VTuber業界の老舗ともいえるアップランドは、直近はあわただしい新展開が続いている。2年ぶりとなる新人グループ『ぶいぱい』のデビューがそのひとつだ。

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 Live2Dアバターでスタートとする総数6名のVTuberグループ、と書くと特段めずらしい存在ではない。ただしこのグループには、リアルタイムで進行する謎解き・バックストーリーが存在するという特徴がある。「過去に起きた殺人事件の容疑者がいる」という設定のもと、メンバーは各々の配信の中でこうした設定などを開示。登録者数が伸びるごとに新たな情報も開示するため、本格的に追いかけるには配信の張り付きが必要になる。

 「VTuberの配信」という日常に溶け込みやすいイベントに謎を仕込む、という意味では代替現実ゲームを彷彿とさせる。SNSを軸に展開した不可逆性SNSミステリー『Project:;COLD』が話題となって数年経つが、この手法が本格的にVTuberにも適用され始めているのかもしれない。独特な配信誘引施策を仕込んだVTuberグループが、どのように発展していくかは注目していきたいところだ。

 その一方で、アップランドはあらたな事業に手を伸ばした。メタバース事業だ。6月23日に突如、Webメタバース向けエンジン「Verse Engine」を公開したのである。

 ダウンロードは無料、商用利用も無料。P2Pオーバーレイネットワークを採用しており、メタバース内で発生する通信をユーザーのWebブラウザ同士で行わせるのが大きな特徴とのことだ。静的Webサーバーアップロードすれば簡単に構築できる手軽さもウリにしている。

 にわかに基礎エンジン部分の提供を開始した同社が、この領域でなにを目指して事業をスタートしたのか、公開されている情報は少ない。MBS傘下となってしばらく経つアップランドが、今後どのような企業に発展していくか注視が必要となるだろう。

 そのほかのVTuber業界のニュースとしては、シューター系ゲームを中心にプレイしていた濃いめのあかりんというストリーマーが、VTuber・夢野あかりとして『ぶいすぽっ!』に加入したという話もある。VTuberとしての新規デビューではなく、ストリーマーからVTuberへの転身だ。先例こそあるが、大手VTuber事務所に所属するという点では、なかなかに興味深い事例だ。

 一方で、謹慎中だった『にじさんじ』の郡道美玲が活動を終了したり、『まりなす』の音葉なほが9月末ごろの活動終了を告知したりと、著名どころが業界を去る話もあった。誰がいつ活動を終えてもめずらしくない状況が、2023年ともいえる。

〈健全な経済圏発展に注力する『cluster』の動向〉

 『cluster』は昨年の秋以来となるカンファレンスイベントを開催した。メニューやモーション改善、ステレオ音声対応、チュートリアル機能の充実やアイテム交換チケットなど、遊びやすさや初心者向け機能の充実が図られる大規模アップデートが告知された。

 そして、新会社・クラスタークリエイタージョブズ株式会社の設立も発表した。『cluster』でイベントや企画を実施したい企業と、制作案件を請け負いたいクリエイターをつなぐための会社だ。『cluster』で活躍するクリエイターに有償案件の機会を与え、メタバースクリエイターとして食べていけるようにすることで、メタバース経済圏の加速を図るのが最大の狙いだ。

 『cluster』はこれまでも、アバターやワールド向けパーツ、アバター向けアクセサリーを公開・販売するシステムを進めており、「個人がメタバースで収益を得て生きる」ことに大きく注力してきた。一方で、クラスターの加藤CEOは「稼ぎを目的とした勢力に荒らされたくない」とも語り、経済圏の発展は健全であるべき、という姿勢を示している。

 そうした姿勢のあらわれか、募集がスタートとした登録クリエイターの条件は、「1年前から『cluster』にワールド公開の実績がある」など、なかなかにハードルが高い。まずは、『cluster』にしっかり根付いているクリエイターに光を当てたいということだろう。よりよい世界の発展のために動き続ける同社には、「メタバース法人案件数世界No.1」という実績がもたらされているようだ。

(文=浅田カズラ)

6月26日のバーチャルニュースたち