キュウリと並び、古くから河童が好きなものと言われているのが「相撲」。そんな言い伝えを、高校生の恋愛模様に取り入れたら――?

【漫画】「河童大一番・改」を読む

両棲類(@yamakei221B)さんの創作漫画「河童大一番・改」は、相撲で勝つのが付き合う条件という“河童の美少女”と、喧嘩ばかりしている暴れん坊との戦いを描いた作品だ。SNS上や同人誌で、独特な世界観と抒情的な作風で数多くのオリジナル作品を発表する両棲類さんに、同作のアイデアや作品へのこだわりについて話を聞いた。

■告白の条件は「相撲で勝つ」こと。河童少女と喧嘩少年の“大一番”

とある高校の三年生「川童睦(かわらむつ)」は、あまたの男子から告白されてきた美少女。だが、未だかつて彼女と付き合えた者はいなかった。付き合うには、河童である川童と相撲を取って勝たなければならなかったからだ。

そんな彼女に再戦を挑もうとするのは、山ごもりの修業に励む後輩男子「阿蘇」。前回、川童の強さ見たさにただ喧嘩を挑んだだけの彼は、張り手で瞬殺されたあと、取り組みの場で見た彼女の表情と言葉にもやもやした気持ちを抱えていた。

一方の川童も、二度目の挑戦を望んだ阿蘇のことを思うと、頭の皿の水が波立っていつもとは違う様子。二人の大一番を一目見ようと多くの生徒が群れなす中、再戦の直前、阿蘇は「好きです」と川童に今の気持ちを伝えるが――、という物語。

■“しょうもないことでも本人には重大な問題”一生懸命で不器用な人たちを描く

河童がいることは当たり前という世界観で、相撲と告白を軸に描かれる青春模様が不思議な読後感をもたらす同作。タイトルに“改”とある通り、「河童大一番・改」は両棲類さんが以前描いた作品を全面リメイクした漫画でもある。リメイクのきっかけや、同作に詰め込んだ思いをうかがった。

――「河童は相撲が好き」という言い伝えを、高校生の恋愛と組み合わせたアイデアが印象的です。本作を描いたきっかけを教えてください。

「前身の作品『河童大一番』を個人的にとても気に入っていて、しっかりとページ数を取り再構成したものを描きたかったというのがきっかけです。『河童大一番』は16ページという少ないページ数で、かけ足感が目立っていたし、ちゃんと深掘りしてあげたかった。もともと相撲で戦って恋の行方を決める…、というコンセプトだったので、再構成するにあたって、『屋上での“大一番”のシーンをお祭り会場のようにしたらもっとバカバカしく、楽しい絵ができるのでは?』というアイディアがまずありました」

――二人の恋、バトル漫画のような展開、シュールにも思えるシーンまでさまざまな要素が盛り込まれています。その中でどんなところを本作の軸として描かれましたか?

「恋愛に限らず、他人との関わり方にどこか冷めたような、達観した価値観を持っていた川童先輩の心を大きく波立たせるに至った阿蘇という男の、だいぶおバカなのだけどどこまでも愚直な生き様を応援したくなってくれたらいいなと思い、それを主な軸に置いて描いていました。とにかく絵的にも賑やかで、色々ツッコみたくはなるけどまぁいいかと思わせられたら勝ちだなと思い、やりたい要素を闇鍋的にぶち込んだてらいはあります」

――本作をはじめ、両棲類さんの作品はどこか不思議な世界観の中、キャラクターの心情を丁寧に追う作風に感じます。こうした作風に至ったきっかけは何ですか?

「世界観や主要キャラの設定はどこか怪しげな、胡乱なものにしたいという気持ちは漫画を描き始めた頃からありました。きっかけというか影響を受けた作品によるものが大きいと思うのですが……、ごちゃっとした背景とオフビートな感じの会話の描写は逆柱いみり先生や林田球先生、阿部洋一先生といった方々に強く影響されたと自分では思っています。

今作に限らず自身の作品では、なんだかんだ一生懸命でそれでいてどこか不器用な人達を描いていきたい、と思ってます。今作のメイン二人のお話も、傍目に見たらしょうもないことでも本人たちにとってはとんでもなく重大な問題だったと思うので……。不器用なりに悩んで考えて行動してまた悩んで考えて、自分も一緒に考えて、いつも悩んでいます」

――また、本作は以前制作された「河童大一番」を大幅に改稿された作品です。一度完成した作品をリメイクするうえで意識した点や、苦労した部分があれば教えてください。

「描きたいことが多すぎて、物語を整えるうえで削らざるを得なかった要素が多数発生したことは、制作する中で苦労したことです。ただ、リメイクではあるけれどテンションとしては『完全版を出すんだ』といった感じだったので、終始全く新しい、別物の作品の制作をしている気持ちで描き上げられたかなとは思います。あと、学校を描くのが大変でした」

――本作で特にお気に入りのシーンを選ぶとするならどこでしょうか?

「大一番が終わり、阿蘇君を訪ねて鳥取砂丘に来た先輩が『一緒にお昼寝しよう』と言い持参した枕に寝転ぶシーンです。困惑する阿蘇君を傍目に、ノリノリで頭から枕にダイブする先輩の表情が個人的に見どころです」

――今後の創作での目標や、描いてみたい作品について教えてください。

「現在は主に年4回開催の『東京コミティア』(※自主制作漫画誌の展示即売会)での発表をメインに創作活動を行っているのですが、並行して進めている商業媒体掲載へのアプローチも積極的に行っていければと考えています。河童の漫画を2作描いたので、今度は“天狗”の漫画を描いて、夏の終わり頃に発表するなどしたいです」

取材協力:両棲類(@yamakei221B)

告白を懸けた相撲。河童の先輩と不器用な後輩の“大一番”を描く創作漫画「河童大一番・改」/両棲類(@yamakei221B)