コロナ禍を機にスタートアップへの転職を希望する人が増えているといいます。その背景には、変わりゆく社会に取り残されないよう今から準備をしておきたいという思いがあるようです。本連載は、株式会社アマテラスの代表取締役CEO・藤岡清高氏の著書『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』(東洋経済新報社)より、一部抜粋転載してお届けします。

「戦略的リスキリング」とは

新たなスキルを身につける 「リスキリング」(学び直し) が注目されています。

社会人になってから新たに「成果を出せるスキル」を身につけるのは容易ではありませんが、「無料副業」 という方法があります。報酬はないけど経験を積めるという「無料副業」の人気が高まっています。

どうしてもいまの社内では希望するスキル獲得が難しいということであれば、外に向けて行動を起こしてみましょう。

僕の知人Sさんも、実際に「無料副業」をテコにキャリアアップしました。

SさんはIT企業で、ウェブマーケティングを活用した「集客」の仕事に携わっていました。「将来は地方創生に関わる仕事をしたい」と考えているものの、いまの仕事は地方創生とはまったく関係のないものでした。

そこで地方創生に関する「無料副業」を始めたのです。

はじめは山梨県の某自治体の、観光客を増やすためのマーケティングをする「無料副業」に参加しました。報酬はゼロなのに何百人もの人が応募してきて、受かるのは3〜4人という人気ぶりでしたが、Sさんはウェブ集客のスキルを買われて採用されました。

Sさんはこの副業を通して、地方創生に関わる仲間とのネットワークを広げていきます。1年後には一定の成果を出すことができ、自分のキャリアに「地方創生マーケター」という「タグ付け」ができるようになりました。

すると、そこで得たネットワークを通じ、「北海道の某自治体の集客プロジェクトに有償で参画しないか?」と声をかけられたのです。

こうしてプロジェクト経験を積み重ねて、Sさんは地方創生人材としてリスキリングに成功しました。

そうした 「無料副業」をいろいろと手掛け、「成果を出せるスキル」としてリスキリングしていけば、スタートアップ転職時にアピールできる武器になるでしょう。また自分のスキルを社外にさらけ出してみることで、自分の客観的な評価を知ることもできます。

こうした戦略的な行動をとることで、自分のスキルを「売れる形」に育てていくことは可能です。

その副業ではお金をもらえなくても、自分の市場価値が高まるような経験ができるのであれば、やってみる価値はあるでしょう。

「人生100年」という長距離レース。転ばぬ先の杖としての「副業のすすめ」

国内で「45歳定年制」が話題になりましたが、カイシャが従業員を守りつづけるのはもはや限界です。

「人生100年」という長距離レースを戦う私たちは、カイシャに安定を求めるのではなく、自らを安定させる時代です。1社のみに属していると、そのカイシャにとらわれて保守的になってしまいます。

本業のカイシャで思うようなキャリアを歩めないのであれば、「副業先でその経験を積めるようセーフティネットを敷いておく」 という発想が求められます。そして、セーフティネットは1枚よりも2枚、3枚と多いほうが安全です。

複数の副業先を確保しておくことで、キャリアが断絶するリスクを減らすことができますし、「いざというときに副業を本業に置き換える」という備えにもなります。

副業を持つことで回避できるリスク

たとえば、いまいる会社でマーケティング畑でのキャリアを一貫して歩んできた人が、45歳になりカイシャ都合で管理部門に回されてしまっても、副業先でマーケティングスキルを活かした仕事ができていれば、キャリアを断絶させるリスクを回避できます。

また、自身のスキルがAIなどのテクノロジーで陳腐化しても、「無料副業」などで戦略的リスキリングをしておくことで、スムーズにキャリアシフトしていくことができます。

定年や肩たたきにあってから新しいことをしようとしても、摩擦係数が大きく心理的負担も膨大です。バリバリと成果を出しているキャリアハイのときこそ副業を始めるベストタイミングなのです。実際に本業で所得が高い人ほど、副業の所得が高い傾向があります。

そして本業の専門性が高いほどリスキリング、ネットワーク構築など「染み出し」がスムーズに進みます。

かくいう僕も、アマテラスのオウンドメディアのCEOインタビュー記事閲覧数の高まりを受けて、CEOをより魅力的に撮影しようと、ズブの素人からカメラスクールに通い、いまはプロレベルのクラスでカメラの腕を磨いています。

キャリアが垂直的だったこれまでは、60歳までにどこまで出世の階段を上れたかが成功の指標でした。これからは60歳以降に持続可能な仕事がどれだけあるかがビジネスパーソンの成功の指標になってくるのではないでしょうか。

人生という耐久レース、転ばぬ先の杖として、声がかかるうちに副業をしておくことをおすすめします。

藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役CEO

(※画像はイメージです/PIXTA)