電動キックボードなどのモビリティを免許不要で乗れる新区分「特定原付」の制度開始を前に、その専用ナンバープレートの交付が遅れています。結局“従来のプレート”を交付し、見分けが困難な状況を容認することになりました。

自転車なみの運転車両に、原付バイクを誤認させるナンバーでいいのか!

2023年7月1日施行の道路交通法改正で、電動キックボードなどのモビリティを免許不要で乗れる新区分「特定原付」(特定小型原付)が誕生します。しかし、それに装着する課税標識(ナンバープレート)の準備が、一部の自治体で間に合いません。

松本剛明総務相は「当然交通安全の視点も含めて考えた上で、このような形で実施されている」と話しますが、新しいパーソナルモビリティは、車種区分によって免許の要・不要が異なり、乗り手の知識も、走る場所も、走るルールも違います。混合交通の安全に問題はないのでしょうか。

従来の原動機付自転車が最高速度30km/hであるのに対し、特定原付の最高速度は20km/h。そのわずか10km/hの差で、運転免許の要・不要、自転車専用道の通行、二段階右折方法の違いなど、さまざま交通ルールの違いがあります。

その車両を識別するうえで最も簡単、かつ効果的な方法が専用のナンバープレートの取付けでしたが、前出の通り一部自治体で制度開始に交付が間に合いません。松本剛明総務相は6月27日の閣議後会見で、その準備状況を説明しました。

市区町村ナンバープレートの準備状況について5月9日時点の調査結果では、全市区町村の8割強、人口ベースでいうと約9割の団体において、改正道路交通法等の施行日である7月1日土曜日または翌営業日の7月3日月曜までに交付を開始する予定であると把握をしております」

同省自動車税制企画室は、準備ができていないところは自治体規模の小さいところが中心と話しますが、大都市圏を抱える都道府県でも、次の通り交付の準備は完全ではありません。

●特定原付のナンバープレート交付が間に合う自治体の割合
東京都 90.3%
神奈川県 87.9%
大阪府 90.7%
京都府 80.8%

電動キックボードのように外観では「一般原付」と「特定原付」の見分けが付きにくい車体も、専用のナンバープレートを取り付けることで一目瞭然です。総務省市区町村に示した標準寸法は、電動キックボードの車両の幅にあわせた10×10cmの正方形と、原付ナンバープレートよりもずっと小さく、スクエアなものになります。

特定原付に“従来のナンバープレート”交付!?

専用ナンバープレートの交付が7月1日に間に合わない自治体で、特定原付の課税届出申請をした場合はどうなるのでしょうか。松本氏は言います。

7月4日火曜日以降になるとの回答があった団体については、業者への発注の集中に伴うナンバープレートの納品遅れによるものと聞いておりまして、交付開始までの間は“従来のナンバープレート”を取り付けて走行することとなりますが、走行時の更なる安全性を確保する観点から、早期の交付開始に向けた取り組みを要請しているところでありまして引き続きフォローアップに努めてまいりたい」

ただ、総務省自動車税制企画室は、全国で公布の準備が整うめどについて明らかにしていません。また、特定原付のナンバープレートが間に合わない状態で一般原付と同じサイズのナンバープレートが交付された場合にも、あとから交換するなどの次善策はありません。

総務省が担当するナンバープレートのほかにも、国土交通省が担当する車両上の規格で、車両の前後で認識が可能な緑色の「最高速度表示灯」を装備することや、特定原付であることを示す車体に貼付する「性能等確認シール」でも識別可能なので、ナンバープレートが用意できなくても、それを補う識別方法があるという認識のようです。

しかし、車種の識別は運転する当事者や、違反を指摘する時だけに必要なわけではありません。車両の識別は同じ道路を通行するほかの車両が、事故を防止する予測運転をする上で大きなヒントになります。例えば、右折時、一般原付は中央に寄って右折(※二段階右折不要時)する場合がありますが、特定原付の場合は、すべての右折時で、交差点を直進、左端、左端を二段階右折する必要があります。

加えて、最高速度表示灯についても2024年12月22日まで装備が猶予されています。性能等確認シールは動いている車体を識別できるほど大きくはありません。結局、どの識別方法も中途半端で決定打に欠いています。

自転車並みの運転をする車両に、原付バイクと誤認させるようなナンバープレートの装着を容認することは、すべての運転者のためにならないのではないでしょうか。

同じ電動キックボードに見えても、排気量125cc相当の原付2種クラスもある。ナンバープレートによる識別は重要だ(中島みなみ撮影)。