古代ローマ人が食べていた「ピザの先祖」の姿が鮮やかに蘇ったようです。

イタリア文化省は27日、同国南部ナポリ近郊にあるポンペイ遺跡にて「ピザのような食べ物」を描いた壁画が発見されたと報告しました。

それと一緒に、銀の大皿やワイン入りのゴブレットナツメヤシやザクロのような果物も生き生きとした色彩で描かれています。

この壁画は約2000年前の古代ローマ人がどんな物を食べていたかを鮮明に教えてくれる貴重な発見です。

目次

  • ポンペイ市民が親しんだ「定食メニュー」かも?
  • 現代型のピザはいつ、どこで生まれた?

ポンペイ市民が親しんだ「定食メニュー」かも?

壁画が見つかったポンペイ遺跡は、紀元79年に起きたヴェスヴィオ山の大噴火により壊滅した古代ローマの都市です。

ポンペイの町は一瞬にして火砕流に呑み込まれ、一昼夜にわたって降り続く火山灰の下に埋められました。

これにより大勢の命が失われましたが、皮肉にも火山灰に埋もれたことで町全体がタイムカプセルのように保存され、今日でも新たな発見がつづいています。

古代都市ポンペイの想像図(奥に見えるのがヴェスヴィオ山)
Credit: ja.wikipedia

そして今年1月、ポンペイ考古学公園(Pompeii Archaeological Park)の発掘チームは新たに、ピザのような食べ物が描かれた壁画を見つけたのです。

この画は当時の大きな民家の広間に併設されていたパン屋の壁に発見されました。

ローマ時代のパン屋は人々にパンやその他の焼き菓子を提供する施設であり、ポンペイ市民にとってもパンは重要な主食でした。

ポンペイ遺跡ではこれまでに、オーブンや製粉設備、貯蔵場所を備えたパン屋の跡が数多く見つかっています。

新たに見つかった色鮮やかなフレスコ画
Credit: pompeiisites – Pompeii: a still life discovered by the new excavations of Regio IX(2023)

壁画は2000年近く前に描かれたとは思えないほど、色鮮やかで精巧に保存されていました。

銀の大皿にピザのような食べ物とワイン入りのゴブレット、その他ナツメヤシやザクロのような果物の数々が見られます。

特に目を引くのは現代でも慣れ親しまれているピザにそっくりな食べ物でしょう。

2000年前からピザがあったというのは、それだけで驚く人もいるかもしれませんが、当時はどういう食べ物だったのでしょうか?

研究者によると、この絵画のピザ生地には「モレトゥム」と呼ばれる、ローマ時代に食されていたニンニクハーブ、チーズを混ぜたペーストが乗せられているようです。

これがポンペイ市民に親しまれていた定番メニューだったのかもしれません。

フレスコ画が見つかった発掘現場の全体像
Credit: pompeiisites – Pompeii: a still life discovered by the new excavations of Regio IX(2023)

一方で、発掘チームは「ここに描かれているピザは今日の私たちが知っているピザとは異なるだろう」と指摘します。

というのも現代型のピザの基本として欠かせない「トマト」が使われているはずがないからです。

トマトは新大陸(南米)原産の野菜であり、16世紀に入るまでヨーロッパには存在していませんでした。

よって、画に見られる食べ物は「ピザの古い親戚のようなものだろう」と研究者は述べています。

では、私たちが食べているピザはいつ、どこで生まれたのでしょうか?

現代型のピザはいつ、どこで生まれた?

まず、ピザの土台となる平たいなパン生地の起源は約1万4500年前のヨルダンにまで遡ります。

かつてこの地にあった狩猟採集社会のナトゥーフ文化の遺跡から炭化した平たいパン生地が見つかっているのです。

このパン生地は野生の大麦やオート麦を粉にし、水と混ぜてから熱い石の上や簡易オーブンで焼いたことが分かっています。

これと同じ平たいパンは古代エジプトメソポタミア文明でも確認されており、ピザ生地の原型はかなり古くから存在したようです。

ピザの土台である「平たいパン生地」は大昔から存在した
Credit: canva

それから平たいパン生地に具材をのせる文化が根付いたのは、紀元前4世紀半ばの古代ギリシアと考えられています。

詩人のアルケストラトスが残した詩集『へディパテイア(Hedypatheia =贅沢な生活)』の中に、平たいパンにハーブたまねぎニンニクなどをのせた「ピラコウス(plakous)」という料理の記述が見られるのです。

ここで現代型のピザの形にぐっと近づいたと思われます。

この習慣がのちにイタリアに伝わって食べられるようになったのが、今回見つかったフレスコ画の料理だったのでしょう。

パン屋の壁に見つかった壁画
Credit: pompeiisites – Pompeii: a still life discovered by the new excavations of Regio IX(2023)

ちなみに「ピザ(pizza)」という言葉は、ラテン語で「平らなパン」や「焼いた生地」を意味する「ピンサ(pinsa)」に由来しており、その言葉が初めて文献に登場するのは10世紀後半の南イタリアです。

そしてピザは16世紀にスペイン人が新大陸からトマトを持ち帰ったことがきっかけで、劇的な進化を遂げます。

主に南イタリアナポリでトマトの栽培が始まり、さらに水牛の乳を原料にしたモッツァレラチーズが発明されたことで、現代型のピザがついに産声を上げたのです。

それ以後は、丸い生地にトマトソースとチーズに様々な具材をトッピングしたピザが基本型として世界に広まっていきました。

余談ですが、ナポリピッツァの代表である「マルゲリータ」は、イタリアの王妃マルゲリータ1851〜1926)にちなんで命名されたものです。

イタリア王妃マルゲリータ
Credit: canva, ja.wikipedia

当時ピザは下町の味として庶民を中心に愛されていましたが、王妃は貴族食よりも庶民が食べるピザをこよなく愛していたという。

その中でも、トマトソースの上にモッツァレラチーズとバジルの葉をのせたシンプルなピザを好んでいました。

それが理由で、このレシピが「マルゲリータ」の名で呼ばれるようになったのです。

日本でもピザは大人気であり、11月20日は世界的に「ピザの日」となっていますが、この日付も王妃マルゲリータの誕生日にちなんでいます。

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参考文献

Ancient Pizza Ancestor And Wine Seen In Newly Revealed Painting At Pompeii https://www.iflscience.com/ancient-pizza-ancestor-and-wine-seen-in-newly-revealed-painting-at-pompeii-69533 Archaeologists Excavating In Pompeii Find Ancestral Pizza Revealed in Fresco https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/pompeii-pizza-fresco-0018710 Pompeii: a still life discovered by the new excavations of Regio IX http://pompeiisites.org/en/comunicati/pompeii-a-still-life-discovered-by-the-new-excavations-of-regio-ix/
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