6月上旬に幕を開けた『VALORANT』の世界大会『VCT 2023 Masters Tokyo』。最初の会場となった「TIPSTAR DOME CHIBA」には、平日の試合が多かったにも関わらず連日大勢の観客が詰めかけ、6月24~25日からは会場を幕張メッセに移し、大盛況のうちに幕を閉じた。

【画像】『VALORANT』のエージェントに扮したコスプレイヤーの姿も セージ、ジェット、ヴァイパー、ネオンの美しい立ち姿

 今大会、筆者は韓国語や中国語の語学力を生かして現地取材をしてきたが、最終的に英語圏のチームのみが勝ち残り取材依頼も途絶えてしまった。とはいえ『Masters Tokyo』の決勝戦はこの目で直接見ておきたいと思い、一眼レフを片手に会場へ。運良く現地でリアルサウンドテックの編集担当の方からお声がけいただき、今回の記事を執筆する運びとなった。

 事前に取材準備をしていなかったこともあり、今回は「雑感」という形で綴っていこうと思う。日本やアジアを中心に10年以上、eスポーツを取材してきた多言語ライターが見た『Masters Tokyo』はどんなものだったのか、ひとつの読み物として楽しんでいただければ幸いである。

■eスポーツを愛するすべての人々が紡いできた“夢の舞台”

 『Masters Tokyo』の開催が発表されたのは、昨年12月末に行われたオフラインイベント『Riot Games ONE』のエンディングでのことだった。MCを務めたOooDa氏がステージ上で思わず涙したことで、日本のみならず韓国など海外でも話題になったという。

 韓国メディアのインタビューでOooDa氏は、「僕らも頑張ってきたけれど、支え続けてくれたコミュニティにも感謝している」と自身への応援を含めファンコミュニティに対して感謝の言葉を語っている。「僕ら」とはコンテンツの作り手、「コミュニティ」が受け手と考えて良いだろう。さらに言うなら、『VALORANT』に限らずこれまで「日本のeスポーツを愛するすべての人々」が紡いできた歴史、その積み重ねによって夢の舞台『Masters Tokyo』は実現したと言っても過言ではない。

(参考:Daily eSportsによるOooda氏へのインタビューhttps://sports.news.naver.com/news?oid=347&aid=0000173003)

 長年eスポーツに携わってきた筆者としても、世界大会の日本誘致にはグッとくるものがあった。各タイトルにおける世界大会の主催国として選ばれてきた隣国・韓国を常々羨ましいと思ってきたが、もうその必要はない。いわゆる「Tier1」と呼ばれるメジャーeスポーツタイトルの世界大会開催国として、日本は仲間入りを果たしたのである。

■特殊な日本のeスポーツ 「ガラパゴス化」から「和」の文化へ

 長年コンソール中心だった「ゲーム大国・日本」が、PCゲームから発展したeスポーツにおいて世界から大きく遅れをとったことは、世界標準とは違った独自の道を歩むがゆえの「ガラパゴス化」のひとつとも捉えられている。今回『Masters Tokyo』が開催されたことでようやく世界標準の第一歩を踏み出したわけだが、ここで再び日本の特殊性があらわになった。

 かつて『LoLLeague of Legends)』の世界大会『2018 Worlds(World Championship)』において、優勝候補であり開催国でもあった韓国チームがベスト8で全滅してしまったことがあった。中国vs欧州の対戦カードとなった決勝戦当日、大部分の韓国ファンは現地のことわざから引用した「他人の宴」という表現を用いつつ、静かにゲームを楽しむにとどまった。

 また、今年3月にブラジルで開催された『VALORANT』の世界大会『VCT 2023 LOCK//IN』の決勝戦を覚えている方も多いだろう。地元チーム・LOUDが欧州チーム・Fnaticに敗北したことで落胆した大部分のブラジルファンが試合後早々に帰ってしまい、ガラガラの会場で優勝インタビューに答えるFnaticメンバーの様子が全世界に配信された。

 『Masters Tokyo』は日本チーム出場の可能性がある時期にチケットが発売されたものの、最終的に日本チームの出場は叶わなかった。韓国の例から引用すれば、大会がまるごと「他人の宴」と化したわけである。にもかかわらず、現地は連日大変な盛り上がりを見せた。勝利チームへは最大限の賞賛を示し、敗北チームには温かい拍手を送る。日本人のメンタリティに根付いた、相手を尊重し受け入れる「和」の文化によって、世界標準ではなかなか見られない盛り上がり方をしたのは非常に興味深い出来事だ。

■世界標準の取材環境が日本にやってきた!

 さて、ここからは完全にいちライター目線での話をさせていただきたい。日本のeスポーツが年々発展していく裏で、筆者がこれまで「まったく世界に追いついていない」と感じていたのが「取材環境」である。海外ではプレスルームに机、椅子、電源、インターネット回線が完備されているのが一般的だ。取材に訪れた記者は、プレスルームに設置されたモニターで試合を観戦しつつ記事を書く。ときには朝から晩まで続くような長丁場の取材でも、快適に過ごすことができる空間である。

 一方、日本ではプレスルーム自体がないことも珍しくない。昨年さいたまスーパーアリーナで行われた『VCT 2022 Challengers Japan Stage2』の決勝でさえ、メディアに提供されたのはアリーナの関係者席のみであった。ところが今回は、世界標準のプレスルームがしっかりと用意されていた。

 また今回は、撮影環境も素晴らしかった。ステージを取り囲む柵の前まで行くことができたのは、世界標準の環境と言って差し支えが無いだろう。じつは日本だと、お客さんの邪魔にならないよう後方から撮影するよう指定されるケースが多い。

 とはいえ、同時に今回の『Masters Tokyo』の撮影環境は、決して100点満点とはいえなかったとも感じる。最終日、Fnaticの優勝が決まる直前にファンが会場前方に殺到し、ステージの柵前で待機していたメディアが興奮した群衆に巻き込まれ、危険にさらされたからである。

 筆者がいたあたりでは、屈強な外国人警備員が倒れかけの柵を支えてくれて事なきを得たが、一歩間違えれば韓国・梨泰院で発生したような雑踏事故にも発展しかねない状況であった。警備や安全対策に関しては日本はかなり優秀だと思うので、海外の良い点と日本の良い点を上手く取り入れて、日本のみならず世界規模で今後改善してもらえることを期待している。

■『Masters Tokyo』に集結した各国のメディア

 最後に記録がてら、『Masters Tokyo』を訪れたメディアについても書き残しておきたい。もちろん一番多かったのは日本のメディアであり、ゲーム関連のWEBサイトはもちろん動画サイトテレビ局、新聞社、ビジネス誌など多方面から取材陣が集結。さらに日テレeスポーツ番組『eGG』からA.B.C-Zの五関晃一さんが決勝戦の取材に訪れていたり、中国で活躍中のドキュメンタリー監督・竹内亮さんがグループステージで中国チームを取材していたりと、普段なかなかお目にかかることのないような方々をプレスルームで拝見したのはとても不思議な体験だった。

 海外メディアのなかで一番多かったのは、韓国だったと認識している。韓国はeスポーツ文化が20年以上前から定着しており、取り扱うメディアが多いことにくわえて、地理的にも近いことや、90日以内の滞在であればビザが不要なことなど、さまざまな条件が重なった結果、15名近くの報道陣が駆けつけた。同じぐらい多かったのが中国メディアなのだが、ビザの期間が15日間ということでほとんどのメディアがなんと決勝戦当日に帰国してしまった。中国チームへの取材が中心の日程で、決勝戦よりも開幕戦に重きが置かれた結果と言えるだろう。

 その他の地域は1~2名ずつといった感じだが、インドネシアシンガポール、アメリカやヨーロッパなど勝ち進んだチームの地域のメディアがしっかりと取材をおこなっていた。少し驚いたのが台湾、インドフィリピンなど、今大会に出場していない地域のメディアも会場を訪れていたこと。想像をはるかに超えて、世界中の人たちがここ日本に目を向け、それぞれの言語を通じてこの『Masters Tokyo』を楽しみ、一大イベントとして報じているのだ。世界大会が開催されるということはこういうことなのだと、改めて実感させられた。

 最後に、リアルサウンドテック編集部でも当日筆者とともに取材した三沢氏がレポート記事を掲載しているので、そちらもあわせて是非ご覧いただきたい。

〈VCT Brand Logo:2023 Riot Games, Inc. Used With Permission

(取材・文・写真=スイニャン)

幕張メッセで開催されたVALORANTの世界大会『VCT Masters Tokyo』