6月24日に放送された第13話で最終回を迎えたTVアニメ「天国大魔境」(ディズニープラスで配信中)は、原作の魅力と制作陣のこだわりや情熱が作品の至る所に現れ、そのクオリティーの高さがコアなアニメファンの心をガッシリとつかんだ。毎週Twitterのトレンドを席巻する…といった派手な話題にはならなかったものの、アニメ好きにはしっかりと魅力が伝わっており、「今期ナンバーワン」に挙げる声も少なくない。(以下、作品全体のネタバレを含みます)

【写真】怖過ぎっ!人間を襲う化け物ヒルコ

■「このマンガがすごい!2019」オトコ編第1位の話題作

同作は、「月刊アフタヌーン」(講談社)で2018年から連載されている石黒正数による人気漫画が原作。連載開始直後から話題を集め、2018年12月には異例の速さで「このマンガがすごい!2019」オトコ編第1位にランクインした話題作だ。

未曾有の大災害から15年後、廃墟となった日本の地には“人食い(ヒルコ)”と呼ばれる異形の化け物が巣食い、人々は細々と身を寄せ合って生きていた。東京・中野で便利屋を営むキルコ(CV:千本木彩花)は、マル(CV:佐藤元)を「天国」に連れて行く、というボディーガード依頼を引き受け、マルと共に「天国」を探しながら旅していた。一方、壁に囲まれた美しい世界で暮らす子どもたちの一人、トキオ(CV:山村響)は「外の外に行きたいですか?」という謎のメッセージを受け取ったことをきっかけに、当たり前の日常に違和感を抱き始める、というストーリー。

キルコとマルが生きる大災害の後の荒廃した世界と、管理されており閉塞的だがどこか幸せを感じられるトキオが暮らす施設のある世界の2つ世界のつながりや、ヒルコという存在について、キルコが抱える秘密、マルの能力など、謎が謎を呼ぶストーリー展開に、第1話放送後から考察するファンも多数出現。話が進むにつれて明かされる謎もあれば、新たに発生する謎もあり、最終話後にも考察大会は続いた。

■一流のクリエーターによる一流の仕事

また、ヒルコとのバトルシーンやキャラクターの心情を投影した場面のスピード感や画角の表現、合間に差し込まれる暗喩シーンなど、一流のクリエーターたちによる一流の仕事とチャレンジングな姿勢がアニメファンを魅了。

PSYCHO-PASS サイコパス」や「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」など数々の人気SFを手掛けたProduction I.Gによるアニメーションの繊細さに加え、キルコとマルの掛け合いなどコミカルなシーンを混ぜて作品の世界観を暗くし過ぎないようにしていたり、フィクションながら現実世界への皮肉のようなメッセージを盛り込んでいたり、ふとしたシーンで描かれるヒントのような表現など、説明し過ぎない制作陣の各所にちりばめられたこだわりをひもといていく楽しさもアニメファンの心をくすぐった。

さらに、キャスト陣の圧倒的な演技力も人気の一翼を担った。千本木や佐藤、山村といった主要キャラを演じる声優陣だけでなく、磯辺万沙子や中井和哉などの重要なキャラを担当する声優陣の熱演にも多くの視聴者から絶賛の声が寄せられた。

話題性抜群の原作の魅力、コアなアニメファンの心をくすぐる制作陣のこだわり、毎話絶賛されるキャストの演技など、アニメ好きのための作品といえるだろう。

◆文=原田健

「天国大魔境」は、ディズニープラスで全話配信中/(C)石黒正数・講談社/天国大魔境製作委員会