よく知られているように、犬は飼い主の声によく耳を傾けている。犬は人の声が認識できるのだ。そして新たな研究によると、オオカミも同じように知っている人の声をわかっているのだという。
『Animal Cognition』(2023年6月20日付)に掲載された研究では、オオカミが見知らぬ人と飼育係の声をきちんと聞き分け、飼育係の声には注目することを明らかにしている。
犬が人間の声を聞き分けられるのは、長年にわたって人に懐くよう選択的繁殖が行われてきたからだ。というのが、これまでの常識だった。
ところが、人間の介入を受け入れていないオオカミにも、もともとその力があったのだ。
この事実は、我々がこれまでに理解してきた犬の家畜化の歴史と自然界全体の理解に新たな視点を投げかけている。
【画像】 オオカミはよく知っている人の声にどう反応するのか?
トリノ大学をはじめとする研究チームが、スペインの動物園と野生動物公園5か所で行った実験は次のようなものだ。
調査対象となったのは、オス・メスを含む1~13歳のハイイロオオカミ24頭である。
まず彼らの飼育場にスピーカーを設置し、見知らぬ人の声をずっと流す。これは人間の声にオオカミを慣らすためのステップだ。
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オオカミが声に慣れた頃、今度はスピーカーから普段から接している飼育係の声(スペイン語)を流した。それも「やあ、調子はどうだい?」「よう、かわい子ちゃんたち」と言ったお馴染みのセリフだ。
するとオオカミたちは、耳をピンと立てて頭を上げ、スピーカーの方を向いたのだ。犬の飼い主なら、声や音に注目していることがはっきりとわかる仕草だ。
これがたまたまでないことを確認するため、またも見知らぬ人たちの声を流してみた。するとオオカミたちは、すぐに興味を失ったのだ。
ではオオカミたちが飼育係の声ではなく、ただ聞き覚えのあるセリフに反応していた可能性はないのだろうか?
これを確かめるために、飼育係が普段は言わないセリフをスピーカーから流してみた。すると、やはりオオカミは、聞き覚えのある声に注目したのだ。
もともとオオカミには人の声を聴き分けられる能力が備わっていた
蓄音機から流れる亡き飼い主の声に耳を傾ける犬を描いたビクター犬でおなじみの「His Master’s Voice」からもわかるように、人間がその場にいなくても犬がその人の音声に反応することは、ずっと以前から知られていた。
そして今回、オオカミもまた同じであることが明らかになったのだ。
研究チームの1人であるホリー・ルート=ガターリッジ氏(サセックス大学)は、人間とオオカミが数千万年も前にたもとを分ち、それぞれ異なる進化の道を歩んできたというのに、オオカミが人間の声を区別できるのは重要なことだと説明する。
動物が人間の声をどの程度理解しているのか?
人間の親戚であるゴリラが私たちの声に耳を傾けるという限られた研究があるだけで、動物が自分とは違う種の声をどのように認識するのか、あまりよくわかっていない。
だが、少なくともゾウは、人間の声で性別・年齢・民族までも区別することができる。
女性や子どもの声ならそれほど怯えない。そうかと思えば、農耕民族のカンバ族の声よりも、槍でゾウを狩るマサイ族の声をずっと怖がるのだ。
ルート=ガターリッジ氏によると、今回の発見も含めて考えると、さまざまな動物たちが人間の声に耳を傾け、その声の主が誰なのかわかっている可能性があるという。
それどころか、たとえば犬が近所の猫の鳴き声を聞いて、それがどの子の声なのかきちんと把握しているとも考えられるそうだ。
「こうした力が一般的なものなら、動物たちは想像以上に、種の垣根を超えてお互いに交流しているということになるでしょう」(ルート=ガターリッジ氏)
References:Grey wolves (Canis lupus) discriminate between familiar and unfamiliar human voices - PubMed / Like dogs, wolves recognize familiar human voices / written by hiroching / edited by / parumo
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