイットニーが開発したF100ターボファン・エンジンを搭載しています。このため、F100-IHI-100ターボファン・エンジンはそのまま流用可能です。

このブロック15仕様機とは別に、インドネシア空軍は2011年にアメリカから近代化改修を施した中古のF-16を30機導入しており、ブロック25と呼ばれています。これらも、F100ターボファン・エンジンを搭載しており、F100-IHI-100ターボファン・エンジンを流用することができます。

ただし、いまのままでは輸出はできず、越えなければならないハードルがいくつかあります。

日本とインドネシアの両政府は2021年3月に、防衛装備品・技術移転協定の締結に合意しました。しかし現在の防衛装備移転三原則では、インドネシア以外の協定締結国に対しても、救難、輸送、警戒、監視、掃海の5類型の防衛装備品に輸出を限定しており、戦闘機のエンジンは対象外となっています。このため輸出にあたっては防衛装備移転三原則の改定が必要になります。

また、F100-IHI-100ターボファン・エンジンは日本企業のIHIがライセンス生産していますが、前に述べた通り、原型のF100ターボファン・エンジンはアメリカ企業のプラット・アンド・ホイットニーによって開発されています。このため輸出にあたっては同社とアメリカ政府の許可を得る必要もあります。

F100-IHI-100ターボファン・エンジンの売却は、インドネシアにとっては主力戦闘機であるF-16のエンジンを安価に調達でき、日本にとっても、いくばくかの金銭を得られるだけでなく、同国とのさらなる関係強化も見込めます。日本と同じ海洋国家であり、ともに中国の力による現状の変更に対して厳しい姿勢を示しているインドネシア、今回のハードルを乗り越え防衛協力の進展につなげられるでしょうか。

航空自衛隊のF-15J/Dj(画像:航空自衛隊)。