後世に大きな影響を与えたマカロニ・ウエスタン『続・荒野の用心棒』(66)を現代的な解釈でドラマ化した「ジャンゴ ザ・シリーズ」。本作を独占配信しているAmazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」では、7~8月にかけて関連作品をまとめた特集も予定しており、ここだけでしから観られない貴重な1本もラインナップされている。ところで、名前はよく目にするけど、“マカロニ・ウエスタン”っていったいどんなジャンルなの?“ジャンゴ”って何者?と思っている人も少なくないはず。そんな疑問にお答えするため、マカロニ・ウエスタン研究家として活躍するセルジオ石熊が原典について解説するほか、ドラマ版や特集作品の見どころも紹介していく。

【写真を見る】荒野を棺桶を引きずりながら歩くジャンゴが印象的だった名作『続・荒野の用心棒』

マカロニ・ウエスタンの中でも特に異様な“ジャンゴ”こと『続・荒野の用心棒

第85回アカデミー賞脚本賞を受賞したクエンティン・タランティーノの傑作西部劇ジャンゴ 繋がれざる者』(12)が、セルジオ・コルブッチ監督の『続・荒野の用心棒』こと、原題『Django(ジャンゴ)』をモチーフにしていたことは誰もがご存じだろう。

アメリカ西部の小さな町に一人の流れ者がやって来て悪を一掃する。黒澤明監督、三船敏郎主演の時代劇『用心棒』(61)を西部劇に翻案したセルジオ・レオーネ監督&クリント・イーストウッド主演の『荒野の用心棒』(64)が大ヒットし、世界中で大ブームを巻き起こして400本以上も作られたとされるマカロニ・ウエスタン(ヨーロッパ製西部劇)。極端にいえば物語はどれも似たりよったりで、派手な銃撃シーンとギトギトした汗くさい画面(または主人公の顔)が最大の特徴。ただ、おりしも1960年代のハリウッド西部劇は社会派的なテーマを取り入れて少々説教くさい作品が多くなっていた。そこで、あまり深いことを考えずに気軽に楽しめるマカロニ・ウエスタンが人気を呼んだのだ。ところが、コルブッチ監督&フランコ・ネロ主演の『続・荒野の用心棒』は、主人公のキャラや武器、町の外観や住人、物語展開、銃弾や死人の数などなど…。いずれも常識破りの異様さでマカロニ・ウエスタン&映画史上にさん然と輝く抜きんでた存在で、数多くのニセ「ジャンゴ」を生んだことで知られている。

観客を呼ぶためにヨーロッパ各国では題名に“ジャンゴ”を冠した西部劇が数多く出現し、特にドイツでは主演のネロが出ているだけで、サメもの映画に『Django and the Sharks(ジャンゴ・アンド・ザ・シャーク)』、なんの関係もないのに『Nude Django(ヌード・ジャンゴ)』(68)なるエロチック映画まで出現した。その一方、日本では続編でもないのに配給会社が一緒だっただけで『続・荒野の用心棒』というタイトルが付けられている。

■“ジャンゴ”が唯一無二のキャラクターである理由

ところで、「なぜジャンゴなの?」と疑問に思う人もいるだろう。諸説あるが、『続・荒野の用心棒』で主人公が拷問で指をつぶされ血まみれになりながら工夫と執念でラストの逆転勝利を収める展開から、コルブッチ監督が連想したのが、左手の指に火傷を負いながら超絶技巧でならした名ジャズギター奏者ジャンゴ・ラインハルトだったとされている。流浪の民ジプシー(ロマ族)出身のジャンゴは、まさに荒野をさまよう流れ者の名にぴったりだった。

颯爽と馬に乗るのではなく、棺桶を引きずりながら歩いて登場するネロ演じる全身黒づくめの主人公ジャンゴを、「西部劇に現れた吸血鬼」と評する評論家もいた。イーストウッドが『荒野の用心棒』や『夕陽のガンマン』(65)、『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』(67)で演じた主人公は金のことしか考えていないクールなガンマンだったのに対し、ジャンゴは死んだ妻の墓参りをする男だった。タランティーノは『ジャンゴ 繋がれざる者』で、アメリカに根強い人種差別を一掃する黒人ガンマンとして新たな「ジャンゴ」を創り上げつつ、オリジナル版に忠実に、物語にジャンゴの夫婦愛を注入していた。

■登場人物たちの愛憎が渦巻くロシア文学的大河ロマン・ウエスタン「ジャンゴ ザ・シリーズ」

オリジナル版から半世紀以上を経て誕生したテレビシリーズ「ジャンゴ ザ・シリーズ」は、荒野の“火口”の中の町ニュー・バビロンを舞台に、流れ者ジャンゴ(マティアス・スーナールツ)と黒人たちのユートピアを作ろうとしているジョン(ニコラス・ピノック)、ジョンの若妻サラ(リサ・ヴィカリ)に加えて、近くの町を牛耳るエリザベス(ノオミ・ラパス)の間の愛憎と銃撃戦を描くマカロニ西部劇を越えたロシア文学的大河ロマン・ウエスタンだ。本作はコルブッチに捧げられているうえ、(オリジナル版の)脚本家や作曲家などメインスタッフ名も毎回クレジットされる。

ニュー・バビロンの町が撮影されたのは、ルーマニアにあるラコシュ火山のクレーター。いままでの映像作品で見たことがない異様なロケーションというしかないが、現地では人気の観光スポットとのことで、撮影のために長期間にわたって閉鎖されたという。そもそも1950年代末に喜劇映画で名を挙げたコルブッチが初めて撮った西部劇グランド・キャニオンの大虐殺』(63)は旧ユーゴスラヴィアで撮影されていた。ジャンゴが、先祖返りして東ヨーロッパ(しかも吸血鬼の本家)で撮影されたのも、ジャンゴを演じたスーナールツが、あの名ギタリスト、ジャンゴと同じベルギー出身なのもすべて用意された必然だったのかもしれない。

■オリジナル版の要素を引継ぎながら現代にも通じる物語として構成

全10話によるこのテレビシリーズは、“妻を亡くした元南軍兵の流れ者”という、すでにオリジナル版でほのめかされた設定を引き継ぎつつ、エピソードを重ねるにつれて、さらに突っ込んだ人物造形を施された主人公ジャンゴの正体が明らかになっていく。

もちろん、コルブッチが好んだ“強い女”や“ハンディをもつ”キャラクターは忘れていない。指にハンディのあるギタリストではないが、盲目の音楽家が登場する。さらに、砦のような町は『スペシャリスト』(70)、木製の塔は『リンゴキッド』(66)、ネイティヴ・アメリカン狩りは『さすらいのガンマン』(66)など、コルブッチ作品を彷彿とさせる描写はもちろん、『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』を思わせる南北戦争場面や『荒野の用心棒』に登場した炎を背景に射ちまくる黒いドレスの女など、マカロニ・ウエスタンの数々の名作を思いださせる名シーンが目白押し。棺桶や、あの“強力な武器”もしっかり登場する。極めつけは、ジャンゴを支える存在として『ジャンゴ 繋がれざる者』同様、特別出演する元祖ジャンゴフランコ・ネロ!見逃し厳禁だ。

物語の根底には、タランティーノ「ジャンゴ」を受け継ぐ反人種差別=自由平等主義に加えてヨーロッパ的なユートピア志向、さらにはアッと驚く、ある名作ハリウッド西部劇(アカデミー賞監督&脚本賞を受賞)への目配せなど、21世紀にマカロニ・ウエスタンを復活させるにふさわしい多様なアイデア、多彩な個性と意外性が詰め込まれている。

■“なんちゃって”だけど魅力的な知られざるジャンゴたち

さて、そんなマカロニ・ウエスタン&西部劇ファン必見の「ジャンゴ ザ・シリーズ」に合わせて、「スターチャンネル」では、なんと6本の「ジャンゴ」映画を連続放映するというではないか。本家『続・荒野の用心棒』と『ジャンゴ 繋がれざる者』はもちろん必見だが、特筆すべきは、(おそらくほとんどの人が)見たこともない俳優たちが「ジャンゴ」を演じる、いわゆる“なんちゃってジャンゴ”のズラリ4連発だ。

『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』(66)ではオランダ出身のグレン・サクソン、『待つなジャンゴ引き金を引け』(68)はショーン・トッド(イタリア人俳優アイヴァン・ラシモフの変名)、そして本邦初お目見えとなる激レア作『ジャンゴ対サルタナ』(70)ではローマ生まれのトニー・ケンドールが、それぞれ個性あふれる「ジャンゴ」を演じている。

ちなみに、『情無用のジャンゴ』(67)には流れ者(トーマス・ミリアン)は出てくるが、「ジャンゴ」なるキャラクターは登場しない。海外用英語題名「Django Kill!(ジャンゴ・キル!)」が独り歩きした形だが、人の頭の皮を剥ぐ残酷描写など、『続・荒野の用心棒』と並ぶ残酷西部劇の代表作とされ、さらには西部劇の名を借りた人間&社会批判テーマが色濃い傑作として“なんちゃってジャンゴ”作品のなかでも抜きんでて評価の高い傑作だ。

なにはともあれ、マカロニ・ウエスタンの世界=“ジャンゴ・ワールド”ではスターは俳優の名ではなく、キャラクターの名なのである。俳優の特集ではなく、キャラクター名で特集を組むとは、さすが「スターチャンネル」、わかってらっしゃる。

文/セルジオ石熊

「ジャンゴ」たちが大集結!マカロニ・ウエスタン研究家が魅力を解説/[c]EVERETT/AFLO