立食形式や安価な料金設定のみならず、注文に応じた量り売りをしてくれる点も斬新。一瀬社長は目の前で分厚いステーキがカットされていくエンタメ性にもこだわりがあるという
立食形式や安価な料金設定のみならず、注文に応じた量り売りをしてくれる点も斬新。一瀬社長は目の前で分厚いステーキがカットされていくエンタメ性にもこだわりがあるという

本格ステーキを立食メインで、リーズナブルに提供する斬新なスタイルで人気を博したチェーン店、いきなりステーキ。2013年の創業以降、驚異のスピードで成長し、19年末には500店舗に到達しかけたものの、そこから成長は右肩下がりで、店舗数も激減。

一時は破産寸前とまで報じられたこともあった。そんな、いきなりステーキも今年で創業10周年。激動の10年とこれからの展望を、創業社長・一瀬邦夫氏の長男であり、昨年8月より2代目社長に就任した一瀬健作氏に聞いた!

【写真】高コスパないきなり!ステーキの定番メニュー

■社長の電撃交代劇の裏側とは?

――社長就任はいつ決まったんですか?

一瀬 就任以前から、いつ引き継ぐかは、たまに話していました。父である前社長からすると、少しでも業績のいいときにバトンタッチをしたいのが、経営者、そして親心としてあったと思います。復調の兆しが見えた昨年8月のタイミングでした。

取締役会の終了後、突然、社長就任を伝えられました。驚きはありましたが、「どうしよう」という困惑よりも、「やってやる」という気持ちが強かったです。

――前社長時代から、何か変化したことはありますか?

一瀬 前社長の時代は商品開発など、前社長の独創的な発想頼りで行なっていました。一方で私は従業員さんやお客さまの意見をこれまで以上に聞いて、市場動向調査やお客さまの意見などをより重視する経営を心がけています。トップダウンからボトムアップということですね。

「いきなり!ステーキ」かつて大ブームを巻き起こすも経営危機で店舗数は激減
いきなり!ステーキ」かつて大ブームを巻き起こすも経営危機で店舗数は激減

――社長から見て、前社長はどういう方でしたか?

一瀬 私が子供の頃から、洋食屋を経営していて、常にお客さんをどう楽しませるのかを考えている人でした。当時、出前は今ほどなかったので、洋食屋がバイクに荷台をつけて、出前を始めたのは斬新だったと思います。

店名の書かれたのぼりをバイクに立てて走りながらの宣伝という、当時では珍しいアイデアを実行するなど、挑戦的な人であることは幼少期から感じていましたね。

「馬上行動」という、馬に乗り、走りながら考え、行動するというポリシーに則(のっと)っていて、何事もいいと思ったことは、明日すぐやるぐらいのスピード感で動く人でした。

――親子で働くことに難しさはありましたか?

一瀬 多少はありますよ。ブレーキ役でなければいけない場面もあるんですけど、やはり前社長は推進力が強い人なので。無理に止めるというよりは、リスクの話、デメリットの話をしっかりして、それを踏まえた上で、正しい最終判断をしてもらえる状況づくりを心がけていました。

前社長は会社の推進力で、私はその調整をする。うまく補い合いながら、二人三脚で動けていました。これから、その両輪をひとりで担うことになるのは少し大変だと思っています。

7月24日までの期間限定で販売されているイチボステーキ150g1290円(税込)。牛1頭から2㎏しか取れない希少部位だ!
7月24日までの期間限定で販売されているイチボステーキ150g1290円(税込)。牛1頭から2㎏しか取れない希少部位だ!

――飲食業界に入ることはいつ頃から考えていましたか?

一瀬 子供の頃から、父と母で店をやっていて、簡単な調理や出前、片づけは手伝っていたので、物心つく頃には、自分もコックさんになるんだろうなとは思っていました。

そこから、20歳になるタイミングで、修業に出ました。前社長が参加していた全国の飲食店の勉強会で、会長を務めていたハンバーグチェーン「さわやか」の富田社長(現・会長)が全国の飲食店の息子さんを受け入れていたので、自分も4年間働かせてもらいました。

――後に入社されたペッパーフードサービスではどういった業務をしていましたか?

一瀬 1999年に入社して、当時の主力事業だった飲食チェーン「ペッパーランチ」の歌舞伎町店の店長として配属されました。

それから、スーパーバイザーとして、フランチャイズの新店舗立ち上げをサポートしたり、開発部で新たな出店先を探したり、システム本部長として社内システムの整備も行ないました。2011年からは、管理本部で財務、経理、人事等の担当を昨年8月までして、現在に至ります。

■社長が語る凋落のワケ

――ここからはいきなりステーキの10年についての振り返りをお願いします。

一瀬 まず、いきなりステーキの構想は、前社長の「ステーキをより安く、リーズナブルな価格で食べてもらいたい」という思いがきっかけでした。飲食店の原価率はだいたい30%程度に設定されるのが常識ですが、前社長が提案してきたのは原価率70%。正直、そのような商売は聞いたことなかったです。

それでも、お客さま数を確保して、一定の客単価を取れれば、粗利高でしっかりと商売が成り立つのではないかと。問題を詰めていくほど、前社長はその改善案をしっかり考えてきたんです。

当時「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」が全盛期だったので、立食の形態で回転率を上げながら、高付加価値のものを低価格で提供するビジネスはステーキに置き換えてもできるんじゃないかということで、いきなりステーキは始まりました。

いきなりステーキの定番メニューといえばワイルドステーキ150g1090円(税込)。使用部位は肩ロースで圧倒的な高コスパを誇っている
いきなりステーキの定番メニューといえばワイルドステーキ150g1090円(税込)。使用部位は肩ロースで圧倒的な高コスパを誇っている

――その後は、順調に成長していきますよね?

一瀬 13年の開業から、年々店舗を増やしていて、撤退店舗もなく、赤字店舗もない状況でした。17年5月には、東証マザーズ(現・グロース)から東証2部(現・スタンダード)に市場変更して、同年の8月には東証1部(現・プライム)に昇格しました。当時は株価も非常に上がって、いきなりステーキはまさに全盛期でしたね。

――そこから、何が起きたのでしょうか?

一瀬 ターニングポイントになったのは、18年の1年間で新店舗を200店オープンするプロジェクト。これに関しては、社内でもいろいろと議論されました。問題は立地です。とりあえず、200店という目標を優先するのか、立地にこだわり、丁寧な新店舗の立ち上げを行なっていくのか。

結局、当時は1店舗出せば、大きな利益が出ていたので、多少立地に問題があっても200店舗の出店を最優先に、目標達成を目指していくことになりました。

お店を出し続けるということは、出店のコストもかかる。営業利益は上がっていくけど、設備コストもかかっているので、純利益はそこまで出ないんです。ただ、順調に営業利益は積めていたので、純利益も後からついてくると見込んでいたんですね。

いつかは利益回収のフェーズに入る必要がありましたが、その時期の見極めと、出店地の選定がやはり甘くなり、どこに出してもお店が繁盛していた故に、同じエリア内に2店舗出して、自社競合なども起こりました。

そこに、コロナも合わさって、大打撃を受けました。結局新規出店のために調達した資金の返済や、大きくなってしまった会社の管理費をうまく処理することができなくなってしまったんですね。

1g11円でオーダーカットに対応しているリブロースステーキ。イチボやワイルドステーキに比べるとやや高額だが、お値段以上の肉厚感を堪能できる
1g11円でオーダーカットに対応しているリブロースステーキイチボワイルドステーキに比べるとやや高額だが、お値段以上の肉厚感を堪能できる

――閉店ラッシュの背景にはそんなことが。

一瀬 最終的に、会社の祖業であるペッパーランチを分社化、その株式を売却した資金で、事業構造改革を進めたのが、20年の話です。創業当初から、会社の成長を支えてきた事業の売却は、痛みの伴う決断でしたね。

――しかし、昨期の報告書には今年が「新生の年」だという内容がありました。

一瀬 事業構造改革でリストラ、経費削減、事業の見直しをコロナ禍においても着々と進め、今は適正な店舗数に戻すことができました。収益の安定化は目前です。今年から行なっている、新たな資金調達も順調で、コロナも今年5月から5類に移行しましたよね。

去年の12月からはインバウンドも戻ってきて、お客さま数は着実に伸びています。今こそ再び、おいしくてリーズナブルな牛肉を多くの人たちに届けるチャンスだと思っています。つまり、10周年を迎える記念すべき年に、逆襲の準備は整ったんです!

食べた肉のグラム数に応じて、お得なサービスを受けられる肉マイレージシステム。中には月1万gを食べる猛者もいるらしい......
食べた肉のグラム数に応じて、お得なサービスを受けられる肉マイレージシステム。中には月1万gを食べる猛者もいるらしい......

――これからは海外戦略もお考えになられているんですよね?

一瀬 はい。例えば、東南アジアを中心とした海外進出。昨年12月にオープンしたフィリピン1号店の売り上げも、おかげさまで好調です。東南アジアでは、日本と同じくステーキ=ご褒美、高級品のイメージが強いので、逆に安価で手軽なステーキを提供できれば、勝機はあると踏んでいます。

すでに、一部の国では出店が決まっており、フランチャイズの問い合わせも殺到しております。ぜひ国内国外ともにいきなりステーキ今後に期待していてください!

一瀬健作社長
一瀬健作社長

●一瀬健作(いちのせ・けんさく)
1972年生まれ。株式会社ペッパーフードサービス代表取締役社長CEO。創業社長である一瀬邦夫は父。幼少期から飲食店で働く父を見て、飲食業界で働くことを志す。1999年11月に入社、その後、取締役ペッパーランチ運営部長を経て、2012年からはCFOとして会社を財務面から支えていた。昨年8月、社長に就任。趣味はアニメ鑑賞

撮影/榊 智朗

立食形式や安価な料金設定のみならず、注文に応じた量り売りをしてくれる点も斬新。一瀬社長は目の前で分厚いステーキがカットされていくエンタメ性にもこだわりがあるという