宮市亮はいつだって全力だ。ピッチで戦うその姿は、見る人を勇気づける。

 6月24日に行われた明治安田生命J1リーグ第18節でサンフレッチェ広島横浜F・マリノスが対戦。40分にFWエウベルがドリブルから鮮烈なゴールを決めて、アウェイの横浜FMが1-0で勝利した。宮市は68分に途中出場。ピッチに立った直後は広島に押し込まれる時間帯だったが、その中でも自分の持ち味を発揮した。

 78分、最終ラインのDFエドゥアルドが左サイドで前線に鋭いパスを送ると、これを受けた宮市はボールをスルーし、パスの勢いを利用して前を向く。対峙した相手DF住吉ジェラニレショーンも高い身体能力を誇るが、「もう一体対一の状況だったし、エドゥからも速いパスが来たので、これは(ボールを前に)流していけると思った」と果敢な駆け引きとスピード勝負を仕掛けた。

 力強く左サイドを突破すると、敵地に集まったサポーターのどよめきが起きる。そのままペナルティエリア内に持ち上がり、「パスの方が確実だと思った」とシュートではなく折り返しを選択。反応したFW植中朝日のシュートは惜しくも相手GK大迫敬介の好セーブに阻まれたが、宮市は武器のスピードを生かして決定機を作った。「求められている役割はああいうところ。最後にゴールにつながれば良かったけど、いい感じでチャンスを作れたと思う」と振り返った。

 宮市は昨年7月に日本代表として出場したEAFF E-1サッカー選手権の韓国戦で右ひざを負傷。自身3度目となる前十字じん帯断裂の大ケガを負った。一度は引退も頭をよぎったというが、懸命にリハビリを続けて、5月のJリーグYBCルヴァンカップ・グループステージ第5節の北海道コンサドーレ札幌戦で約10カ月ぶりに復帰を果たした。

 カムバック後は広島戦を含めて公式戦7試合に出場し、すでに2ゴールを記録。まだプレー時間は長くないが、「徐々に試合にも使ってくれているので、感覚的にも取り戻していると思う。リハビリがうまくいって、いい感じで戻って来られたので、まだスピードが上がっていく感覚はありますね」と手応えを口にする。

 ただ、あまり結果に欲張り過ぎず、試合で自分ができることを精一杯やる。その姿勢は変わらない。ピッチに立てば、「プレー時間も限られているので、チームの勝利により貢献できるように、締めるところは締めたり、守備から入ったり、いろんな役割を整理しながらやっています」と目の前のタスクに集中している。

 再び宮市のピッチでの時間が動き始めた。これまでのキャリアはケガとの闘いが長かったぶん、まだ成長の伸びしろはあるはすだ。30歳になったが、選手としてのピークは先。そう信じて立ち止まらない。

「自分で限界を作ってしまったら退化していくだけなので、『常に一歩でも前に』っていう姿勢でやらないと成長はない。現役でいる以上は、ずっと成長し続けるために毎日頑張るだけですね」

 幾多の困難に直面してもなお前を向き、ピッチで常に全力で戦う。そんな勇姿が誰かの力になる。

「(宮市の)ゴールは率直に嬉しかったです」。そう語るのは広島のFW満田誠だ。今季から11番を背負うエースは、5月7日に行われたJ1第12節のアビスパ福岡戦で負傷。右ひざ前十字じん帯部分損傷のケガで離脱中だが、横浜FM戦の前日に宮市について話してくれた。

「自分とは比べ物にならないぐらい大ケガを繰り返しているのに、またケガから戻ってきて素晴らしいパフォーマンスができているのは自分の支えになりましたし、自分も嬉しかったです」

 2人は昨年7月の日本代表で交流がある。宮市が10年ぶりの代表復帰を果たし、満田が初招集を受けたときだった。そのときの縁から、満田がケガをしたあとも2人の間でやりとりがあったという。

 宮市は、「彼が前十字じん帯をやったときは心が痛みましたし、代表で一緒にやらせてもらった仲なので、同じケガで悲しい気持ちになりました。でも僕は1回ではなく、数回やっているので、何か少しでもいい影響を与えられたらいいなと思って連絡を取りました」と明かす。

 満田も、「(ケガ後に)メッセージをくれて『お互いに頑張ろう』って言ってくれました。リョウくんが復帰したときも、ゴールしたのもすごく嬉しかったですし、自分もメッセージを送りました」と先輩の姿が励みになったという。

 復帰に向けて取り組んでいる満田はケガから約1カ月半が経ち、今月21日からスプリントを始めた。まだ80パーセントほどの出力で、「怖さと痛さが出ないぐらい。自分のできる範囲内で走っている」という。順調にリハビリを続けているが、「自分も『これぐらいの時期にこれができる』っていうのが全然わからないので、そこは経過と自分の感じ方次第ですね」と説明した。

 復帰への道は自分と向き合う時間が長くなる。経験者の宮市は、「しっかり自分と向き合って乗り越えれば、強くなって帰ってこられるケガなので、自分と向き合ういい機会だと思う。すごく焦ってしまう気持ちはあると思うけど、地道にやってほしい」と力を込める。

 満田自身も「焦りすぎず、自分が今できることをやるしかないんで、ピッチ上は他の選手たちに任せて、自分は自分のことに専念したい」と地に足をつけて取り組んでいる。

リハビリ中にきついことはあるけど、たくさんの方が応援してくれて、支えてくれている。自分に今できることはファンサービスとか、スポンサーの方々への挨拶とかしかない。あとはリハビリをしっかりやって戻ってくることぐらいなので、今できることを自分はやるだけだと思う」

 今できることを全力で取り組む。その先にサポーターと喜び合える未来がある。宮市は前節の柏レイソル戦で劇的な決勝ゴールを決めて勝利に貢献。復帰後初ゴールとなり、得点後は一直線にゴール裏のスタンドへと駆け寄ってサポーターたちと一緒に喜びを爆発させていた。

 そのシーンを見た満田は、「昨年加入してあれだけサポーターの方々に愛される選手はそういないと思う」と感動していた。「ケガをしても全力でプレーして、しっかり結果を残すことができるから、ファンからも愛されて、宮市選手もファンに対してああいう行動ができるのかなと思う。自分なんかまだまだなので、リョウくんに負けないように頑張ります」

 宮市はそんな後輩に期待を込めたエールを送る。「本当に長い間サッカーから離れるけど、必ず戻ってこられるケガではある。僕以外にも先駆者はいろいろいるし、少しでも刺激を受けて取り組んでほしい。満田選手も素晴らしい選手なので、さらにパワーアップして帰ってくるのを楽しみにしています」

 また大ケガを乗り越えた宮市亮と、その姿に復帰への刺激を受けた満田誠。同じピッチで戦う日が待ち遠しい。そのとき2人は全力でぶつかり合うに違いない。

取材・文=湊昂大

試合前、言葉をかわす宮市(左)と満田 [写真]=J.LEAGUE