2300万年前から360万年前。古代の海で頂点の座にあった史上最大のサメ「メガロドン」は、魚でありながら、温血動物(恒温動物)だった可能性があるという。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校をはじめとする研究チームが、メガロドンの歯の成分を分析したところ、この巨大ザメは周囲の水温よりも7度体温を高く保てただろうことがわかったのだ。
この体温維持機能は、メガロドンが頂点捕食者として世界中に広まるうえで、頼もしい武器になった。
ところが皮肉なことに、時代が変わるとそれが弱点となり、彼らが絶滅する一因になったとも考えられるそうだ。
絶滅種「メガロドン(Otodus megalodon)」は、約2300万~360万年前の前期中新世から鮮新世にかけて生息していた史上最大のサメだ。
ネズミザメ科に分類されるが、同じグループに分類される現代最大のサメ「ホホジロザメ」の約3倍も大きいとされている。
その巨大さは驚くべきもので、体長は15メートルにも達し(諸説あり)、もしその時代にシャチが存在していたのなら、ほんの数口で平らげることができた可能性がある。
メガロドンはその巨大さによって、まさに海の王者として君臨し、ほかの生物を圧倒していたのである。
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360万年前に絶滅したメガロドン / image credit:Alex Boersma/PNAS
ネズミザメ科の体温維持機能はメガロドンにもあったのか?
メガロドンがサメということは、魚であるということだ。
ほとんどの魚は「冷血動物(変温動物)」だ。つまり周囲の温度によって体温が左右される。だから多くの魚の体温は、そのとき泳いでいる水の温度と同じだ。
ところが、ネズミザメは周囲の水よりもいくらか体温を高く保つことができる。体温が代謝によって生じる熱によって維持されているからだ。その意味で「温血動物(恒温動物)」なのだという。
ただし、哺乳類や鳥類ほど体温を調節する機能は高くない。そもそも体温を維持する仕組みが違うからだ。
私たちの体温が一定に保たれているのは、脳の「視床下部」と呼ばれる部位がそれを調節しているからだ。
一方、ネズミザメでは筋肉で生じた熱が逃げにくいような体の構造をしている。そのおかげで、水温よりも高く体温を保つことができる。
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では、同じネズミザメであるメガロドンもまた温血動物だったのだろうか? 今回の研究によれば、そう分類していいほどの体温維持機能があったようなのだ。
歯の同位体でメガロドンの体温を調べる
メガロドンが温血動物だったらしいことをほのめかす証拠はいろいろある。
だが、その決定的な証拠はない。というのも体温を維持する秘訣である構造(軟組織)はすぐに腐ってしまい、現代まで残らないからだ。
そこで今回の研究チームは、化石として残されているメガロドンの歯に注目した。
歯の主成分は「アパタイト」という水酸燐灰石で、そこには炭素原子と酸素原子が含まれている。どの原子でも言えることだが、これらの原子には同じ種類なのに”重さ"が違う「同位体」というものがある。
歯にどの同位体がどれだけ含まれているかは、周囲の環境や食べていたものによって左右される。
そしてメガロドンの研究者にとっては都合がいいことに、それは体温によっても影響を受ける。だから炭素原子と酸素原子の同位体を体温計として利用できるのだ。
メガロドンも体温を保つことができる温血動物だった可能性
とは言っても、ネズミザメには哺乳類や鳥類ほど強力な体温維持機能があるわけではない。
水温よりほんの少し体温を高くできるだけだ。だから体温の影響は、同位体にそれほど強くは残らない。
そこで研究チームは、メガロドンと同じ時代に生きていたほかのサメの同位体と比べてみることにした。
もしもほかのサメよりメガロドンの体温の方が高かっただろう痕跡があるのなら、それはこの巨大ザメが温血動物だったことを示す強力な証拠になる。
そしてこの分析の結果、世界中から集められたメガロドンの歯はどれも、おそらくは体温を維持できただろうことを告げていたのだ。
それによると、メガロドンは海水よりも7度体温を高く維持することができたと考えられるという。研究チームによれば、メガロドンを恒温動物に分類できる十分な体温維持機能であるという。
体温のせいで絶滅につながった可能性も
こうした体温維持機能は、よりすばやく泳ぎ、冷たい水にも耐えられるなど、メガロドンが頂点捕食者として世界中に広がる手助けをしたと考えられる。
ところが研究チームによると、有利だったはずのこの体温維持機能がかえって仇となり、メガロドンを破滅へと導いた可能性があるようだ。
533万~258万年前の「鮮新世」では、地球全体が冷え、海の生態系が激変した。
メガロドンのように高い体温を維持するためには、たっぷりと食べてエネルギーを補給する必要がある。
だが生態系のバランスが崩れてしまった新しい時代では、これがメガロドンの弱点になったかもしれないのだ。
そんな不利な状況において、メガロドンは時代により適応したホホジロザメのような新参者と競争しなければならなかった。
その戦いの結末は、私たちが知っている通り。現在の地球の海に、かつての王者の姿はもうない。
この研究は『PNAS』(2023年6月26日付)に掲載された。
References:New analysis of tooth minerals confirms megalodon shark was warm-blooded / written by hiroching / edited by / parumo
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