銀行にお金を預けても利率が低すぎて増えず、インフレも進行していることから、老後資金確保のため、50歳からでも投資による資産形成を始めることが急務になっています。しかし、投資初心者は詐欺師に狙われやすく、投資詐欺の被害が後を絶ちません。防ぐにはどうすればよいのでしょうか。『1冊でまるわかり 50歳からの新NISA活用法』(PHP研究所)の著書があるセゾン投信創業者の中野晴啓氏が解説します。

投資詐欺に引っ掛からないようにする

50歳からの資産形成で絶対に引っ掛かってはいけないのが、投資詐欺です。

投資詐欺に引っ掛かると、託した資金の大半は戻ってきません。犯人は詐欺罪で逮捕され、その会社の資産を差し押さえて現金化し、被害者の持ち分に応じて資金が返還されますが、一般的に分配率は10%にも満たないのが現実だと考えます。

返ってくるのはせいぜい3~5%程度といったところでしょうか。仮に5%の分配率だったとしても、100万円で購入していたら、5万円しか戻ってきません。

退職金など、老後の生活に必要な資金の大半を預けたりしたら、目も当てられません。老後の生活を大幅に見直さなければならなくなるでしょう。

この手の事件に巻き込まれないようにするために、私たちは日頃からどういう点に注意すればいいのでしょうか。それは、投資詐欺の手口を知っておくことでしょう。

最近、よくあるのは、月利でリターンを表示するケースです。月利3~4%程度を提示して、「100万円を1ヵ月運用して、3万円程度の利益なら、簡単に儲かりますよ」というのです。

ここで、「そういうものか」と思った人は注意してください。月利3%を年利に換算すると36%にもなります。年36%ものリターンを挙げるとなると、これは相当程度、リスクの高い案件になります。

そうであるにもかかわらず、投資詐欺を行う人たちは「元本の安全性も確保されていますから」などというのです。

もう、この時点で怪しいと思わなければなりません。

「元本が安全で高利回り」という甘言に騙されないようにするためには、マーケットで形成されている金利水準を把握しておくことです。

日本で最も元本の安全性が高いのは、日本政府が発行している日本国債です。償還期間が10年の長期国債は債券市場で自由に売買されており、そこで形成されている利回りが、元本割れしない金融商品で運用した場合に得られる金利の指標になるといっていいでしょう。

ちなみに、2023年4月7日時点で年0.462%です。元本の安全性を重視した運用を行って得られるリターンが年0.45%前後ということですから、前出のように月利で3%、年利で36%などという運用は成り立つわけがないのです。

しかし、それでも「ひょっとしたらそういう話もあるかもしれない」と思い込ませるようなアイデアを、彼らは持っています。そのひとつが、複雑怪奇な仕組みの商品です。

「海外のヘッジファンドやプライベートバンクで運用します」「タックスヘイブンに設立したSPCを通じて暗号資産やFXで運用します」などといわれて、すぐに仕組みを理解できる人はいないでしょう。

「海外のヘッジファンドやプライベートバンクが運用する」といわれて、その場所がルクセンブルグやバハマ、ケイマン諸島といった、日本から遠く離れた場所になると、わざわざ現地まで行って、実在するのかどうかを確認することもできません。

結果、「まあ、そういう話もあるのかもしれない」などと思い込まされてしまい、詐欺に引っ掛かってしまうのです。

詐欺師が信憑性を持たせるために使う手口

さらにいうと、この手の詐欺話に信憑性を持たせるため、芸能人やスポーツ選手といった有名人・著名人を広告塔にする手法も、よく用いられています。

顧客を集めたパーティ、会員向けに発行される冊子の表紙、あるいは冊子でのインタビュー記事などに有名人・著名人が登場することで、「この人が出ているのだから、きっと大丈夫だろう」という気にさせるのです。

また、最近の傾向としては、お茶の間の誰もが知っている有名人ではなく、元中央省庁の役人、弁護士や公認会計士などといった、世間的に高い信用を得ている人たちが、詐欺業者のアドバイザーに起用されているケースも見られます。

資産所得倍増プランの裏側で深刻化する投資詐欺

資産所得倍増プランは、国として個人の資産運用を支援していこうという話ですが、この手の話が出てくると、投資詐欺が増えるのではないかと心配しています。

もうだいぶ昔の話になりますが、1998年、改正外為法の施行をはじめとした「金融ビッグバン」が行われた時も、投資詐欺が増えたと記憶しています。

改正外為法の施行では、個人でも海外の銀行に口座が開設できるとか、外貨の両替が自由化されるとか、あるいは海外の証券会社と直接取引ができるとか、主に海外投資に関わる部分での自由化が促進されました。

その動きに乗じて、海外のヘッジファンドやプライベートバンクタックスヘイブン、海外投資信託といった言葉を用いた投資詐欺が、2001年くらいにかけて急増しました。

「国が政策として海外投資を促進させようとしています。これを機に海外のプライベートバンクにお金を預けてみませんか」といった話を持ち出して騙したのです。

資産所得倍増プラン自体は、決して悪いことではありません。これによって誕生する新NISAは、必ずや個人の資産形成に役立つはずです。

だから、資産所得倍増プランに罪はないのですが、世の中には、こうした動きに乗じて悪事を働こうとする不届き者が少なからず存在します。

ここ数年で投資詐欺が増加傾向にあるといえるワケ

実際、昨年あたりから、詐欺的な投資商品を勧めた業者が、その投資商品を購入した人たちから訴訟を起こされたり、なかには検挙されたりした事案も複数、ニュースなどで報じられています。

毎年どのくらいの人たちが投資詐欺に引っ掛かっているのかについては、警察庁のデータを見るとすぐに分かります

警察庁 生活経済事犯」で検索してみてください。生活経済事犯とは、利殖勧誘事犯や特定商取引等事犯、ヤミ金融事犯など、私たちが日常生活を送るなかで直面するリスクのある犯罪のことです。

その被害額などの統計が、警察庁のホームページに掲載されています。

さまざまな事件の項目のうち「利殖勧誘事犯」が投資詐欺に該当します。2022年の被害額は157億1,050万円で、前年の1,110億1,857万円に比べて大幅減になっています。

ただ、1件あたりの被害金額が大きな詐欺があると一気に増えるので、被害金額の多寡のみで、被害件数が増えているのかどうかの傾向を把握するのは困難です。

そこで、利殖勧誘事犯の相談受理件数を見ると、2018年は1,330件でしたが、2022年は2,584件と、大幅に増えています。相談受理件数とは、投資詐欺に遭ったと思った人たちが警察に相談した件数です。

それが右肩上がりで増加しているのは、それだけ投資詐欺に遭ったことを自覚している人が増えていることを意味します。この数字の増え方を見る限り、やはり投資詐欺はここ数年で増加傾向にあるのではないかと推測できます。

中野 晴啓

セゾン投信創業者

(※写真はイメージです/PIXTA)