航空会社のCAやパイロット、グランドスタッフといったスタッフのユニフォームは、有名デザイナーがデザインしているものが多数。知っておくと、空港や機内がファッションショーのように感じられるかもしれません。

実は有名デザイナーがデザインしていたエアライン制服

空港や機内で見るCAやパイロット、グランドスタッフなどの制服には、その会社のこだわりがつまっています。国を代表するデザイナーがデザインしたものや、伝統の民族衣装をモチーフにしたもの、会社のコンセプトを表したものなど、見てみると実に興味深いものなのです。そんな制服の一部をご紹介したいと思います。

まず、その国を象徴するデザイナーの制服については、ファッションの国フランスの航空会社「エールフランス航空」を置いては語れません。1963年クリスチャンディオール(敬称略、以下同)や1969年クリストバル・バレンシアガ、1990年代の二ナ・リッチ、2005年から2023年現在も着用されているクリスチャン・ラクロワなど、パリの名高いクチュールメゾンやデザイナーに製作を依頼しており、“世界で最も美しく、エレガントな制服”とも言われます。

また、同じくファッションの国イタリアの航空会社「アリタリア航空」(2021年10月に破綻)も、イタリアの有名デザイナーの制服を着用してきた歴史があります。1969年1972年のミラ・ショーン1991年のジョルジオ・アルマーニ、2018年には同社最後の制服となったアルベルタ・フェレッティなど、こちらも世界的に有名なデザイナーの制服を採用してきました。

なお、アリタリア航空破綻後に新しくできたイタリアの新フラッグキャリア「ITAエアウェイズ」はアリタリア航空の資産の一部を引き継いでおり、アルベルタ・フェレッティがデザインした制服を着用したスタッフを、羽田空港で今も見ることができます。しかし、2022年6月にブルネロ・クチネリ監修の制服が発表されており、順次切り替えられる予定です。

日本のエアラインは?

あともう一つ、忘れてはならないのがイギリスの「ヴァージンアトランティック航空」でしょう。2014年から着用が開始された制服をデザインしたのは、同国を代表するデザイナーでかつては「パンクの女王」と呼ばれたヴィヴィアン・ウエストウッド。この制服は革新的なデザインだけでなく、今ではどの企業も熱心に取り組んでいるサスティナビリティをいち早く重視し、ペットボトルをリサイクルしたポリエステル糸やナノ加工などを採り入れました。

また2022年9月28日には、従業員の性別に応じた制服の着用義務を撤廃すると発表し、性別、性自認、性表現に関係なく、スカートかパンツスタイルか、色は赤かバーガンディーのどちらにするかなど、従業員が自分自身で制服を選択できるようになりました。

ここまで外資系を見てきましたが、日本国内はどうでしょうか。実はこちらも有名デザイナーの制服が並びます。

JAL日本航空)では1967年3月から1987年12月まで着用された3世代の制服を連続して、パリのオートクチュールデザイナーだった森 英恵がデザインしています。1970年からのミニスカートワンピースや、ドラマ「スチュワーデス物語」でも着用された1977年からの紺のワンピースに赤白ボーダーのボディシャツの制服は、今でも記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。その後もJALの制服は稲葉賀恵、丸山敬太などを経て、現在は江角泰俊がデザインしたものを着用中です。

一方のANA(全日空)はというと、こちらも有名な日本人デザイナーである芦田 淳、三宅一生などが手掛けています。大きな区切りとともにデザイン変更されることが多い制服ですが、個人的には1990年からのマニッシュなイメージのストライプのダブルスーツがとても印象に残っています。

民族衣装が制服になっているものも

また航空会社の制服には、その国の特徴を表す民族衣装をモチーフにした制服も多数あります。タイシルクのユニフォームに蘭をあしらった「タイ航空」、アオザイを採用した「ベトナム航空」、サリーをモチーフにした「エア・インディア」や「スリランカ航空」など、特にアジアに特徴的な制服が多い印象です。

中でも一番有名なのが、東南アジアの伝統的なバティック柄(ろうけつ染め)を使用した「シンガポール航空」の制服ではないでしょうか。1968年にパリのファッションデザイナー、ピエール・バルマンによってデザインされ、一度も変更されることなく現在も同じデザインのものが着用されています。

サロンケバヤと呼ばれるこの制服は、サロン(=スカート)とケバヤ(=トップス)に分かれており、既製服ではなく、一人ひとり採寸を行い、オーダーメイドで作られます。そのため少し体形が変わっただけでもすぐ気づくのだとか。同じバティック柄のサロンケバヤの制服は「マレーシア航空」も1986年から着用していますが、こちらはより伝統的なデザインに近いVネックのケバヤになっています。

かつては日本でも、JAL国際線のフライトに和服で乗務するCAがいたそうです。CAにとっては、洋服の制服の着替えの比にならない荷物量になってしまううえ、着替えるスペースなどの問題もあり、現実的にはもう一度復活させることは厳しいと思いますが、そういうお国柄が表れるサービスは素敵だし、体験してみたいなと思います。

このように、航空会社はそれぞれこだわりの制服を使用しています。飛行機に乗る際や空港を訪れる機会があれば、ぜひ注目していただきたいところです。

エールフランスの制服はクリスチャン・ラクロワのデザイン(画像:エールフランス航空)。