わずか4カ月前に焼酎の値上げを「阻止」したばかりの韓国の経済副首相が、今度はラーメン価格を引き下げさせた。

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 物価との戦いを評価する声が上がる一方で、「政府がどこまで介入するのか。次は何か?」と食品業界は戦々恐々だ。

 インスタントラーメンの価格に切り込んだのは今度も秋慶鎬(チュ・ギュホ=1960年生)副首相兼企画財政部長官だった。

小麦価格は半分になった

 2023年6月18日の日曜日朝、KBSの時事番組に出演して経済全般について話をした。この中で、物価動向について話しながらラーメンについて触れたのだ。

「ラーメンメーカーは、2022年9~10月に価格を大幅に引き上げた。いまは(主原料である)小麦の国際価格が当時と比べて50%くらい下がった」

「各社ともに、これに合わせて適切に値下げするべきではないのか」

 これ以上露骨な言い方があるのかというほどの直球発言だった。

 小麦の国際価格が1年前に比べて大幅に下がったのは確かだ。ラーメン各社は、2022年秋に価格を10%以上引き上げたが、その理由の一つが「小麦価格」だった。

 国際価格が戻ったのだから値下げしろという話だ。

 理屈はきわめて分かりやすいが、経済副首相が、わざわざ「ラーメン」を例に挙げたのは、なぜか。

 それだけ一般消費者の関心が高い品目だからだ。

朝昼夕、コンビニでもラーメン

 世界ラーメン協会(WIRA)という団体がまとめたインスタントラーメンの消費統計によると、2022年の韓国のラーメン消費量は39億5000万個。

 だいたいここ数年の消費量は38億個から40億個くらいで推移している。人口がざっと5000万人だから、相当な消費量だ。

 本当にラーメン好きだ。

 以前、韓国人10人くらいと東南アジア旅行に行ったことがある。

 幹事役の2人が、仁川(インチョン)空港でのチェックインの際、大きな段ボールを預けたから何かと思っていたら、大量の辛ラーメンだった。

 旅行先でみんな朝から食べていたのにはびっくりした。

 ソウル市内でも、朝昼夕、さらに深夜時間帯までコンビニでラーメンを食べている姿をよく見かける。

 大型スーパーに行くと、「業務用じゃないの?」というほど大量の包装のラーメンが積み上げてある。

 消費量は世界8位だという。ちなみに最大の消費国は中国で450億7000万個、日本は5位で59億8000万個だった。

 国民食といってもよい大型商品だ。

政府の執拗な「圧」

 では、メーカー側はすぐに「屈服」したのか?

 最初は、いろいろな理由をつけて難色を示していた。韓国の大手紙記者が話す。

「ラーメンメーカーには取材が殺到したが、すぐには、はい分かりましたとはならなかった」

「小麦の国際価格は下がったかもしれないが、韓国内の小麦粉価格はすぐに下がっていない。人件費、物流費などもかなり上昇しており、値下げは難しいと説明していた」

 だが、「抵抗」は長続きしなかった。

 メディアが連日のように副首相発言を引き合いに出して、「なぜ値下げしないのか」「いつ値下げするのか」などと報じ続けた。

 韓国政府の動きも周到だった。韓国農林畜産食品部が、小麦粉メーカ―幹部を呼んで「懇談会」を開催したのだ。

 小麦の国際価格が下がってもラーメン価格が下がらない理由の一つが小麦粉価格にあるということなら、小麦粉メーカーから攻略する。

 こう考えたのだろう。

 6月26日の懇談会で大手小麦粉メーカーが、実質的な値下げを表明した。これではもうラーメンメーカーも粘れない。

辛ラーメン、4.5%値下げ

 農心は6月27日、出荷価格を7月1日から4.5%引き下げると発表した。

 1個1000ウォン(1円=9ウォン)である「辛ラーメン」の価格が50ウォンほど下がる。

 大手ネット販売では、1個あたり750ウォン前後で販売中だが、これもいくらかは下がる見通しだ。

 同業他社も値下げを発表しており、副首相発言から9日目にしてラーメンメーカーが値下げに踏み切ることを明らかにした。

 インスタントラーメンの値下げは13年ぶりだという。この時も同じような経緯だった。

 穀物価格の急騰でラーメン価格が2008年に大幅に上がったが、国際市況が落ち着いてもラーメン価格は下がらなかった。

 これを当時の政権与党幹部が批判して、これを機に値下げが実現した。ラーメンは、国民食であり政治も政府も大きな関心を持っているのだ。

「値下げ幅は値上げ分の半分以下にすぎないではないか」という批判もあるが、メーカーにとって値下げは大きな決断だったはずだ。

2月には焼酎値上げを抑え込む

 秋慶鎬副首相にとっては、「物価」で辣腕を発揮したのは初めてではない。

 2023年2月、焼酎メーカーが近く値上げに踏み切るという報道が相次いでいた最中に、国会答弁で焼酎や酒類の価格状況に大きな関心を持っていることを明らかにし、実態調査に着手するように指示した。

 これで値上げの動きはぴたりと止まった。

 焼酎もラーメンも庶民経済にとって重要な品目ではある。それでも、ここまで政府が前面に出て来るというのは、「物価」によほど神経を使っていることの表れだ。

 韓国の消費者物価指数は2023年5月に前年同月比3.3%増となった。

 2022年6月に上昇率が6%台に上昇し、その後も2023年1月まで5%台が続いたが、ようやく4%台、3%台となり6月は2%になるとの見方も一部にはある。

 しかし、外食料金の値上げは続いている。エネルーギや交通料金の値上げもさらに続く見通しだ。

 2023年の経済成長率が1%台前半にとどまるとの見方が強まっている中で、物価対策のための利上げもだんだん難しくなってきた。

 そんな中で出てきたラーメン価格に対する副首相の「口先介入」だが、3度目もありなのか。

物価が上昇したら賃上げをという風潮?

 韓国紙デスクはこう話す。

「政府による商品価格の介入との批判があることも十分理解している。それでも、大幅値上げをして、状況が変わったのに後は知らないという業界や品目があれば、今後も指摘するはずだ」

「次はどの品目か」というメディアの報道に、菓子など他の食品メーカーは警戒感を強めている。

 そもそも、これだけ市民団体の声が大きく、メディアの影響力も強い韓国なのに、副首相発言まで大きな論点とは言えなかった。

 消費者も意外なほど価格に声を上げない。どうしてなのだろうか。

 この点を大企業役員に聞いたらこんな答えが返ってきた。

「韓国では、物価高への不満が商品価格の値下げ要求に回るより、物価が上昇したのだから賃上げしろという要求に回る傾向が強い」

 確かにそうかもしれない。賃上げについては、強いこだわりと要求がある。

 経済副首相の発言は、過度な賃上げ要求に対する牽制という意味もあるのかもしれない。

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