“現代における家族の形”を描いた新作舞台『家族モドキ』。山口祐一郎、浦井健治、大塚千弘、保坂知寿という実力派俳優4人が『オトコ・フタリ』(2020)以来、約3年ぶりに集結した。

脚本・田渕久美子、演出・山田和也のタッグのもと、お互いを思いやる優しい心であふれた温かい物語を紡ぐ。

共演の山口、浦井に話を聞いた。

家族とは? 大事な人たちともう一度巡り合う作品

ーーまずは今回『家族モドキ』という作品での共演になります。おふたりが演じられる役について、それぞれどのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか?

山口 2020年から始まったコロナ禍。特に田舎から上京してきた学生さんにとっては辛い時期でしたよね。学校に行こうにもアルバイトに行こうにも、はたまた劇場に行こうにもどこも開いていない。家に帰ろうものなら「あなたが東京へ行ったことはみんな知っているから、絶対に帰ってこないように」と突っぱねられるというね。

この間、『キングダム』の公演で札幌に行ったんです。そうしたら、この3年間で初めてじゃないかな。飛行機の座席も満席だったし、空港から駅に行く電車の中も混んでいて、マスクはしていましたけど、みなさん楽しくお話しされていたんですよ。ああ、コロナ禍以前の世界に、完全ではないにしても戻ってきているのかなと思いました。そんな今の時期に、この『家族モドキ』です。みんなが忘れかけていた、〈家族〉や〈仲間〉や〈恋人〉や〈同窓生〉といった大事な人たちともう一度巡り合える作品。今だからこそ上演する意味があるのかなと思います。僕が演じるのは父・高梨次郎。この多様性が尊重される時代でも『家族とはこういうものだ! 父親とはこういうものだ!』とひとりで言い張っているような親父です。本当は、父としての思いやりや温かい心ももっているのかもしれませんが……そんな父親を演じます。

浦井 僕は、その祐さん(山口祐一郎)が演じる父・高梨次郎と、大塚(千弘)さんが演じる娘・民子との間に入っていく役柄。渉は民子の大学時代の先輩になります。作品の中ではいろいろなことが起きて、いろいろな関わり方をしていくので、『家族とはなんだろう?』とお客様と一緒に考えていけるような役割を担うんじゃないかなと、現時点では思っています。

ーー浦井さんは保坂さんと夫婦役ですね!

浦井 はい。最初は驚きましたし、『え、浦井でいいんでしょうか……』とも思いましたが、夫婦役ができることを光栄に思っています。人生の縮図が詰まっている脚本ですが、その中でこの夫婦が担うものも大きいと思うので、誠実に向き合っていけたらと思います。

ーー一方の山口さんは、大塚さんが娘役です。何度か共演もされています。

山口 はい。最初に大塚さんにお会いしたのは、彼女が高校生のときかな。ご両親がいらっしゃって「娘をよろしくお願いします」とご挨拶いただきました。なので、僕も冗談で「え、僕でいいんですか?」と返したら、お母様が「はっ?」と(笑)。お父様が笑ってくださって冗談が成立したからよかったですけどね(笑)。そんな思い出が蘇りましたが、あれから二十数年経ちました。それから保坂さんは、彼女が劇団に来たときから知っていますので、そういう意味だと40年ほど。浦井さんとも、彼がデビューしたときからご一緒させていただいています。

この『家族モドキ』の「モドキ」というのは、「家族のような」というね。ただただこのお仕事のために集まって、お互いのこともあまり知らずに、仕事が終わったらさようなら……というのではなくて。お互いが同じ場所でいろいろなことを経験して、またそれぞれ離れたところで経験を重ねて、また集まってきて……まさに「家族モドキ」。ご縁ですよね。

浦井 お話を聞いて改めて感じましたが、ミュージカル界のキングである山口祐一郎さんは、ずーっと見守ってくださっているんですよ。第一線を走っていらっしゃる先輩なのに、こんなにフレンドリーと言いますか、みんなのことをいつも見守りながら、引っ張ってくださる。またこうしてご一緒できること、嬉しいし、幸せだなぁと思います。

より魅力的な一瞬一瞬を

ーー浦井さんは『キングアーサー』、山口さんは『キングダム』という“歴史もの”に出演されて、今回は現代劇です。何か違いを感じる部分はございますか? 意外と違いはないものですか?

浦井 うーん……何かありますかね?

山口 ついつい芝居中に、そのようなタッチになってしまったりしてね(笑)。

浦井 あはは、突然、刀を振り回さないでくださいね(笑)。

山口 『キングダム』を振り返ると、殺陣がとにかく大変で、みんなギリギリのところでやっていたんですよ。。でも、回を重ねるごとに、その殺陣がリアルになっていって、呼吸のタイミングまで合わせられるようになっていって……。毎年人口が減っている、この小さい島国ですが、ただただ衰退するわけではなくてね、そこにいる一人ひとりは自分の仕事に矜持を持って、真摯に真面目に向き合っている。素敵な若者がいっぱいいるんだと証明してくれた気がするんですよ。『キングダム』でたくさんのエネルギーをいただいたので、この『家族モドキ』では、古典とか現代劇とか映像とか舞台とか、そういう区別に拘束されずに、より魅力的な一瞬一瞬を作っていきたいと思います。今回出演する俳優は、その創作ができるメンバーだと思っていますから。

ーータイトルにちなみ、おふたりにとっての「家族」とは? もしくは「家族モドキ」で連想されるものがあればぜひ教えていただきたいです。

浦井 ミュージカル界ってちょっと家族的なところがあるような気がするんですよね。山口さんを始めとした諸先輩方、我々の世代、そしてその下の若い世代がいて、互いを意識したり、見守ってくれたりしている。プロデューサーさんも含めて、これからの日本のミュージカルのあり方を考えている意味でも『家族モドキ』だなと感じます。

山口 『家族モドキ』って、とてもチャーミングネーミングですよね。作家の田渕先生は本当に予言能力があるかのようだなと思うんです。戦後、核家族というものが理想とされてきたけれど、その〈あるべき姿〉がだんだん崩れていき、現代はまさに不確実で、多様性を尊重する時代になっている……。この作品を通して、改めて「家族とは何か」を考えてみようよと言われている気がします。4人が織りなす楽しいお話です。劇場でお待ちしています!

取材・文:五月女菜穂 撮影:源賀津己

<公演情報>
『家族モドキ』

2023年7月26日(水)~2023年8月13日(日)
会場:東京・シアタークリエ
東京公演終了後、大阪(8/18~20・サンケイホールブリーゼ)、愛知(8/24・刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール)にて上演

《あらすじ》
その日、高梨次郎(山口祐一郎)はリビングで立ったり座ったり、落ち着きがなかった。おまけに、ひとりの若者が、何度も窓から室内を覗いてくる。次郎はその若者を呼び止め、人の家を覗く無礼をたしなめる。彼は木下渉(浦井健治)と名乗り、次郎の一人娘・民子(大塚千弘)の大学時代の先輩だという。渉を家の中に引き入れる次郎。実はその日、民子が久しぶりに家に帰ってくることになっていたのだ。数年ぶりに父と娘は再会を果たすも、予期せぬ事実が発覚し、次郎は混乱。そして渉の妻・木下園江(保坂知寿)が現れて――。

チケット情報
https://w.pia.jp/t/kazokumodoki/

右より)山口祐一郎、浦井健治