大谷 達也:自動車ライター

JBpressですべての写真や図表を見る

メルセデス・ベンツ 現在のEV事情

 数あるメルセデス・ベンツ製EV(電気自動車)のなかでも、EQEのポジションはちょっとばかり特別だ。

 いま、メルセデス・ベンツ日本の公式ウェブサイトを開くと、同社のEV向けサブブランド“EQ”シリーズのモデルとしては、セダンのEQSとEQEにくわえ、SUVとしてEQA、EQB、EQC、EQS SUV、EQE SUVの7台がラインナップされている(日本未発表のEQE SUVには「日本導入予定」との但し書きがつく)。

 このうち、先行して日本に導入されたEQA、EQB、EQCの3台は、エンジン車のGLA、GLB、GLCをEVにコンバートしたモデルで、したがってクルマの土台となるプラットフォームもエンジン車と共用している。しかし、EQSもしくはEQEの名がつくモデルは、EVA2と呼ばれるプラットフォームから新開発したEV専用モデル。それだけに、EVに特化したパフォーマンスを備えているといえる。

 たとえば、EVでもっとも重要なスペックのひとつであるバッテリー容量でみると、EQEは90.6kWh、上級モデルのEQSは107.8kWhで、EQAとEQBの66.5kWhはもとより、EQCの80kWhさえ確実にしのぐ。このためEQE350+は航続距離が624kmと、ガソリン・エンジンを積んだ同サイズのセダンと比べても遜色ないほど長くなっている。

EQEとEQSの違い

 私はドイツで行われたEQEの国際試乗会に参加し、その優れた静粛性と快適な乗り心地に心底、驚いた経験がある。ちょっと厳しいことをいうと、メルセデス・ベンツの新型車は、デビュー当時は足回りがしっかりと煮詰まってなくて、それが時間の経過とともに熟成されていくという傾向がときたまあるのだけれど、このEQEは完全な例外で、最初から足回りの仕上がりは極上。微低速で段差を乗り越えてもまるでショックを伝えないそのしなやかさに圧倒されたかと思えば、アウトバーンを飛ばしてもロードノイズや風切り音がほとんど聞こえないことは感動的でさえあった。

 このEQE国際試乗会が、私にとってEVA2初体験となったのだけれど、EQEの上級モデルにあたるEQSの乗り味については、その数ヶ月後にEQSが日本上陸するまで待つ必要があった。そして昨年末のある日、ようやく走り慣れた日本の公道でEQSに試乗したのだけれど、どうにもしっくりこない。乗り心地としては、ドイツで試したEQEよりも微妙にソフトだけれど、路面から大入力が加わったとき、足回りに微振動が残る傾向があって、クルマとの一体感が物足りなく思えたのだ。

 私はとある自動車メーカーのエンジニアから「足回りに残る微振動は、サスペンション取り付け部と、サスペンションに使われているゴムブッシュとの剛性のバランスが悪いときに起きやすい」と聞いたことがあったが、EQSはまさしくそんな印象だったのである。

 この経験を受けて、私は「ドイツで乗ったEQEでは、そんなことなかったのになあ」と思ういっぽうで、「ひょっとすると試乗した道路環境の違いが印象の違いに結びついたのかも?」という疑問が残り、なんともスッキリしない日々が続いたのだけれど、ようやくEQEに日本で試乗する機会が巡ってきて、念願の答え合わせをすることができた。

 そして、その答えとは……、「EQEは日本で乗ってもブルブルしなかった」というものである。

メルセデス・ベンツの高級車らしいEV

 今回、試乗したEQE350+は、やはり記憶していたとおり、日本で試乗したEQS450+より微妙にソリッドな乗り心地だったけれど、段差を乗り越えても足回りがブルブルすることなく、しっかりとした感触を伝えてくれた。もっとも、乗り心地が“硬め”というのはEQSと比較した場合の話であって、絶対的には十分にソフトだし快適。その割にワインディングロードを走ってもクルマの姿勢が不安定になったりしない。この辺は、バッテリーをフロアに敷き詰めた低重心設計のおかげだろう。

 そしてもちろんキャビンは静かで、いざとなれば首がのけぞるくらいの加速感をもたらしてくれる。つまり、なにからなにまで国際試乗会で感じた印象、そのままだったのである。

 では、EQSとの違いはなにかと問われれば、前述した某エンジニアのコメントから「ボディの局部剛性とゴムブッシュのバランスの問題と推察される」としか答えようがないのだけれど、メルセデスのことだから、時間が経てばきっと熟成されるものと期待したい。正直、症状としては、それほど深刻なものではないのだから……。

 それにしてもEQEやEQSに乗って驚かされるのが、そのインフォテイメント・システムの充実ぶりである。

 たとえば、ナビゲーションシステムの機能として用意されたエレクトリック・インテリジェンス・ナビゲーションは、ルート案内の際、ルート中の勾配情報、充電ステーションの位置情報、車両の充電状況や気温情報などから総合的に判断し、どこで充電すべきかを含めたルート案内をしてくれるというもの。この機能ひとつとっても、膨大な量のソフトウェアが必要となることは容易に想像できる。

 しかも、こうしたドライバーが直接、目にすることのできる機能だけでなく、モーター出力やバッテリー管理など、エンジン車であれば必要のなかったコンピューター制御が大幅に増えていることは明らか。もちろん、EVとすることで不要になったソフトウェアもあっただろうが、EQEに乗っていると、極めて高度なコンピューターとソフトウェアに守られながらクルマを操っているという印象が極めて強い。そして、エンジン車に長年乗り続けてきた方なら間違いなく「時代は変わったなあ」と痛感することだろう。

 そのいっぽうで、EQEにはメルセデスサルーンの本筋というべき快適な乗り心地や静粛性といった美点が色濃く感じられた。いや、それらはEVになったことで、より強化されたといってもいいくらいだ。

 コンピューター化と、機械本来の作りのよさ。メルセデスには、今後もこのふたつを絶妙のセンスでバランスさせてくれることを願いたい。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  超静かなる電動Eクラスに試乗。メルセデス・ベンツは『EQE』をどう仕上げた?

[関連記事]

メルセデス・ベンツ「Eクラス」は7年ぶりフルモデルチェンジで“存在感”を取り戻せるか?

メルセデス・ベンツの「EV四部作」のトリはパワフル加速のEQE SUV

画像ギャラリーへ