音楽とSNS、今のバンドマンはやることが2倍になった

【きっかけは「ホストのお兄ちゃん」──新しい“バンドらしさ”を切り開くYENMAの覚悟の画像・動画をすべて見る】

こう話すのは、TikTokを中心に活動しているロックバンド・YENMA(エンマ)だ。




10代のロックフェス閃光ライオット2014ファイナルまで出場し、その音楽性で話題を集めたCharlesチャールズ)が一時解散。2018年に再結成してバンド名を改名したのがYENMAだ。2023年3月にはボーカル&ギターの池田光さん、キーボード&ボーカルの深澤希実さん、ドラムコーラス山本武尊さんによる新体制のもと再始動を果たした。

再始動後、メンバーが中心となってTikTokコンテンツを作成し始めた。現在は中高生のファンが増加しているという。

@yenma.jp♬ オリジナル楽曲 - YENMA(エンマ)


しかし、なぜロックバンドなのに活動エリアがTikTokなのか。それは、メンバーの深澤さんがフォロワー数12万人超のTikTokアカウント「ホストのお兄ちゃんと妹」を運営していることが大きく影響していた。

@puripuripurie お兄ちゃんの200万勝手に使ってみた!!喜んでくれるかな? #プリエ兄妹 #ロレックス #ドッキリ ♬ オリジナル楽曲 - プリエ兄妹 - ホストのお兄ちゃんと妹


「人にファンがつくことで、音楽にもファンがつく」と捉えている彼らの、新しいバンド活動スタイルに迫る。流行の発生源がSNSとなってきた今、バンドの在り方はどのように変化しているのだろうか──。



音楽のルーツはバラバラ…3人がYENMAになるまで



──まずは皆さんの音楽のルーツを教えてください。いつ音楽に触れ始めて、どんな音楽が好きで、何をキッカケに音楽を始めたんですか?

山本武尊 小学5年生の時に自分から意識して聴き始めた音楽のジャンルはヒップホップでした。当時アメリカに住んでいて、流行っていたのがヒップホップだったんです。特にギャングスタ系が流行っていたから、50セントをよく聴いていましたね。

バンド系の音楽を本格的に聴き始めたのはバンドを始めてから。日本に戻ってきて高校に入学するタイミングで「楽器をやっていたらカッコいいよね」という単純な理由でバンドを始めて(笑)

ドラムを選んだのは、父親が趣味でドラムをやっていて家にドラムパッドがあったからなのと、ドラマーってカッコいいなというこれまた単純な理由でした(笑)。

池田光 僕は小さい頃から父親のカーステレオで、チューリップユーミン松任谷由実)さんなどを聴いていたので、知らないうちにザ・昭和歌謡曲が体に染みついていました。自分から意識して音楽を聴くようになった時に好きだったのはコブクロですね。

あと、人の影響で洋楽を聴くようになって、ビートルズマルーン5ブルーノ・マーズなど王道ど真ん中の洋楽を聴いていたのですが、中でも一番ハマったのがボン・ジョヴィ。狂ったように聴いていて(笑)、ボン・ジョヴィのギタリストであるリッチー・サンボラに憧れてギターを買ったのがバンドを始めたキッカケです。

深澤希実 小さい頃から母親がクラシック・ピアノの先生だったので、ずっとクラシック・ピアノを習っていました。ただ、自分のルーツの中で一番大きいのはBUMP OF CHICKENです。藤くん(Vo&Gt.藤原基央)が初恋で(笑)、小学6年生から高校3年生までBUMPしか聴かないくらいずっと聴いていました。大学でジャズ・ピアノをやり始めてからは、ジャズも聴くようになりました。

──だいぶ音楽のルーツがバラバラなんですね。そんな3人がYENMAとして集まったのは?

山本武尊 みんな光(ボーカル&ギター)の知り合いなんです。

池田光 僕と武尊は高校時代に留学していて、その留学団体で知り合いました。自己紹介でお互いバンドをやっていると知って絡むようになって、話してみると2人ともレッチリレッド・ホット・チリ・ペッパーズ)が好きだとわかって意気投合して。それでスタジオに入って仲良くなりました。

山本武尊 高校の時は同じバンドをやっていたわけではなかったんですけど、一緒にスタジオに入っていたんだよね。光とバンドを組んだのは大学時代で、それがYENMAの前身となるバンドでした。

池田光 希実は共通の友人がいたんだよね。

深澤希実 私の大学の友達が、光の高校の友達で。その頃私が所属していたバンドと光たちのバンドとで対バンすることになったんだけど、その時は一言もしゃべらず会釈をする程度でしたね(笑)。

池田光 そう(笑)。ライブに呼んでもらった時に希実がいて、ピアノを弾いている姿がすごく楽しそうで印象的だったんです。だから、YENMAにキーボディストを入れたいとなった時に、僕が「希実を入れたい」と提案してスタジオに連れてきたらメンバーと意気投合した感じです。

深澤希実 私が加入した時、武尊はサポートドラムだったよね?

山本武尊 うん。Charles(前身のバンド)からYENMAとして再始動するタイミングはサポートドラムだった。もう5年前くらいのことですね。

──なぜ、サポートドラムだったんですか?

山本武尊 会社員とバンドを両立していて、当時は栃木の工場で昼勤・夜勤のシフト制で働いていたんです。週末に東京へ戻ってきてバンド活動をしていたんですけど、その生活が頭おかしくなりそうなくらい大変で……。バンドを辞めようかとも考えて光に相談したこともありました。そのタイミングで一時サポートドラムに。

でも、バンドを辞めずに働けるように現職のベンチャー企業に転職してから、上手くバランスが取れるようになったので、YENMAが始動するタイミングではバンドメンバーに戻りました。



──両立は大変じゃないですか?

池田&深澤希実 絶対に大変だと思う!

山本武尊 あはは(笑)。でも、2人に予定を合わせてもらっていて、土日と平日の夜にバンド練習、ライブも土日だったから、そこまで大変じゃないんですよ。会社もバンド活動を応援してくれているから、融通も利きますし。この取材も、会社帰りです(笑)。

深澤希実 たしかにすごく素敵な会社で、私たちも会わせてもらったことがあるんですよ。武尊の会社から「YENMAで海外に行かない?」と提案してもらっていて。

山本武尊 海外支社の人がバンド活動しているのを知ってくれていて、向こうのミュージシャンを紹介してくれたり、海外ツアーを組めるか打ち合わせをしてくれたり。すごく協力的なんです。

TikTokフォロワー12万人超、バンド活動に与えた影響

──今、TikTokも積極的に活用されています。何かキッカケが?

池田光 希実がTikTokで結果を出していて、SNSに希望を見出したことが大きいですね。音楽をつくるだけではなく、SNSを含めて音楽以外のところでもいろいろチャレンジしていかないといけないと思うようになりました。

──深澤さんのTikTokアカウント「ホストのお兄ちゃんと妹」は、フォロワー数12万人超とすごい数字ですよね……! 実兄でホストのお兄さんと、妹である深澤さんの兄妹アカウントとして人気を博しています。始めた経緯は?

@puripuripurie ホストのお兄ちゃんの副業とは…?#プリエ兄妹 #ドッキリ #メルカリ ♬ オリジナル楽曲 - ホストのお兄ちゃんと妹


深澤希実 4年付き合って同棲もしていた彼氏と別れて住んでいた家を出ることになったのですが、その時お金が全くなくて……しかも元カレが飼い始めた猫を私が引き取ることになり、1人暮らしで猫2匹と暮らすのはやばいなと。そこで兄に一緒に住むことを提案したら、まあ断られたんですよ(笑)。

諦めて住む部屋を探し始めて、ようやく決まりそうなタイミングになって兄から「俺が家賃と生活費を全部出すから、今やっている仕事を全部辞めてTikTokやらん?」と連絡があって。それで兄の家の近くに引越して、TikTokの企画を兄と一緒に考え、生活費を工面してもらう代わりに一心不乱に動画をつくる生活が始まりました(笑)。ちなみに、今はちゃんと自立できました!

池田光 何回聞いてもすごい話だよね(笑)。

深澤希実 最初にメンバーに相談したら、特に武尊は心配してくれて。「貯金はちゃんとしておいた方がいいよ」と言われました(笑)。

山本武尊 言いましたね(笑)。

──TikTokがバンド活動に活かされていると感じることはありますか?

深澤希実 現時点では、TikTokを経由してライブに来てくれる人がチラホラいる、くらいですね。それも数十人もいるわけではないから、ここからどうやってバンドに還元していくかが今後の課題だなと思っています。

そもそもTikTokを始めた目的は個人の知名度を上げたくて、まずは人を好きになってもらいたいんですね。ただ、「ホストのお兄ちゃんと妹」は兄をフォーカスしたアカウントではあるので、一度私のバンド活動をネタにした動画をアップしたら、明らかに再生数が伸びなくて……。今はまだ求められていないと感じたので、まずはフォロワー数をとにかく増やしていこうと考えています。

池田光 僕らの方ではTikTokで「ひかるたける」というアカウントをつくっていて、全面的に希実がサポートしてくれているので助かっています。

@hikaru.takeru バンドメンバーに怖すぎるドッキリ仕掛けてみた #ひかるとたける #ドッキリ #ホラー #YENMA ♬ オリジナル楽曲 - ひかるとたける


深澤希実 このアカウントも、コンセプトは人として好きになってもらうこと。だから光と武尊にスポットをあてた企画を発信しています。

池田光 希実はTikTokユーザーの傾向も僕らより知っているから、TikTokでバズりそうな曲を考えてもらっているところです。

──TikTokでバズる楽曲ってどんな傾向があると感じますか?

深澤希実 少し前から、女の子の気持ちを歌う楽曲がトップチャートに入ってきやすいと感じています。『可愛くてごめん』とかですね。TikTokをやっていていろいろわかることは多いので、吸収できることは全部吸収したいと思っています。

兄からも、TikTokユーザーの女子たちの心情が描かれている書籍をオススメされて。『好きとか遊びとか本気とか浮気とか駆け引きとか、もうどうでもいいから愛してくれ』という本なのですが、その話をしたら武尊はすぐに買っていました(笑)。

山本武尊 ですね(笑)。

池田光 武尊が読み終わったので、今は僕が借りて読んでいるのですが、飲み屋で直接話をされている気分になるくらい、生々しくてリアルなんですよ……。今の若い女の子の感覚を勉強するのにすごく役立っています。

なので、僕らも女性に刺さる楽曲づくりにトライしている期間で、僕がメロを書いて、希実が歌詞を書くという新たな試みをしています。

深澤希実 TikTokのメインユーザーである10代の女の子たちに響く歌詞を考えるのって、めっちゃ難しいんですよ。『可愛くてごめん』とか天才だなと思っています。

──TikTokをはじめとしたSNSをかなり意識して楽曲制作をされているんですね。

池田光 SNSでどういう曲が流行っているかは、常にメンバーみんな意識しています。頭サビにしようとか、なるべくイントロは短めにしようとか、曲開始1分以内に必ずサビを持ってくる、とか。バンドでSNSを意識しすぎると色物のように見られるかもしれないけど、僕らとしてはやったもん勝ちだと思っています



バンドマンをやっているだけでは売れない時代

──近年は、スマホ上での聴き映えを確保するために、音数少なめ&超低音のアレンジメントが世界的に流行っていますよね。バンド音楽的には逆行していると思うのですが、そこに対抗していくために考えていることがあれば教えてください。

池田光 たしかにグローバル的には、カントリー系のリズム隊が出てこない音数の少ない楽曲がすごく流行っていますよね。だけど、日本人に聴き馴染みの良い楽曲とイコールかと考えると、必ずしもそうじゃないと思っていて。

日本人はわかりやすいサビ、聴き取りやすいリズムが好きな人が多いから、バンドの形でも通用していけるのではないかと僕は思っています。メンバーと話し合いながら、今の流行を踏まえつつ、いろいろアレンジしています。



山本武尊 俺は、世界のトレンドには対抗せずに取り入れられればいいなと思っていて。超低音でいうと最近はバスドラの役割をシンセベースでやっている楽曲も多いですけど、アタック感やパッドの取り方が気持ち良いんですよね。だから、バスドラの音程をいじれるように打ち込みにしてみる。

そうやってできることはいろいろ挑戦してみようと。ライブで再現できるかは一旦置いておいて、インパクトのある楽曲をつくるために何をすべきかは、デモの段階でよく話し合っています。

深澤希実 武尊の言うように、バンドサウンドじゃないから流行りを取り入れない、という選択肢はないですね。何でもトライできるならトライしていきたい。

それに流行りのアレンジを取り入れたとしても、光のつくるメロってすごくストレートでキャッチーでわかりやすいから、光が書けば“YENMAっぽい曲”に絶対なるんですよ。だからこそ、私たちもアレンジでいろいろチャレンジできるというのはあります。

山本武尊 本当にそう。光のつくるメロはキャッチーでサビが強いから、それに乗っかって自由につくれる。

池田光 当たり前ですけど、武尊はドラム、希実は鍵盤の知識やスキルが僕より圧倒的にあるから、デモの段階で全振りして任せたいくらい信頼しているのは大きくて。曲づくりにおいても、僕が決め切るのではなく、どんどん2人流にアレンジしてもらえたらなと思っています。

例えば、昨年リリースした「ロン・ロン・ロマンス」では初めてEDMの要素を取り入れたのですが、これは武尊がEDM好きでずっとやってみたいと言っていたから。実際につくってみたらいい感じに仕上がったんですよ。この楽曲がキッカケで、メンバーみんなでもっと流行りの楽曲をどうバンドに取り入れていくかを考えるようになりました。




──お話をうかがっていると、“バンドだから”と縛られずに変化を受け入れている印象を強く受けます。楽曲制作以外の部分で、これまでのバンドのあり方から変化していることはありますか?

深澤希実 バンドマンがバンドをやっているだけでは売れない時代になったと思います。若い子はテレビで地上波を見ずにスマホでYouTubeを見ていて、SNSの普及で芸能人という枠がなくなってきた。むしろ、メディアで宣伝してもらわなくても、SNSでお金をかけずに誰でも宣伝ができてしまう。

そんな時代なので、バンドマンだからと曲だけつくって宣伝はメディアに頼りきりではダメだなって。音楽だけで売れる人ももちろんいますけど、私は音楽だけで売れていく才能はないから、TikTokを使って個人の知名度を上げる方向に舵を切ったんです。

池田光 希実が言うように、音楽も頑張りつつTikTokを含めたSNSで知名度を上げる活動も同じくらい頑張っていかないと取り残されちゃうんだろうなと、ここ1年ですごく感じています。

それってシンプルにやることが2倍になるので大変ではあるのですが、楽曲を聴いてもらうためにも楽曲制作以外の部分に力を入れていく。それはバンドのあり方の変化なのかなと思っています。

深澤希実 TikTokで曲がバズっても誰が歌っているかわからないこともあるみたいで。曲は知っているのにアーティストは知らないという人も多いんですよ。逆に考えると個人の知名度を上げて好きになってもらえたら曲も聴いてもらえると思うので、そこは意識し始めた変化ですね。




──逆に、変わらずにある“バンドだからこその良さ”ってどういうところに感じますか?

深澤希実 1人よりも人数が多くなる分だけアイデアが増えるのは、やっぱり強い!

池田光 その通り。曲のデモをつくっているのは僕だけど、2人に助けられることばかり。

山本武尊 個人的には、バンドのステージが面白い。生楽器の演奏ってステージ映えすると思うんですよ。

深澤希実 それは本当にそうだよね!

池田光 バンドはドラムの振動とか感じられるから、ライブ感という意味でも生楽器の演奏ってかなり大きいなと思いますね。

ぼっち・ざ・ろっく!』ブーム、影響は?



──それでいうと、オンラインで何でも見られる時代でありながら、オフラインのライブの価値ってどこにあるのでしょうか。

池田光 今言ったようなライブでしか体感できない音や振動、熱気があると思っていて、オフラインでは体験できないことなんですよ。ただそれって、ライブに来てくれた人にしかわからないので、まずはライブに足を運んでもらって体感してほしいなと思っています。来たら確実に生のライブの良さがわかるから。

山本武尊 特に俺らがライブをするような小さいライブハウスって音圧がかなり強いから、イヤホンで聴いている音と全く違う印象を受けると思うんですよね。TikTokユーザーとかまずは音楽を楽しみたい人たちに、ライブハウスでの生演奏を体感してもらってビックリしてほしい(笑)。

深澤希実 たしかにTikTokを見ている人って、超有名なアーティストのライブなら行ったことはあるけど、いわゆるインディーバンドのライブに行ったことない人も多いと思う。ライブハウスに来る子たちってライブキッズみたいな常連者の人たちばかりで、それ以外はライブハウスを怖いと思っている人たちが多い印象がありますね。

池田光 たしかに、SNSで「ライブハウスって1人で行ってもいいんですか?」と質問が来たことはありますね。そのたびに「友達とか誘って来てくれ!」と言っています。

深澤希実 そういう怖いイメージを崩していきたいよね。

──一方で最近、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の影響で、聖地である下北沢が音楽ファンとは別の層でにわかに賑わっていますね。

深澤希実 『ぼっち・ざ・ろっく!』、私も観ていました!

山本武尊 「『ぼっち・ざ・ろっく!』観た?」は俺も聞かれたな。『チェンソーマン』の影響で「KICK BACK」叩ける? とか。

池田光 アニメで火がつくことも多いもんね。

山本武尊 10FEETも、映画『スラダン』(『THE FIRST SLAM DUNK』)の影響でまた別の層にも火が点きましたよね。

池田光 それこそ『推しの子』の主題歌の「アイドル」は、グローバルランキングで最近ずっと1位で。あとは、コナンの主題歌であるスピッツの「美しい鰭」がグローバルランキングにいるので、アニメのパワーはすごいなって思いますね

深澤希実 私は音楽系だと『パリピ孔明』が好きでしたね。号泣しました(笑)。

──アニメによるバンドブームという意味だと、皆さんの世代的には2009年放送の『けいおん!』もどストレートだったのではないでしょうか?

深澤希実 『けいおん!』も大好きです! 当時軽音部でみんな演奏していましたよね。ゆいちゃんの声真似を、ひたすら家で1人で練習していました(笑)。

池田光 『けいおん!』の曲はカバーしたな。わかりやすい派手なギターで楽しかったですね。

深澤希実  『ぼっち・ざ・ろっく!』もそれくらいの盛り上がりらしいですが、ブームが来てから私たちあんまりライブができていないんですよ。実際どうなんだろうね?

池田光 聖地巡礼下北沢に来る若い人たちはたしかに多いみたい。その一環で、ライブハウスにも行ってみようと思う人が現れてもおかしくないよね。

山本武尊 そうだよね。聖地巡礼ついでに俺らのライブにも足を運んでほしい(笑)。ライブハウス初体験を奪いたいですね!

深澤希実 飲み会に行くくらいの値段で楽しめるからね!

池田光 本当にお酒も飲めますよ!



ライブハウスは怖い」のイメージを崩したい



──それこそ、7月1日(土)には下北沢ReGでYENMAがワンマンライブ「閻魔祭」を開催します。どんなライブになる予定ですか?

深澤希実 1秒1秒を無駄にしない、TikTokに上がっている動画みたいな……笑いあり、涙あり、感情を揺さぶるジェットコースターのようなライブをつくりたいと思っています。いい意味で情緒不安定にさせるようなセットリスト、演出にこだわりたい。

山本武尊 いつもすごくこだわっているけど、今回はより照明からライブアレンジまでこだわっていきたいよね。

深澤希実 音源と全く違う印象を与えられるように、ライブアレンジはすごく考えています。

正直、ワンマンライブってすごく好きなアーティストでもない限り、飽きちゃうと思うんですよ。「足痛いな……」「トイレ行きたいな……」「まだ終わらないのかな……」「アンコール2曲もあるんだ……」とか、思われないようにしたくて(笑)!

山本武尊 そこは謙虚でいたいよね。どんなに好きでも、工夫しないと飽きを感じさせることもあるから。

深澤希実 そう。だから曲だけではなく、曲と曲の間にも意味を持たせる。「あっという間に終わったね」と思ってもらえるように工夫していこうと思っています。

池田光 ほかのバンドがやっていないようなワンマンライブ、「バンドがそれをライブでやっちゃうの!?」みたいなことをやりたいと、今考えているところです。

セットリストは、絶賛話し合い中で、今いろんな新しい曲をつくっているので、どれを持って行こうかなと考えています。

深澤希実 光のつくる曲がレベルアップしているから、何を演奏するか迷っちゃうよね……。

山本武尊 俺は服を脱ぎます!

一同 わははは(笑)。



深澤希実 あ、あとYouTubeの撮影も入ります! いろいろ隠し玉を用意しているので、楽しみにしていただきたいです(笑)。あとは、カッコつけたくないですね。

山本武尊 え、俺はカッコ良くありたい(笑)。

池田光&深澤希実 え、服脱いでいるのに?(笑)

──(笑)。来場者の皆さんも撮影はOKですか?

深澤希実 もちろん大丈夫です! 撮影した動画はSNSにアップしていただいて構いません!

池田光 拡散してくれるなら、どんどん撮影してほしいですね。

深澤希実 「何このバンド」と広まってくれたらいいなと思っています。ライブを見てYENMAはもちろん、私たち一人ひとりを好きになってもらえたら嬉しい。そこから私たちに価値を感じてもらえたら、さらに次のライブに来てもらえると考えているので。

池田光 一見バンドとしては色物のように感じるかもしれないけど、音楽を聴いてもらった時に「うわ、めっちゃしっかり音楽やっているじゃん!」と思わせられれば勝ちだと思っているんですよ。

山本武尊 そうそう。見てくれた人たちに「YENMAってバンドっぽくないことをやっているけど、ライブは意外とロックなんだ!」と覚えてもらえたら成功かなと思っています。

手段を選ばず、知名度を上げていきたい



──ここまでお話を聞いていると、とにかく「人を好きになってもらうこと」にこだわりを持たれていると感じました。「個人」を意識する時代になった理由を考えたことはありますか?

深澤希実 それこそSNSの普及は大きく影響していると思います。これまではテレビや雑誌などのメディアを介してじゃないと芸能人と接することができなかったじゃないですか。それが今は、Twitterで気軽にコメントが送れたりインスタライブでコメントを読んでもらったり、何かを介さなくても直接コミュニケーションが取れてしまうようになった。

距離が近くなって身近に感じられることが普通になってきたからこそ、より「個人」を意識するようになったんじゃないかなと。

池田光 YouTubeもですけど、プライベートが透けて見えるような発信をする人も増えているじゃないですか。人となりがわかるようになったからこそ、より好きになったりファンになったりしていると思っています。

山本武尊 俺は、情報が飽和していて、判断基準が物ではなく人になったことが大きいのかなと思っています。SNSで誰でも発信できるようになったから、本、音楽、映像などコンテンツが溢れかえっているんですよね。

さらに、これまでは見栄えの良さを判断基準にできたけど、今はある程度クオリティの高いコンテンツがいくらでも溢れている。そうなると“誰がつくっているか”“誰がオススメしているか”を判断基準にするしかなくて、結果個人を意識する時代になったのかなって。

深澤希実 それだね……! コンテンツだけじゃなくて、いろんなコスメの商品がある中で何を使えばいいかわからないとなった時に、自分の好きな人が推しているものを信じて買う人も多いですし。

情報が多いからこそ、「その人が好きだから私も好き」「この人が使っているから私もほしい」「この人が出した商品だから買う」と、人に依存されていくのは確実にありますね。



──“人”自体がこれまで以上に求められる時代。そんな時代の中で、今後のYENMAとして掲げる活動目標はありますか?

深澤希実 2018年にYENMAとして活動を始めてから4年間は「とにかく曲を聴いてほしい!」とアーティストとしてのプライドを持って活動してきたけど、そもそも知ってもらえなければまるで意味がないと気づいたんですよ。いくらいい曲ができても、再生してもらえなければ意味がないなって。

だから、笑われても、バカにされても、「お前ら色物になっちまったな」と言われても、私は私のやり方でYENMAを知っている人の母数を増やすために、手段を選ばずとにかくいろんなことにトライしていこうと思っています

もちろん、バンドマンらしいバンドマンへの憧れは今もありますよ。私たちの性格や顔が好きで埋まったライブ会場と、歌詞や演奏が好きで埋まったライブ会場では、見える景色は確実に違う。ぶっちゃけると、後者の景色の方が見たいですよ。だけど、そこにこだわっていても食べていけない。前者の景色でもいいから、まずはライブ会場を埋めることを考えようと。

池田光 見える景色は違うかもしれないけど、顔や性格からファンになってくれた人たちでも僕らの曲を好きになってくれるとは思うんですよ。今一番の活動目標は好きになって聴いてもらうことなので、音楽はもちろんSNSを含め、これまでの2倍努力していかないといけないと思っています。

深澤希実 そうだね。そしていつかはアリーナツアーをやりたい!




山本武尊 俺は音楽のルーツが海外だからかもしれないけど、海外ツアーに行きたいですね。アメリカ、南米、ヨーロッパ……いろんな国に行って刺激を受けたいし、いろんな人たちと繋がりたい。それが巡り巡って音楽にも影響を与えてくれると思うんですよ。

池田光 バンド名のYENMAって武尊のアイデアで決まったんですけど、YENMAの“YEN”は「日本を背負って海外でも活動したい」という意味が込められているんですよ。だから、海外にはめちゃくちゃ行きたいですね。あと僕個人は、SNS時代であっても、「紅白」とか「Mステ」とか、TVの音楽番組にもめちゃめちゃ出たいです(笑)。それを親に見せたいですね。
きっかけは「ホストのお兄ちゃん」──新しい“バンドらしさ”を切り開くYENMAの覚悟