北朝鮮金正恩総書記は、2021年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第4回総会で、農業問題に力点を置いた「新しい社会主義農村建設綱領」を発表した。農業問題に力を入れるとし、その一環として、都市部とは天と地ほどの生活水準の差がある農村の開発に力を入れるとした。

また、昨年末の第8期第6回総会でも、農村での住宅建設を主要課題として取り上げ、計画の達成を促した。さらに6月の第8期第8回総会拡大会議で示された成果を、国営の朝鮮中央通信は以下のように報じている。(一部抜粋)

建設部門で、和盛地区第1段階1万世帯分の住宅建設を成功裏に竣工(しゅんこう)したのに続いて、追加された2000世帯分の住宅建設を終え、大平地区の1400世帯分の住宅建設を締めくくったし、新しい農村を連続建設して全国の人民に喜びと信念を与えている。

現在、和盛地区第2段階1万世帯分の住宅建設と西浦地区の新しい市街の建設、江東温室農場の建設、検徳地区の住宅建設も力強く推進されている。

農村住宅の建設に力を入れるのは、住宅建設が都市部、中でも首都・平壌にばかり集中し、ただでさえ遅れている農村部が疎外されているという不満を意識したものだろう。また、終わりのない貧困から抜け出すために、農村を後にする人が増え、労働力不足に陥っていることも関係していると見える。

しかし、建設は遅々として進んでいないようだ。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

朝鮮労働党平安南道委員会で6月初めに行われた田植えの総和(総括)で、農村振興策として計画された住宅建設についての議論が行われたが、計画のわずか10%しか進んでいないことが明らかにされた。

平安南道当局から支援を受けて建設を行ったところを除けば、ほとんどが基礎工事しかできておらず、中にはそれすら始められていないところもある。

その原因は資材と設備の不足だ。情報筋は、「道内に順川(スンチョン)セメント工場を擁する平安南道がこのくらいなら、他の道はもっと深刻な状況にぶち当たっているだろう」と推測した。

両江道のデイリーNK内部情報筋は今年2月、朝鮮労働党両江道委員会が、住宅建設を各企業所に丸投げしたが、支配人たちは、慢性的な資材と労働力不足で建設を進めようがなく頭を抱えていると伝えた。普天(ポチョン)郡の住宅建設を任された恵山(ヘサン)市の企業所の支配人は、資材と労働力、食糧不足の解決策が見つからず辞任し、別の企業所の支配人も、1月末に健康問題を言い訳にして辞表を提出したという。

情報筋は、「このままでは掛け声だおれに終わってしまう」「実質的な計画を立てるのが重要」と指摘しているが、平壌のタワマンには、国が輸入した資材を惜しみなく使っているのに、農村住宅建設は地方に丸投げされ、無い無い尽くしの状態で放置されている。

とりあえず地方優遇策を取ってみたものの、結局は平壌や大都市を優遇するという国の姿勢は、北朝鮮国民に見透かされているに違いない。かくして「国土のバランスの取れた発展」は、夢のまた夢に終わってしまうのだろう。

三池淵郡内の建設現場を現地指導した金正恩氏(2018年7月10日付朝鮮中央通信より)